夢
その日の夜、梓は昼間の出来事を思い出しながら布団に入った。
(今日は朝からみんなで素振りをして、役職を決めて、土方さんは怒ってたけど芹沢さんも新見さんもいて、なんだか賑やかで楽しい日だったなぁ)
続き間にはズラリと布団が並べられ、そこかしこから寝息やイビキが聞こえる。
いつもの風景を見渡して、やっぱりこの人達好きだな。そう思って目を閉じた。
いつになく良い気分だった。それなのに、夢に見たのは、悪夢と言うにはあまりにも悲惨な、最悪な光景だった。
最初に見たのは雨音が響く薄暗い部屋の中。
手には刀を持っていて、その刀の先には芹沢。刺さる刀の上には剣先が見え、前後から刀を突きたてられていらと分かる。
その口からは血を流し、何かを呟く。
その場所は、今梓が寝ている八木家の続き間に違いなかった。
(な、なんで芹沢さんが……!)
悪夢はそれだけでは終わらず、景色が変わる。
今度は山南が、いつものように穏やかに笑って座っている。
しかしその装いは白い着物に白い袴。そして白い裃。それは、武士が切腹する時の姿に違いなく。
(え、嘘。嘘嘘!山南さ…―)
動揺する梓を前に、また景色が変わり、次は月明かりが照らすどこかの通り。地面が黒のような、赤い色に埋め尽くされている。
そこには何人もの人が血を流し倒れており、一目で死んでいるのが分かる。知らない顔ばかり並ぶ事に安堵していれば、最後に目を向けた暗がりに、藤堂がいた。
(……平助…君?どうして!なんで平助君まで!)
次は井上。戰装束のような格好で茂みから飛び出した井上に、耳を覆いたくなるほどの大きな音と共に、突然小さな何かが無数に体に当たる。
その一つ一つの玉に、井上の体は弾かれるように揺れ血を撒き散らす。そして、井上はゆっくりと倒れた。
(なに?何が起こったの?なんで源さんは動かないの?血が出ているの?)
訳もわからないまま、また場面は変わり、竹垣の中に近藤が居た。白い着物に袴と裃。山南と同じ死装束。
しかし違うのは、山南のように切腹するための道具が置かれていないこと。竹垣といい、近藤の座る場所といい、そこはまるで…―
(…処刑場……?なんで?なんでなんでなんで…ー)
次の場所は、戦場でもなければ屋外でもない。
見たことのない部屋に布団が一組。そこには白い着物を着た沖田が、一人庭を眺めて座っていた。
その顔は今とは比べ物にならないほどに痩せ細り、顔色も青白い。コホコホと乾いた咳をしたかと思うと止まらなくなり、水音と共にどす黒い血が、口から布団に溢れ出る。
(沖田さん、病気…なの?…嘘!あんなに元気なのに嘘よ!)
今度は原田。再び戦場のような屋外で、様々な音が入り混じり沢山の人が走り斬り合う中で、槍を振り回して次々と相手を斬り伏せる原田。
しかし次の瞬間、井上と同じように何か玉のような物が腹と脚に当たり、血が噴き出す。
それでも原田は槍を振り回すが、鈍った動きを見計らったように、敵の刀に貫かれる。
(……もう、もう嫌。なんでこんなものを見せるの?……夢なら早く、早く覚めて…!)
願いは届かず、馬が駆けてくる。馬には見慣れない服装をした短髪の男が跨っていた。その男が目の前を通り過ぎようとした時、パァンッと耳をつん裂くような音がして、男が馬から落ちる。落ちる瞬間、顔が見えた。
(土方…さん?)




