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近藤局長の巡察のすすめ




 最近、壬生浪士組にいくつかの変更点ができた。

 まずは巡察。当初4交代とされていたのだが、日中と夜間の二交代制となった。

 稽古は早朝と夕方。巡察に出る前に短時間。指南内容は素振りと打ち込みと決められた。因みに、内容が決まった事により梓と沖田も指南役に復帰している。


 変更があったのは隊務だけでなく、新見が局長から副長にいつの間にか降格され、副長助勤だった平間は勘定方という新しい役職に変わっていた。

 何故新見が副長になったのかは梓達に知らされることはなく、局長が3人から2人になったところで特に影響はなかったので誰も気には止めなかった。

 しかし、勘定方という役職ができたのは大きかった。

 どうやりくりしたのか、今まで全くお金のなかった壬生浪士組に、自由に使えるお金が少しなりともできたのだ。 そのお金で着物や装備を新調したり、刀を研ぎ屋に出すことができるようになった。


 そんな多少の変化があった頃、待ちに待った隊服が全員に配られた。

 土方辺りはずっと届かなければ良いと思っていそうだが、梓はウキウキと隊服に袖を通す。

 普段あまり着ることのない浅葱色の羽織は、最初こそ偏見があったものの色自体は鮮やかな空の色で、鮮やかな色を身につけることが新鮮で、町を歩いてもよく目立つことだろう。



 隊服を着ての巡察初日、今日は朝から夕方まで井上と行動する予定だった。

早速隊服を着て玄関先で待っていると、井上と一緒に近藤も隊服を着て歩いてきた。


「今日は俺も一緒に回らせてもらうぞ」


 基本局長は巡察を免除されている。そんな近藤と共に巡察できる稀な機会に喜ぶ梓だが、同時に先日見た夢が頭をよぎる。


 その夢を見たのは二日前。

 夢では隊服を着た近藤が一緒にいて、町で血相を変えて走ってきた男に声をかける。そこで店に強盗が出たと聞き店まで駆けるのだが、そこにいたのは…―


「梓?大丈夫か?」


 夢のことを思い出していると、近藤が梓の顔を心配そうに覗き込んでいた。

 梓は「大丈夫です!」と勤めて明るく振る舞う。


「近藤さんと巡察できるの楽しみです!」

「そ、そうか?俺もたまには皆の働きを見なければと思ってな」


 照れながら腕を組んで険しい顔を作る近藤。それが照れ隠しに作った顔だとバレているが、働きを見ると言われて梓はドキッとする。


(それって、抜き打ち監査ってやつ!?)


「梓、勇さんはただ新しい隊服を着て町を歩きたいだけだ。難しく考えなくていいぞ」


 焦った梓にすかさず井上が耳打ちした。

 ホッと胸を撫で下ろすと、井上は苦笑いし近藤は「何してる行くぞー」と既に玄関を出ていた。



 隊服を着て京の町を歩けば、やはりと言うべきか視線が刺さる。

 コソコソと話している人も少なくはなく、やはり土方さんの言う通り浅葱裏と馬鹿にされているのかもしれない。


(だ、大丈夫!これから評価を変えればいいんだから!)


 そう自分に言い聞かせて歩く梓の隣で、近藤は町行く人を眺めながらウキウキとしている。井上もそれに気付き、笑いながら近藤に声をかける。


「勇さんは楽しそうだなぁ」

「楽しいとも!皆の視線が釘付けだ。京の町を守っているのは我々だと見せつけてやらねばな」


 そんな近藤の前向きさに、梓もいつか自分の言った言葉を思い出す。


(恥ずかしがって歩いてちゃダメなんだった。堂々と歩けば良いんだ)


 近藤に習って胸を張れば「お!梓君もサマになってきたな」と近藤は嬉しそうに笑った。

 しばらく歩くと長屋のある細い道から怒声が聞こえた。


「てめぇ、早くよこせ!」

「ひぃ!堪忍してください!」


 梓がその声に気付くのとほぼ同時に、近藤が声の方に走り出した。井上などは聞こえてもいなかったらしく、突然走り出した近藤にあたふたしている。


「源さんも行きましょう」


 梓も井上と一緒に急いで近藤の後を追う。裏道は入り組んでいたが、声を頼りに進むと近藤の後ろ姿が見える。よく見れば既に浪人風の男の腕を掴んでいる。

 

「いてぇな畜生!放せ!」

「ご老人、歩けそうか?」

「は、はぃ!おかげさんで」


 殴られた痕はあるものの、他は平気そうでぺこぺこと頭を下げ逃げていく老人。

 梓と井上は出番がなかったが、近藤の行動の速さに感心する。


「近藤さん早いですね!」

「勇さん、あんたは局長なんだからもうちょっと周りを使ってくれ」

「すまん源さん。体が勝手に動いてしまった」


 井上に小言を言われシュンとする近藤。大きな体が少し小さくなったような気がして、梓は笑ってしまった。

 浪士はそのまま奉行所に連れていき、再び巡察に戻る。



 少し歩いたところで、今度は向こうから柄の悪そうな男たちが5人。道に広がって町人にガンを飛ばしながら歩いてくる。腰に刀はあるが武士には到底見えない。

 町人たちは恐々と道を開けているが、近藤はそのまま真っすぐ進む。


「おいワレ、のかんかい」


 正確に言えば、梓達は道の半分よりも左側を歩いている。しかし相手は自分が偉いつもりでいるのか、道を譲らなかった事に腹をたてているらしい。

 近藤が一歩前に出て相手を威嚇するが、それでも怯む気配はない。それどころか……


「なんやその羽織の色は?どこの田舎もんや?」


 そんな風に5人で大笑いを始める。

 羽織を馬鹿にされて、羽織を誰より気に入っている近藤が怒りはしないかと窺うが、梓の予想に反して近藤は平然としている。


「我らは壬生浪士組だ。道に広がって歩くと迷惑になるぞ」

「あぁん?壬生浪士?聞いたことないなぁ」

「浅葱色の羽織はよお目立ってええなぁ。お似合いや」


 ぎゃははははと汚い笑い声をあげる5人に、近藤は怒らないが代わりに梓がキレそうになる。しかし隣にいる井上がそれを止めた。


「源さん怒らなくていいんですか?あんなのどう見ても喧嘩売ってますよ!」

「だからだろ?近藤さんが耐えている以上、わしらは動くときじゃない」


 小声でやり取りしている梓達など気にも留めず、その後も何かと難癖をつけては笑いものにしてくる男たち。

 しかし何を言っても近藤に受け流され、ついに痺れを切らして真ん中の男がキレた。


「ワレェさっきからなぁにすかしとんじゃ!いてもうたるぞ!」


(さっきからワレワレって我ってことよね?自分がすかしてる?そんで、イテモウタル?ってなに?)


 梓達江戸から来た人間には分からない言葉ばかりで、相手の男たちが怒れば怒るほど言葉が通じなくなってくる。

 それは近藤も同じだったようで、真剣な顔をして首を傾げる。


「すまないが日本の言葉を話していただけるか?先ほどからほとんど何を言っているのか分からない」


 空気を読んで梓が言わなかったことを、近藤は平然と言ってのけた。怖いもの見たさで集まっていた町人たちからクスクスと笑いが起こる。

 それを聞いて男たちは更に怒り狂い、一人の男が何か怒鳴り散らし刀に手をかけた。


「抜いても構わんが、覚悟はできているのだろうな?」


 刀に手をかけた男をまっすぐに見て、先ほどまでよりも低い声で近藤が問いかける。後ろにいる梓ですら、その圧でゾクりと背筋を強張らす。

 刀に手をかけた男は一瞬怯むが、他の男たちが先に刀を抜いた。


「がたがたうっさいんじゃボケェ!あの世で泣きさらせ!」


 近藤は会話で解決できなかった事にため息を吐き、自分も答えるように刀を抜く。

 梓と井上も近藤に続いて刀を抜けば、野次馬に集まっていた町人たちは小さく悲鳴をあげ、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。


「いいか、殺してはだめだぞ。梓君、刀は一本でいい」


 近藤から指示され、梓は脇差を鞘に戻す。

 巡察を始めてそれなりに人も斬ってきたが、殺してはいけないと条件付けられたのは初めてだ。梓は一瞬考えるが、考えるより聞くのが早い。と井上にコソッと話しかける。


「源さん、私返り血が付かない上に殺さない斬り方なんて知りません」

「……ん?返り血?」

「だから、新品の隊服を汚さずに斬る方法を教えてください」


 コソコソとやりとりしていると、前にいる近藤がハハハッと笑う。


「全く。梓君は頼もしいな。まるで総司と話しているようだ」

「勇さん、笑い事じゃないぞ。総司が2人なんてわしは先が不安だ」


 そんなやりとりをしていると、前の男達が刀を振り上げて突っ込んできた。


「梓君、狙うなら利き腕の付け根だ!刀が持てなくなる上、血が噴き出ることがない!」

「なるほど!」


 向かってくる相手をいなしながら梓の問いに近藤が答えれば、梓はすぐさま実行に移す。

 男5人は刀こそ持っていたがただのゴロツキだったようで、あっという間に全員を捕縛することができた。

 羽織も汚れひとつなく、梓はホッと胸を撫で下ろす。


 騒ぎを聞きつけてきた役人にゴロツキ5人を差し出し、梓達は三たび巡察に戻る。


「近藤さん、なんであのとき殺してはダメだと言ったんですか?」


 言い方は悪いが、梓にとっては何も考えず斬り伏せた方が簡単だし楽だった。相手を一撃で仕留める稽古ばかりしていたのだから、殺すなと言われると逆にどうすれば良いのか分からないのだ。


「俺はな、誰でも彼でも殺せばいいとは思わない。人を斬った人間は斬られても文句は言えんが、さっきのゴロツキはそうではないだろう?俺達が勝手に命を奪うより、奉行所で罰を受けて更生する機会が与えられてもいいと思ったのだ」


 近藤の考えを、梓はしっかり頭に入れて咀嚼する。

 人を斬るのも町で暴れるのも罪は罪。それでも罪に重さがあるのなら、その二つは確実に重さが違う。

 ただ町で暴れる人と人を殺した者が、同じように裁かれていいはずがないのだ。それも、一介の浪人である梓達の独断となれば尚更だろう。


「私、これから人斬り以外の不貞浪士は捕縛するように勤めます」

「それがいい。人を殺しすぎても自分が辛くなるだけだ」


 近藤は優しく笑い梓の頭を撫でる。

 梓はなんだかくすぐったくて、同時に近藤の命に対する考え方が好きだと思った。


「近藤さん!これからもいろいろ教えてくださいね!」

「俺でよければ何でも聞いてくれ」

「梓は素直で良い子だなぁ。勇さん、今の話総司にもしてやってくれよ」

「そうだな。アイツもだが、隊士全体にも、出来るだけ捕縛するようにと言っておかなければならないとは思っているよ」


 


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