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魔物の私を『国宝級に可愛い』と勘違いした女騎士が、過保護すぎる!  作者: こめりんご
第三章:聖女の巡礼。その旅立ちは、国を揺るがす事件となる

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第二十一話後 悪意の代償。侵すべからざる聖に触れたもの

 少女の視線が、ガストンを射抜いた。

 ベールの奥から突き抜けてくる、吸い込まれそうな眼差し。

 そこに込められた「哀れみ」が、ガストンの脳を直撃する。


「うっ……!?」


 ガストンの言葉が止まった。

 彼の目から嘲笑が消え失せる。

 代わりに浮かんだのは、うつろな陶酔(とうすい)と、幼児のような無邪気さだった。


 一瞬、ガストンの口が何かを言いかけて――止まった。


「あ……あぁ……見て……?」


「はい?」


 カレンが思わず聞き返す。

 ガストンはその場に崩れ落ちた――かと思うと、バッと勢いよく立ち上がった。

 そして、自身の制服のボタンを引きちぎり始めた。

 ブチ、ブチ、ブチ。ボタンが床に跳ねて散らばる。


「この堅苦しい服が私を(しば)っていた! 見てください! これが私の本当の姿だ! 嘘偽りのない、減点ゼロの肉体だぁぁぁ!」


「ひっ!?」


 カレンが悲鳴を上げて目を覆う。

 ガストンは上半身裸になり、貧相な肋骨をさらしながら、恍惚(こうこつ)の表情でポーズを取った。

 骨と皮だけの腕を広げ、天をあおぐ。


「美しい……! 今の私は誰よりも美しい! さあお嬢さん、評価を! 私に『よくできました』の評価をぉぉぉ!」


「ガストン卿、暑いんですか? 確かに今日は天気いいですもんね」


 カイルがのんきに声をかける。

 ガストンの手が、ズボンのベルトにかかった、その瞬間だった。


「滅せよ」

 ドガァッ!!


 轟音と共に、鉄の書架が宙を舞った。

 フレアがバリケードを蹴散らして飛び出してきたのだ。

 その背後のソファには、すでに避難させられたらしい少女が、ぽかんと座っている。


 神速の踏み込み。

 フレアの拳がガストンの腹部に突き刺さる。

 衝撃波が広がり、周りの騎士を転倒させ、執務机をなぎ倒した。

 ガストンの体は人形のように宙を舞い、星となって壁の向こうの会議室へと消える。

 瓦礫(がれき)の山と化した執務室の中央に、ポッカリと円形の空間が生まれた。


「……危ないところだった。教育に悪い」


 他の騎士たちの制止を振り切って、ガストンの部下たちが飛び込んでくる。

 執務室の惨状と、隣室に半裸で伸びている上司を見て、彼らは絶句した。


「ガストン様!? な、何を……ひいいっ! ズボンが……!」


 部下たちは顔を真っ赤にし、すぐさま壁の向こうへ駆け込むと、カーテンを引きちぎってガストンをくるみ、引きずっていった。


「う……うーん……はっ!? わ、私は何を!? そしてなぜ裸で部下に運ばれているんだぁぁぁ!?」


 正気に戻ったガストンの絶叫が遠ざかっていく。

 しかし時すでに遅し。

 半裸で発狂する隣国外交官の姿は、部下たちの脳裏と監査報告書に深く刻み込まれた。



        * * *



「……嵐のように去っていきましたね」


 カレンが力なくつぶやく。

 周囲の騎士たちは呆然としていたが、すぐに「はっ!」と崩されたバリケードの中、少女のほうを向いた。


「見たか……? あの小さきお方が、ただ一瞥(いちべつ)しただけで悪を浄化されたぞ……」

「ああ……悪意を持つ者があの御方の前に立つと、自らの罪の重さに耐えきれず狂うのだ……なんと恐ろしくも慈悲深い……」


 また新たな「伝説」が生まれた瞬間だった。


(鼻毛のおじさん、ごめんなさい……)


 少女の懺悔(ざんげ)は誰にも届かない。




 だが、まだ問題は解決していなかった。


「……ふぅー……ふぅー……」


 フレアの様子がおかしかった。

 肩から蒸気のような白い煙が立ち上っている。

 それだけではない。

 彼女の金髪が、まるで水中にいるかのようにふわりと浮き上がっていた。

 周囲の空気が熱でゆらゆらと歪み、彼女の足元の床板がパキパキと音を立てて乾燥していく。

 小さな火花が、彼女の指先からパチパチと弾けた。


 いつもなら、ガストンを殴り飛ばせばそれで終わりのはずだ。

 なのに、フレアの怒りは収まっていない。

 少女がここにいるから。だから我慢した。その分の熱が、行き場を失って暴走し始めていた。


(……ごめんなさい、フレアさん)


 少女は騎士たちの間を縫って、フレアに歩み寄る。


「だ、団長……? 服から煙が出てますけど……?」


 カイルがおっかなびっくり声をかける。

 フレアがゆっくりと顔を上げたとき、その瞳が、溶けた金のようにぎらりと光っていた。


「……暑いな。……少し、冷やさねば……」


 ジュウゥゥッ!

 フレアの足元の床が、高熱で焦げ始める。

 黒い煙が立ち上り、焦げた匂いが執務室に充満する。


「退避ぃぃぃ! 総員退避ぃぃぃ! 団長が爆発するぞォォォ!」


「暑いです! さすが団長、今日も絶好調っすね!」


 誰かの悲鳴のような指示と、カイルの謎の感謝が交錯する。


 胸が痛い。でも、それ以上に、このまま何もしないのは、嫌だ。


「フレアさん……あふれてる……。……もらって、いい?」


 少女の呼びかけは、その喧騒にかき消された。


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