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何はともあれ修行でございます

愛知県岡崎に井杭山九品院(お寺)がございます。ここは若い僧侶の修業の場として三河でもあいや日本で有名な名刹でございます。


曹洞宗のお寺さんにひとり息子さんがございました。その息子さんが中学から曹洞宗系学校へ進み将来は仏の道に入るといいます。

「こんにちは。私は寺の息子です。早くえらいお坊さんにならないといけません。壇家さんのご先祖をしっかり守っていかないといけない責任もあります。だから曹洞宗の学校に早くも中学から進み学を詰み徳を得なければなりません」

曹洞の門下僧侶。これから辿る修行の道はかつては父親の副住職も同じだった。

「仏門は厳しいでございます。しっかりやらないといけません」


同じ道を辿った父親は曹洞宗系高校がサッカー名門学園だったから迷わずたま蹴りを入れて。いや仏門に入りながらたま蹴りをしたようです。

「お父さんは副住職はまあ好きでサッカーだったからですね。しかし仏門に球蹴りはまったく関係ございませんよ。曹洞宗の道元禅師はサッカー好きだったのかな?いやいやそんなことはないはずでございます。ちょっと調べてみたいであります。かなりやられておりますね、Jリーガー一歩手前。嘘ですよ」

冗談を軽く言った。しかし気を取り直して曹洞宗門下の中学生は両手を合わせ深いお辞儀をする。


なんとなく僧侶の貫禄が漂う中学の坊主、いや僧侶学生であった。ところで曹洞宗系学園は学生服でも袈裟でも通学できるって本当か。


曹洞宗系中学1年の夏休み前のことだった。副住職の父親に呼ばれる。

「もうすぐ夏休みだね。学校はいまから学業の休息期間になる。しかし、これから仏門に行き徳を高めていかなければならない身分としては修業を積み重ねばならない。多くいらっしゃる壇家さまを見守る責任は高い地位の僧侶の役目であり責任なのだ。夏休みは例外ではない」

中学生僧侶はしっかり正座をし高い地位の僧侶父親の副住職の話をじっと聞いていた。

「ついては夏休みから岡崎の井杭山の九品院に修業に行ってもらう。宗派は異なれど同じ仏門を目指す見習い僧侶がそれこそ日本中から集うところだ。オマエもしっかり徳を積み重ね立派な僧侶を心ざしてもらいたい。そこでだ。ご褒美として新たに袈裟を作ってあげよう。修業により一段と地位の高い僧侶となるわけだから身なりをしっかりしなければならない。ひとつ新調してあげよう。今までは私のお下がりさんばかりだったからね」


普段中学通学で使う袈裟は僧侶仲間にしたら自らの地位の高い低いを、色や、着こなしで判断をされていた。中学の今から袈裟を新調してもらえるとならば同級僧侶生に対してはエリート意識を持つことにもなる。曹洞系中学生は喜んだ。

「父上さまお願いします。井杭山の九品院に僧侶の修業に喜んで行かせてもらいます。有り難きしあわせでございます」

曹洞系中学生は両手を合わせ心から父親副住職を拝んだ。


夏休みには僧侶修業のため西三河の岡崎に行かされた。井杭山の九品院は浄土宗の大樹寺の並びに位置し敷地は同じ境内であった。大樹寺は家康の徳川の菩醍ではなく松平家の菩醍寺。松平のお墓がズラリと八代にわたり霊廟に並ぶ。

「そうかここらは家康さんの菩醍寺なんだね」

岡崎駅から乗った名鉄バスを降りて目の前の大きな寺を眺めてそう思う。


岡崎大樹寺の裏手には中嶋悟の自宅もある。


バス停からトボトボと歩く。大樹寺、大樹寺小学校、保育園、団子茶店と続き、一段とお庭の綺麗なお寺が見えた。

「さてこれが九品院だぞ。しっかり修業しなければなりません」

そのお寺はお庭が綺麗に掃き清められていた。綺麗なお庭を巡り九品院の玄関に行く。

「修行の場とはこのお寺さんなのか。立派なお庭をお持ちだなあ。まず入門前に挨拶しておこうか。

「ごめんなさい。名古屋から参りました。よろしくお願いします」


九品院の修業場には中学〜大学ぐらいの若い僧侶が数人来ていた。全員お寺の息子さん。さらには見事にお寺の息子は息子で長男ばかりだった。お寺の名前を聞けば、おお、すべて有名な名刹ばかり。もちろん曹洞宗の中学仏門生のお寺も古くから続く名刹である。よって仏門各位からは尊敬される中学僧侶であった。偉い僧侶の寺に生まれた中学仏門生はなんせ偉かった。

「修業の僧侶の皆さん有名なお寺ばっかりだ。副住職(父親)の話だと得度(=僧侶の資格)されるまで数年通われる僧侶もいると聞く。大変だぞ、こりゃ」


翌日から始まった九品院の修業。かなりの荒修行かいなと目をつぶったが寺の息子にとってはさしての苦労ではなかった。


朝早くの庭掃除、本堂の埃払い、廊下の雑巾かけ、読経文。

すべてはお寺の若い衆達と一緒に物心つく時からやらされていたことばかり。まったく苦にならなかった。かえって新たなる気持ちで仏さんに接することができて嬉しいくらいだった。


住職になるための経文独唱などは父親の副住職について小学1年から読みこなしていたからほとんど苦にならない。むしろ修業僧侶の中で大学よりも優秀な類いに入ってもいた。曹洞宗経文が本職ではあったが、浄土の読経文もうまいうまい。

「九品院修業は思ったより楽にこなせる。よかった、よかった」


こうして曹洞系中学生は毎夏喜んで岡崎に修業に来ることになる。


その理由のひとつが仏門修行。もうひとつ行きたがる理由ができていた。


岡崎の井杭山浄土宗系九品院の隣に大樹寺の保育園がある。夏休みでも園は子供達を預かりわいわい園児は元気に遊んでいた。


九品院修業僧侶達は慰問の意味で毎週保育園に出かけたのだった。若き僧侶達は保育園慰問が毎回少しの楽しみから大変な楽しみになっていた。


毎年通う中学僧侶生も学年が進み異性を意識する年頃となった。さて楽しみの理由の意味はなにかな。


大樹寺保育園には若い可愛らしい保育士(保母)が毎年採用されていた。

「まあね正直に拙僧も異性が気になる年頃になりました」

お、貫禄が出てきましたね若き僧侶。僧侶は誰もが認めるお年頃になりました。

「保育園慰問は楽しみな修業のひとつです。園児とのふれあいはひと時の憩いの場となっております。だから拙僧は目をつけてしまいました。日本のお寺さんは境内で保育園経営もあることから我が寺でも園を経営したいものです。父上さまに頼んでみたくなりました」

若き僧侶真剣な眼差しで保育園幼稚園経営を視野に入れた。


その僧侶の曹洞宗のお寺は境内でサッカーができる広さがある。副住職は近所の子供さんを集めて球蹴り、いや少年サッカー教室をしていた。

「あの境内を園児に開放したら父親は怒るかな」


若き僧侶生は進級し中学から高校、大学生となっていた。


「夏の九品院には拙僧中学校から来ています。今年がいよいよ最後となりました。来年は20歳でございます。僧侶になるための得度を受けるんです。今までは副住職の責務を補助していた身分でしたがいよいよ一本立ちをいたします。早いもんだそんな年齢なんだなあ」


九品院修行は楽しみながら毎夏行っていたためもうこれでおしまいなのかと思うと一抹の寂しさすら感じてしまう。岡崎にやって来ていろいろ知り合いもできていた。

「そうですね、こちらにはかなりの高僧さまもいらっしゃいました。拙僧には身に余るものでございました」


九品院の大樹寺保育園の研修の思い出はかなりできたね曹洞宗僧侶さん。


「えっ!保育園研修でございますか。よかったですなあ、ハハ。さようでございますな、あえて言わせていただければ園経営したくなりました。ならばお寺の境内敷地に余裕がございましたら、拙寺でも。ただし、これは、拙僧の夢、あくまでも夢でございます」


大樹寺保育園には若い保母さん保育士が、いっぱいいて和気あいあいな雰囲気だった。そしてその園では曹洞宗僧侶は一様に尊敬されていた。


「尊敬をされて。さい、さい、アッハハ、さいでございましたか。拙僧といたしましては、まったく気にもならぬことでございました。そのようなことありましたか。ハハ、まったく、まったく気にもしませんでしたなあ。尊敬されていましたか、ハハ、嬉しいでございますな」


何を隠そう曹洞僧侶門下には園に嬉しい理由があった。


たくさんの保育士、幼児教育実習生が園に実習にやってきた。その中にお気に入りの女性がいらっしゃったのだ。なんとまあ可愛らしいお嬢さんであったことか。


若き僧侶はなんとかかんとか理屈をつけてはいい寄って仲良くなりたいなあと努力していた。


その賢明の努力が実り念願のメールアドレスを交換したのだった。

「え!かような、あららっ、かようなことが、ございましたか?ありましたかな?はて、はて。拙僧あまり多く覚えることが、ああ、ありまして覚えておりません。修行が厳しくも、ありましたから、こまかなことは、覚えていないと申し上げたくぞんじます。わからんなあ、知らんなあ。なんでばれたんだろ」


大樹寺保育園は、幼児学研修学生が、教育実習で来園している。岡崎の保育短や、岡崎出身の女の子たちばかりが勢揃い。


僧侶は、その中の教育実習保育短大生が大好きになってしまった。なんせ若いのがよかったらしい。

「アガ〜アン!いやあーん、恥ずかしいでございます!そんな大好きだなんて。ドヒャアーいやーん。アへへーたあ」


お寺と園はお互いの交流があり新人保育士と修業の僧侶が一緒になることもたまにあった。


若き僧侶は幼稚園保育園に慰問に行くといつも若い保育学生がいるのが気になる気になる、いや保育士さんだけ気になる。


なんとかチャンスを見ては仲良くなりたいと日増しに思うところであった。

「へへ、口べたな拙僧はチャンスを伺いまして待ち合わせ。そんなことありません!なんと言う不謹慎なことを言わせるんですか。ただお友達になりたいなでございます。それだけでございます。友達でございます。恋人を探していると言われてもね。完全な誤解でございますね。拙僧知らないなあ。しらなあーいと」

僧侶は額に汗びっしょりで弁明した。


やがてその曹洞宗僧侶に出合いのチャンスは訪れる。


「あのぅ、和尚さま(拙僧のこと)。すいません。ちょっと力を貸してください。園児のために運動場に机を並べたいので助けてもらえませんか」

園長先生から頼まれたのは教育実習生達と一緒に机を運んでくださいということだった。

「やるやる、やりたい。なんでもかんでもやってやるぜ。エイホエイホ」

若き僧侶は袈裟の袖をまくりあげ喜んで机運びを手伝うことにした。

「やるぜ机運び。腕がなるぜ。エイホエイホ」

机はさほどの重労働にはならなかった。だから僧侶は余裕があってえっちらおっちら机運びに精を出す。


かわいいかわいい教育実習生と仲良く揃いながら机を運んでいた。僧侶にはパラダイス、幸せの時間、夢に見た瞬間。そこには薔薇色があった。


目の前にはいずれも可愛らしいお嬢さんばかりがいらっしゃった。

「よりどりみどりつかみどりとはこのような状態のことなんだなあ」


教育実習生と親しくなりたいの下心のサポートとして教育実習生の皆さんは名札を胸につけていた。

「顔と名前がすぐわかります。胸のデカイの小さいのわかります。はやはや、いやあ拙僧は天国、極楽、保育園でございます」

とまあこんな感じで若き僧侶はお好みの教育実習生を好きなだけ品定めをする。


その努力が実りました。いやあお好みがまた多くて困ったものだった。

「あっ、あのう。拙僧侶にメールアドレスを教えていただけませんか。メル友しましょう」

拙僧は目の前に可愛らしい保育士が来たらチャンスを伺う。すかさずアドレスを聞き出そうとしたのだ。メール聞き出し作戦は2人にダメだと断られた。細身のミニスカートがよく似合う可愛らしい娘さん達だったが断られた。

「拙僧の好みでございました。あああのミニスカが目に浮かぶなあ」

机を運びながら拙僧侶ミニスカしか目に入らない状態。


が断られても決して僧侶はくじけない。背中にお釈迦さまが、道元禅師がついていらっしゃる拙僧侶である。いくら口べたな僧侶も三度の矢を放てばなんとかなる。

「あらっメル友ですか。私メール好きですからよろしいですわ。喜んでなりましょう。メールアドレスはですね。またブログもありましてよ」

若き僧侶の暑い夏休みがやってきた。夏休みには幸せ感じる恋する僧侶になってしまった。まったくもって盆と正月が同時にやってきた気分だった。

「嬉しい、嬉しい。拙僧幸せでございます。いやねあんなかわいいお嬢さんとメール友達になれるとは信じられません。もう滝に打たれて修業したい気分になりましたなあ」

それなら阿寺七滝に行きたい気分になりましょう。


拙僧侶は教育実習生からメールを通し彼女のブログを読む。彼女の女子大生の毎日を知る幸せなコメントを読む。

「いやあ彼女はこんなことしているんですか。女子大生はいいなあ。お化粧してアルバイトしてちょっと勉強して。あちゃ彼氏の話が出てまっせ。ショックだあ」

拙僧侶がブログに意見を書き込みすることが日課となる。

「ミニスカ女子大生のブログは新鮮でございました。拙僧嬉しいでございます」


しかし仏教説法と彼女の趣味スキューバーダイビングはまったく趣味としては合わなかった。海に潜るならば仏教のインドのあたりかタイバンコクにしていただけたらよかったんだけど。

「拙僧も潜りましょうかね、ドバアーン」

若き僧侶の頭の中に教育実習生のビキニ姿が現れた。スキューバのセクシーさがパッと浮かぶ。かなり僧侶は浮かれていた。

「いやいや拙僧侶だってスキューバを潜るぞ、潜る。あんな美人またとありませんから。拙僧は拙僧はハイ認めますよ。彼女に夢中でごさいます」

僧侶は今にも踊り始めるかのようにひとり浮かれていた。


彼女のブログを辿った場合スキューバにいかにノメリ込んでいたかがわかる。

「相当でございますね。ブログの大半はスキューバでした。拙僧侶との出合いなんかどっこにもありません。なんとも思われていないんですなあ。ショックだあ」


トドメは、

「大好きな彼氏とエジプトにスキューバに行けて嬉しいわ。私達結婚式あげちゃうの。好きよダーリン」

僧侶の恋は夏休みの懐かしい思い出にとどまってしまった。

「わぁーん!泣けたあ。悔しいなあ。もうぐれてしまうぞ」

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