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後ろ盾探し






 翌日、芹沢一派は昼前に八木邸にやってきた。しかもあろうことか、今日からここに一緒に世話になると言う。

 

(ただでさえ八木家にはお世話になってるのに、更に人数が増えるなんて大丈夫なのかな?)


 梓が気にしているのはもう一つ。今までは幕府お抱えの浪士組だからと置いてくれていた八木家だが、浪士組を抜けてしまった今、いつ追い出されるとも分からない。ということだ。


(次の後ろ盾が見つかれば、八木さんもまだ居ていいって言ってくれるかな?)


「……よし!」


 芹沢一派と近藤土方山南が話し込んでいる隙にと、梓は玄関に座り草履を履く。


「梓さん、どこか出かけるんですか?」

「え、待った俺も行く!」


 玄関は広間と続き間になっているため、暇を持て余していたらしい沖田と藤堂に見つかってしまった。

 まさか夢で見た場所を探しに行くとも言えず、梓は「ちょっと散歩に行くだけです」と誤魔化す。


 梓が行きたいのは昨夜夢で見た“金戒光明寺”

 夢で着ていた裃は、登城する時や偉い人に会う時のような、特別な時に着るもの。それを着ていたと言うことは、全員でどこかに行くか偉い人に会うと言う事だろう。

 それがもし後ろ盾をお願いする相手だったとしたら、その相手はあの金戒光明寺にいる可能性が高いと予想したのだ。


 ただ、京に来たばかりの梓には金戒光明寺がどう言った場所なのか、誰がいるのか、更に言えば何と読むのか、何一つわからない。だから1人で下見に行きたかったのだ。


 なんとか1人で行こうとする梓だったが、暇を持て余した2人は強く断り切る事ができなかった。

 

「さて、どっちに行きますか?」


 門を出たところで、左右に分かれる道を見て沖田が尋ねる。

 右も左も分からないとはこの事で、どっちに行けばいいかなど梓には分からない。


「そ、そう言えば私、行きたいところがあるんですよね〜。京には金を戒めるって書くお寺があるらしくて、そこに行ってみたいなぁって。何処にあるか知ってますか?」


(我ながら酷い言い分…)


「金を戒める?梓は金使いが荒いのか?」

「い、いえ、そう言うわけじゃないんですけど、人間いつどうなるか分からないじゃないですか。そう言うお寺があるなら知っておいたほうがいいかなって」


 雑すぎる言い訳だが、2人は疑ってはいないようで、一度京の町に繰り出したことのある藤堂に心当たりがないかと聞く沖田。


「うーん。知らねぇなぁ。金を戒める寺って何で読むんだ?きんかいじ?」

「なんか逆にお金を持ってそうな名前ですね」

「きんかいでらとかどうだ?せめて名前が分かればその辺の町民に聞けるんだけどなぁ」


 うーん。と唸る2人に『実際は金戒光明寺なんですよ。金かいが光って明るいんですよ』とは言えず、「ま、まぁ行けたらいいな程度なんで、とりあえずお散歩しましょうか」と有耶無耶にするのだった。



 毎日毎日木刀を振ってばかりだった梓と沖田は、ほぼ初めて駆り出す京の町にキョロキョロと目移りしていた。

 

「京はずいぶん寺が多いのですねぇ」

「私も思ってました。さっきからいくつも見かけますね」

「俺もこの前聞いたんだけどさ、京の人達は寺に通称をつけて『お西さん』とか『お東さん』とかって、人みたいな呼び方をするんだってさ」


 藤堂から飛び出した豆知識に、梓と沖田は声を揃えて「へ〜」と感心する。


「平助ってば、結構しっかり散策してたんですね」

「まぁな。……お前らが楽しく手合わせしてる間にな」

「あ、平助君根に持ってる?」

「持ってねぇし!」


 沖田と2人で藤堂を見て笑っていると、一件の団子屋さんが目に入った。


「ちょっと情報収集しませんか?」


 梓がそう言って団子屋を指差せば、沖田も藤堂も二つ返事で賛同した。



「いやぁお兄さん達、えらいべっぴんやなぁ」


 団子屋の軒先で注文した団子を受け取ると、運んできた中年女性が頬をおさえて感心した声を出す。


「「べっぴん?」」


 沖田と梓が声を合わせて聞けば、女性は更に顔を赤らめる。


「嫌やわぁべっぴんやなんて」

「お母はんが言われたんと違うわ。もしかして旅の人なん?べっぴん言うんは綺麗な顔してはるって意味やよ」


 奥から出てきた娘らしき女子が説明する。

 梓達は京に来てから八木さんとくらいしか話していないので、次々と繰り出される京言葉に新鮮さを覚える。


「私今、やっと京に来たって実感してるかもしれません」

「奇遇ですね。僕もです」

「お前らなぁ。木刀ばっか振ってるからそうなんだよ」


 何故か勝ち誇ったような顔をする藤堂。それが釈然としないが、藤堂の言うことももっともなので団子と一緒に飲み込んだ。


「あ、ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」


 この際だからと、梓は金戒光明寺について尋ねようと食べ終わった団子の串で地面に金戒とだけ文字を書く。


「こんな字を書くお寺を知りませんか?」


 聞けば団子屋の親子は顔を見合わせ、「あぁ」と声をそろえる。


「くろ谷さんやんな?」

「「くろだにさん?」」


 今度は3人で声を揃えて聞いてしまった。


「金に戒めるって書いて、くろだにって読むんですか?」


 沖田が聞けば親子は「ちゃうよー」と笑った。


(違うの?じゃなんで黒谷?)


 沖田と2人顔を見合わせて首を傾げていれば、藤堂がゴホンッと咳払いした。

 

「あれだろ?通称ってやつだろ?」

「せやよ。金戒光明寺、通称くろ谷さん」


 藤堂が本日二度目の得意顔をしている。

 流石に梓も沖田もイラッときたが、これから少しずつ京のことを覚えていこうと心に誓ったのだった。



「それにしても、何で“こんかいこうみょうじ”が“くろだにさん”になるんですかね」

「何もかかって無いですよね。他にも通称っていっぱいあるんでしょ?僕覚えられる気がしませんよ…」

「そんな時はまたその辺の人に聞きゃいいんだよ」


 八木邸を出てから適当に歩いていたが、案外目的地の近くまで来ていたらしく、団子屋で道を聞いて四半刻もせずに目的地の金戒光明寺に辿り着いた。


「ここ…ですよね?」

「だな。金戒光明寺って書いてあるし」


 目的地に着いたはいいが、あまりの大きさに入って行くのを躊躇ってしまう。それに……


「これって、会津藩の旗印だよな?」

「ですね。会津の會って書いてありますから」


 沖田と藤堂はさっきから2人で似たようなやり取りをしている。

 大きくそびえ立つ門の柱には、向かって右に“金戒光明寺“と書いてあり、向かって左には“京都守護職本陣”と書かれ会津藩の旗印が飾られていた。


「……会津藩。京都守護職」

「なぁなぁなぁ!これって大発見じゃねえの?」

「これ、近藤さん達に言ったら後ろ盾候補になるんじゃないですか?」


 門の前に見張のような人達がいるので大きな声でははしゃげないが、3人は顔を見合わせて興奮を伝え合う。

 梓は後ろ盾を探すと言う目標で来ていたが、沖田と藤堂は完全に散歩気分だったので大発見に違いなかった。


「……お?童、こんなところで何をしている?」


 後ろから聞き慣れた声が聞こえ振り向くと、裃を着た芹沢鴨が鉄扇を肩に当てて立っていた。


「芹沢さん!?」

「あ?お前ら何でここにいる」


 芹沢の後ろで驚いているのは土方で、その隣には近藤もいる。もう1人芹沢のお付きの目つきの悪い男もいるが、4人全員が裃を着ていた。


「もしかして、会津藩に御用ですか?」

「そうだが、お前達は何をしているんだ?」


 近藤も不思議そうに尋ねるが、何をしているのかと聞かれれば何もしていないので返事に困るというものだ。


「童その弐その参も。まさか会津藩の下見か?」


 ニヤリと笑う芹沢に、梓達は「そんなかんじです」とだけ返事をした。


「お前達、余計なことはせずに早く帰るんだぞ」


 近藤がそういうと、4人は堂々と門から中に入って行った。


「近藤さん達も会津藩に目星を付けていたんですね」


 出しゃばらずに済んで良かったような、ここまでの時間が無駄になったような複雑な気持ちになっていると、沖田と藤堂はそれよりも気になる事があるようで、何やらごちゃごちゃと揉めていた。


「童が梓なら、その弐は僕でしょう」

「なんでだよ!俺の方向いてその弐って言ってたんだから総司はその参だろ?」


 心底どうでもいい事で喧嘩をしている2人を尻目に、梓は後ろ盾交渉がうまく行くように祈ったのだった。





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