表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物の私を『国宝級の可愛さ』と勘違いした女騎士が、過保護すぎて外に出してくれません  作者: こめりんご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/19

第七話 その可愛さは、国宝級の輝き

 ある晴れた朝。

 フレアは山盛りのステーキを瞬く間に胃袋へ収めると、ナプキンで口をぬぐいながら高らかに宣言した。


「というわけで、小さいの。行くぞ」


(……え? どこへ?)


 少女がおずおずと首を傾げる。

 引きこもり生活を始めて早数週間。フレアの過保護極まる結界(物理・魔法・精神の三重構造)により、少女は完全に「箱入り娘」と化していた。外の風を浴びるなど、何日ぶりのことだろう。


「王城だ」


(……お、おうじょう?)


 少女の思考が一瞬停止した。

 王城。王様のいる場所。この国の中心。


「うむ。先日の森での一件……貴様が魔物の群れを一人で撤退させた件について、陛下より直々に褒賞を与えたいとの仰せだ」


(えっ!?)


 目を見開いた。

 あれは違う。フレアが放つ覇気(はき)が強すぎて、魔物たちが生存本能に従って全力逃走しただけだ。まさかそれを「少女の功績」として報告するなんて。


「陛下も貴様の勇気ある行動を絶賛しておられた。『か弱き身でありながら、気高き魂を示した』とな!」


(違う、誤解だよ!?)


 顔面蒼白になった。

 相手は一国の王だ。そんな人の前で、もし正体がバレたら……。


(行きたくない! 絶対に行きたくない!)


 必死に首を振り、椅子の下にもぐり込もうとした。

 だが、フレアは少女のそんな抵抗を「謙虚さゆえの遠慮」と解釈したらしい。その美しい顔に、深く慈愛(じあい)に満ちた微笑みを浮かべた。


「案ずるな。貴様が人前に出るのを怖がっているのは百も承知だ。……ゆえに、完璧な対策を用意した」


 フレアが取り出したのは、分厚い純白の布だった。

 最高級のシルクを幾重にも重ね、さらに認識阻害の魔法陣まで刺繍された、鉄壁の「顔隠し」アイテム――『聖女のベール』である。


「これならば貴様の持つ、俗世にはあまりに眩しすぎる、その清冽(せいれつ)な気配は完全に遮断される。誰の目にも触れず、何者も貴様を惑わせぬ」


(……それなら、なんとかなるのかな?)


 玄関の扉越しに人を狂わせた、私の『何か』。

 それを抑え込めるというのなら、最悪の事態は避けられるかもしれない。


 渋々、ベールを被った。視界が薄暗くなる。

 少女の手を引いて、フレアは屋敷の厳重になってしまった扉を開けた。



        * * *



 王城、謁見の間。

 高い天井には歴代の王の肖像画が並び、床には一面に深紅の絨毯(じゅうたん)が敷き詰められている。国の重要人物たちが集う、重厚で威厳に満ちた空間だった。

 重苦しい沈黙の中、大臣や将軍たちの突き刺さるような視線が、入室したフレアと、その背後に隠れる小さな影に注がれる。

 フレアは片ひざをつき、流れるような所作で頭を下げる。少女も慌てて真似をして、ちょこんと両ひざをついた。


「――面を上げよ」


 玉座に座る老齢の国王が、低い声で告げた。

 白髭を蓄えたその顔には、長年の統治者としての威厳と、老獪(ろうかい)な政治家の鋭さが刻まれている。


「騎士フレアよ。そして、噂の『森の守護者』よ。よくぞ参った」

「はッ。この者こそ、数多の魔物を不可視の威圧で退け、森の平和を守り抜いた英雄。……今は恥ずかしがっておりますが、その心の清らかさは教会の聖女すら裸足で逃げ出すほどです」


(フレアさん、ハードルを成層圏まで上げるのやめて!?)


 内心で悲鳴を上げた。不可視の威圧なんて出した覚えはない。震えていただけだ。


 国王は興味深そうに少女を見た。


「ほう……。恥ずかしがり屋、か。……どれ、顔を見せてはくれぬか?」

「!」


 少女の体が強張る。

 やっぱり。そうなると思った。

 フレアが一瞬ためらったが、王命は絶対だ。

 彼女は少女の方を振り返り、「大丈夫だ、私がついている」と力強く目で合図した。そして、ためらいなくベールに手をかける。


(終わった……! わたしの人生、ここで終了……!)

 ベールが上げられた。

 一瞬。空気が、止まった。


「……おお」


 玉座の間が、どよめいた。

 それは恐怖や嫌悪の声ではなかった。

 感嘆。ため息。そして、困惑。


 少女が持つ種族特有の、無意識の魅了。

 かつては男騎士を、市場の店主を、教会の司祭を狂わせた「魔性の引力」が、この場にいる全員――国の重鎮たちの理性を直撃したのだ。


「……なんと」


 国王が、玉座から立ち上がった。

 その手は震え、瞳孔(どうこう)は開ききっている。王としての威厳は霧散し、代わりに、未知の宝石を見つけた探求者のような熱が宿っていた。


「なんと……なんという輝きだ。余は長い年月、多くの宝を見てきたが……これほどまでに心を奪われる存在は初めてだ」


 国王はふらふらと階段を降り、少女の前へと歩み寄った。


「その瞳……その品格。……ああ、美しい。この国にあるすべての財宝を束ねても、そなたの髪一本の価値にも及ばぬ……」


(え……? なんか空気がおかしいよ? これ、別の意味でヤバくない?)


 どまどって後退る。魔物特有の直感が、危険を知らせていた。

 この目は、店主や神官と同じ目だ。理性が焼き切れ、欲望のままに動く獣の目。

 国王は完全に少女の「魅力」に飲まれていた。


「決めた。……余は決めたぞ」


 国王は、広間に響き渡る声で高らかに宣言した。


「余はこの国を、そなたにゆずる!」

「「「はあぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」


 大臣たちが一斉に仰天し、書類を落としたり、入れ歯を飛ばしたりした。衛兵が槍を取り落とす音がガシャンと響く。


(国!? 今、国って言った!? 王様、落ち着いて! 正気に戻って!)


「うるさい! 見ろ、この愛らしさを! この子が玉座に座れば、民は争いを忘れ、ただこの子を愛でるためだけに働く平和な国になるのだ! 争いなど起きようがない! これぞ究極の統治! 余は今、政治の真理に到達したのだ!」


 国王は両手を広げ、狂喜乱舞している。


(完全に狂ってるー!  わたしの毒が暴走レベルを超えてるよー!)


 頭を抱えたかった。

 やはり自分は魔物だ。存在しているだけで、一国の王をも狂わせてしまう。

 もうダメだ。フレアさんの国は終わる。わたしが終わらせてしまう。

 そんな暗い底に沈みかけたとき。


「お待ちください、陛下!」


 凛とした声が響いた。

 フレアだ。彼女は少女を背にかばい、仁王立ちで国王を見据えていた。

 その背中から立ち上る金色の覇気は、国王の狂気すら圧倒するほどに凄まじい。


(フレアさん! 止めて! 王様の目を覚まさせて!)


 祈るような気持ちでフレアを見上げた。

 フレアは大きく息を吸い込み、告げた。


「陛下、そのお言葉……お気持ちは痛いほど分かります。確かにこの子の可愛さは国宝級、いえ、一つの国家が支払うべき代償を優に超えております」


(……ん?)


「この子の笑顔一つで小麦が実り、涙一つで川が枯れる。それほどの影響力があることは、この親代わりのフレア、身に沁みて理解しております。陛下のご慧眼(けいがん)、恐れ入ります」


(肯定しちゃったよ!? 全肯定しちゃったよこの人!)


 少女の希望は粉々に砕け散った。


「しかし、陛下。統治の観点から申し上げますと……『管理』が不可能です」

「……管理?」


 国王がピクリと反応する。


「はい。陛下も仰った通り、この子の魅力は兵器級です。もしこの子が女王となれば、どうなるか。……まず、近衛兵は全員、任務を忘れてこの子の世話を焼きたがり、おむつ替えの神聖な権利を巡って内戦が勃発(ぼっぱつ)するでしょう」


(おむつは使ってないよ!? トイレトレーニング済みだよ!?)


「さらに、外交官たちは他国の王にこの子を自慢することに熱中し、機密情報を対価に『抱っこ券』を売りさばくかもしれません。国庫はぬいぐるみとお菓子で埋め尽くされ、経済は破綻します」


 フレアの恐ろしい予言に、国王の顔色が変わっていく。恍惚(こうこつ)とした表情が、徐々に恐れへと変わる。


「そして何より! そのような国家規模の『推し活』から、この子の乙女の秘密と安全を守るためには、国軍すべての兵力を警備に割かねばなりません! 国境の守りはゼロになります! ……陛下。愛がゆえに国を滅ぼす覚悟、おありですか!?」


 フレアの熱弁が、謁見の間に響き渡った。

 シン……と静まり返る広間。

 誰も反論できない。なぜなら、全員が「確かにそうなる(自分ならそうする)」と確信してしまったからだ。


 やがて、国王はハッとしたように目をしばたき、ひざから崩れ落ちた。


「……余が、間違っておった。……愛のあまり、逆にその子を危険な目に遭わせるところであったか……」


 国王は涙ながらにフレアを見上げた。


「フレアよ。そなたは、そこまで深く……この国の、いや、その子を守るための秩序を考えていたのか。……見事だ。そなたこそ、真の騎士だ」


「はッ。過分なお言葉、恐れ入ります」


 フレアは清々しい顔で敬礼した。

 黄金の髪が、窓から差し込む陽光を受けて輝く。

 国王も、大臣たちも、涙を流して二人を称えている。


(……誰も、本当のこと(ツッコミ)を言ってくれない)


 ベールの下で、虚無の目をした。

 王位継承という危機は回避された。フレアのお節介のおかげで。

 しかし、その理由は「王としての適性」ではなく、「可愛すぎて国が崩壊するから」というものだった。

 わけがわからない。


(……帰りたい。あのお屋敷に)


 フレアの服の裾をギュッとつかんだ。

 ここよりは、あの過保護なおうちのほうが、まだマシだ。





隠しきれない魔性の輝きが、新たな敵を呼び寄せる。

次回、世界を救いし勇者が、二人の前に立ちはだかる。


タイトル回収話でした。お話はまだまだ続きます!

もし「小さいの、めげるな!」と応援いただけるなら広告下の★やブックマークでエールをいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ