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至高の天にワンワンと  作者: 埴輪庭


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6/9

第二王女⑤

 ◆


「大統領閣下、至急艦橋にお越しください」


 レイノルズ元帥の声には隠しきれない動揺が滲んでいる。


「何があった」


「それが……言葉では説明しづらいのですが……」


 シュリンプは急いで艦橋に向かった。


 艦橋に到着した瞬間、彼は足を止めた。


 メインスクリーンに映し出された光景が、彼の理解を超えていたからだ。


「何だ、あれは……でかいぞッ!」


 巨大な「何か」が宇宙空間を泳いでいた。


 いや、泳いでいるという表現は正確ではないかもしれない。それは漂っているようでもあり、這っているようでもあり、あるいは存在そのものが空間を歪めながら移動しているようでもあった。形容し難い形状。見ているだけで正気を失いそうになる輪郭。


 その大きさは太陽に匹敵する。


 恒星ほどの質量を持つ生命体が、銀河系の中を悠然と進んでいるのだ。


「恒星間生物……」


 ダッジが呻くように言った。


「理論上は存在が予測されていましたが、実際に遭遇するのは初めてです」


「方向は」


「それが……」


 レイノルズの顔が青ざめている。


「地球に向かっています」


 艦橋が凍りついた。


 太陽ほどの大きさを持つ生命体が、地球に向かっている。もしあれが太陽系に到達すれば、重力場の乱れだけで惑星軌道は滅茶苦茶になるだろう。地球どころか、太陽系全体が壊滅する可能性がある。


「迎撃準備」


 シュリンプが命じた。


「全艦戦闘配置。あの化け物を止める」


「しかし閣下、あの規模の生命体を……」


 レイノルズが躊躇いがちに言った。


「至高天に連絡を取っては……」


「GODDAAAAAAAMN!!! FUCK! SUCK!! BITCH!!! COCK!!!!」


 シュリンプが怒鳴った。


 艦橋の全員がびくりと身を竦める。大統領の突然の罵倒の嵐に、誰もが言葉を失った。翻訳機が追いつかないほどの勢いで、彼は吠え続けた。


「至高天だと?」


 シュリンプの義眼が赤く光っている。シュリンプは精神が昂ると目の色が変わるのだ。赤く光るだけの何の意味もない機能である。


「何かあるたびに至高天、至高天、至高天! お前たちは至高天を何だと思ってるんだ! 俺たちのママか!? 困ったら泣きつけばいい、そう思ってるのか!?」


「いえ、そういうわけでは……」


「黙れ!」


 シュリンプは拳でコンソールを叩いた。金属音が艦橋に響く。


「いいか、よく聞け。俺たちは地球文明圏連合艦隊だ。人類が五千年かけて築き上げた科学技術の結晶だ。星を壊し、宇宙を焼き払う力を持ってるんだ。それが、あんなデカいだけの虫けらに怯えて、ママに助けを求めるのか?」


「しかし、あの規模は……」


「規模がなんだ!」


 シュリンプは叫んだ。


「デカけりゃ強いってのか? 恐竜はデカかったが滅んだ! マンモスもデカかったが滅んだ! 人類はチビだが生き残った! なぜだか分かるか!?」


 誰も答えられなかった。


「知恵だ! 技術だ! 諦めない心だ!」


 シュリンプは艦橋を見渡した。


「俺はアメリカ合州国大統領だ。この艦隊の最高司令官だ。至高天の犬かもしれないが、犬だって番犬くらいはできる。飼い主がいなきゃ吠えることもできないなんて、そんな情けない犬でいたくない!」


 彼は前に進み出た。


「全艦に告ぐ。これより、恒星間生物への攻撃を開始する。至高天の助けは借りない。俺たちだけでやる。俺たちの力で、地球を守る。いいな!」


 沈黙が艦橋を支配した。


 そして、一人の士官が立ち上がった。


「閣下に続きます」


 別の士官も立ち上がる。


「私もです」


 次々と、艦橋の全員が立ち上がった。


「全艦、戦闘配置!」


 レイノルズが命令を下す。


「目標、恒星間生物。至高天の助けは借りない。我々だけで戦う!」


 艦隊全体に、その命令が伝達される。


 シュリンプは戦術コンソールに向かった。二千万隻の艦艇を統率する司令官として、彼は最適な攻撃態勢を組み上げなければならない。


「全艦に通達」


 彼の声は先ほどの激昂が嘘のように冷静だった。


「攻撃は一斉射撃とする。波状攻撃では各国の兵器が相互干渉を起こす可能性がある。散開陣形を展開し、全方位から同時に叩く」


「了解。しかし閣下、あの規模の目標を包囲するには……」


「ショート・ワープを使う」


 シュリンプは即答した。


「各艦隊は指定座標にワープ。目標を中心に球状の散開陣形を展開。互いの射線が交差しない位置取りを徹底しろ」


「例のやつを使うのですな」


 レイノルズが頷く。


「賢明なご判断です。各国の主力兵器は特性が全く異なります。同時発射でなければ、先行する攻撃が後続の攻撃を減衰させかねない」


「その通りだ。特に中国の天絶陣と、俺たちの光子波動砲は相性が悪い。天絶陣が生成する重力特異点に光子ビームが吸い込まれたら、味方を撃つことになりかねん」


 シュリンプは各国艦隊の指揮官たちとの通信回線を開いた。


「全艦隊指揮官に告ぐ。散開陣形『オメガ・スフィア』を展開する。ショート・ワープ座標を送信する。各艦隊は指定位置に移動後、私の号令を待て」


 画面に鷹市、龍金平、ダッジの顔が映し出される。


「日本艦隊、了解。座標を受信しました」


 鷹市の声は静かだが、その奥には鋼のような決意が宿っている。


「中国艦隊、座標確認。展開準備完了」


 龍金平が重々しく頷く。


「イギリス艦隊、準備完了です」


 ダッジの声にも緊張が滲む。


「では各艦隊、ショート・ワープ開始!」


 二千万隻の艦艇が、一斉に亜空間に没した。


 そして次の瞬間、恒星間生物を中心とした巨大な球状空間に、人類の艦隊が出現した。


 アメリカ艦隊四百万隻が「北極」方向に展開。


 日本艦隊三百万隻が「赤道」帯東側に展開。


 中国艦隊三百五十万隻が「赤道」帯西側に展開。


 イギリス艦隊二百万隻が「南極」方向に展開。


 その他各国艦隊七百五十万隻が、隙間を埋めるように配置される。


 恒星間生物は文字通り包囲された。


「陣形展開完了」


 レイノルズが報告する。


「全艦、射撃準備に入ります」


 シュリンプは深呼吸した。


「各国主力兵器の状態を報告しろ」


「アメリカ艦隊、光子波動砲充填開始。充填完了まで九十秒」


「日本艦隊、加具土命の儀式準備中。発動可能まで百二十秒」


「中国艦隊、天絶陣の符陣展開中。完成まで百秒」


「イギリス艦隊、エクスカリバー・システム起動。収束完了まで百十秒」


「よし」


 シュリンプは頷いた。


「全艦、百二十秒後に一斉射撃を行う。カウントダウン開始」


 カウントダウンが始まった。


 その間、各国艦隊は最終準備に入る。


 アメリカ艦隊の中心、旗艦エンタープライズ。


 全長一万二千メートルの超弩級戦艦の船首に、人類が開発した最強兵器の一つが搭載されている。


 光子波動砲。


 その原理は量子色力学に基づく光子の完全収束と増幅にある。


 通常の光は光子という素粒子の流れである。光子は質量を持たないが、運動量を持つ。アインシュタインの特殊相対性理論によれば、E=mc²の関係から、エネルギーと質量は等価である。つまり、十分なエネルギーを持つ光子は物質に匹敵する破壊力を持ちうる。


 光子波動砲はこの原理を極限まで追求した兵器だ。


 艦内に搭載された七十二基の核融合炉が生成するエネルギーを、量子収束レンズと呼ばれる特殊な装置で一点に集中する。このレンズは量子力学的なトンネル効果を利用して、通常なら拡散してしまう光子を強制的に収束させる。さらに、魔術的な「空間固定術式」を併用することで、収束した光子が発射前に拡散することを防いでいる。


 結果として生み出されるのは出力八百三十兆メガワットの光の槍だ。


 八百三十兆メガワット。


 この数字が何を意味するか。


 一秒間に放出されるエネルギーは八千三百京ジュール。広島に投下された原子爆弾が放出したエネルギーは約六十三兆ジュール。つまり光子波動砲の一射は広島型原爆約一千三百万発分の破壊力を一瞬で解放する。


 仮にこの砲を地球に向けて発射したらどうなるか。


 着弾点を中心に、直径千キロメートルの範囲が瞬時に蒸発する。日本列島程度なら、跡形もなく消し飛ぶ。地殻は裂け、マントルが噴出し、海は蒸発する。大気は吹き飛び、地球は数週間にわたって燃え続けるだろう。


 仮に地球に使用すれば、地球は焼き尽くされる!!! 


 それが光子波動砲だ。


「充填率、五十パーセント」


 兵器管制官が報告する。


 砲身内部で、莫大なエネルギーが渦を巻いている。量子収束レンズが青白く発光し、空間固定術式を刻んだ魔導結晶が共鳴振動を始めた。艦全体が微かに震え、乗組員たちは本能的に身構える。


「七十パーセント……八十パーセント……」

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よくある聖女召喚の連載版
西暦六九一〇年、宇宙歴四六四九年。かつて人類が「地球」と呼んだ惑星はいまや銀河系有数の文明圏の中枢として、その青い輝きを宇宙に放っていた。
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しかしそれでもなお!!……人類は犬であった。わんわんと吠え、飼い主──至高天と呼ばれる上位存在に“可愛がられている”。
圧倒的上位存在に人類が愛玩される話が好きな人向け。
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