第二王女⑥
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日本艦隊、神殿型戦艦「八百万」。
かつて技術大国として名を馳せた日本は今や霊術大国として知られている。
その転換点がいつだったのか、歴史家の間でも意見が分かれる。ある者は第三次世界大戦後の「霊的覚醒」がきっかけだと言い、またある者は古来より受け継がれてきた神道の教えが近代科学と融合した結果だと主張する。
いずれにせよ、一つだけ確かなことがある。
日本の軍事技術は「命」というかけがえのないリソースを消費することを前提に設計されている。
それが国民性なのか、それとも歴史的な経験がそうさせるのか。特攻という概念を生み出した国だけのことはある、と皮肉を言う者もいる。だが日本人自身はこれを「献身」と呼ぶ。命を捧げることで、より大きな命を守る。その思想が、軍事技術の根幹に組み込まれているのだ。
加具土命──
それは日本が開発した対惑星級PSI能力兵器である。
PSI──Psychic Sublimation Interface。精神昇華接続装置。人間の精神エネルギーを物理的な力に変換する技術だ。通常のPSI兵器は訓練された術者の精神力を増幅して攻撃に転用する。だが加具土命はその原理を極限まで推し進めた。
一人の精神力では足りない。
十人でも、百人でも足りない。
一万人。
一万人の禰宜──神道の聖職者が、同時に命を捧げることで初めて発動する究極のPSI能力。
その名は日本神話における火の神から取られている。伊邪那美命を焼き殺し、伊邪那岐命の怒りを買って斬り殺された神。創造と破壊の象徴。生と死の境界に立つ存在。
発動の原理は科学というより神秘に近い。
一万人の禰宜が、特殊な祭壇を囲んで祝詞を唱える。その声は物理的な音波であると同時に、精神世界における「呼びかけ」でもある。呼びかけの対象は宇宙の根源に眠る「火の記憶」──ビッグバンの残滓とも、神々の力の欠片とも言われるエネルギー場だ。
祝詞が最高潮に達したとき、一万人の命が同時に燃え尽きる。
その精神エネルギーが「火の記憶」と共鳴し、純白の炎となって顕現する。
出力換算で六百兆メガワット。
数字だけ見れば、光子波動砲の八百三十兆メガワットに劣る。だが加具土命の真価はその攻撃範囲にある。光子波動砲が点を穿つ槍だとすれば、加具土命は面を焼く炎だ。その白い火は目標を中心とした半径数十万キロメートルを等しく焼き尽くす。
仮に地球に使用すれば、地球は焼き尽くされる!!!
神殿型戦艦「八百万」の内部。
一万人の禰宜たちが、巨大な祭壇を囲んで正座していた。全員が白装束を纏い、目を閉じている。その顔には恐怖はなく、むしろ穏やかな覚悟が浮かんでいた。
「皆の者」
最年長の禰宜、齢九十を超える老翁が静かに口を開いた。
「我らはこれより、加具土命を発動する。これは我が国が二千年かけて練り上げた対惑星級PSI能力。発動には一万の魂を要する。すなわち、我らはここで死ぬ」
誰も動揺しなかった。全員が、この日のために訓練を積んできたのだ。
「だが、恐れることはない。我らの死は百億の命を救う。これ以上の誉れがあろうか」
老翁は目を閉じ、最初の祝詞を唱え始めた。
「掛けまくも畏き、伊邪那岐大神の……」
一万の声が、一つに重なる。
低く、荘厳な詠唱が艦内に響き渡った。




