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友人の二人から『オレたち結婚する』と報告された場合どうしたらいい?

作者: やまおか

 今日は友人二人との待ち合わせの約束をしていた。

 二人とは大学で知り合って一番いっしょにいる時間が多かった。三人グループでよく遊びまわっていたが、社会人になってからはSNSでやりとりはしても直接顔を会わせるということは少なくなっていた。

 二人から同じタイミングで『話がある』と連絡がきたので、ちょうどいいとみんなで集まることにした。社会人になったしせっかくだからと個室でゆっくりと話せる少し高めな店を選んだら、二人もそこでいいと返事がきた。

 

 待ち合わせ場所に向かうと二人はすでにそこにいた。気安い感じで手をあげて挨拶をかわす。久しぶりの再会をなつかしみながら予約した店に向かった。

 

「おー、いい店だな。でもちょっと堅苦しかったかな?」


 こっちは高そうな店構えにびびっていたが、二人は訳知り顔でうなずきあっていた。二人は営業職って聞いてたし、こういう店にも慣れているのかもしれない。


「まあいいじゃん。ちょうどいいだろ?」


 今回のことを先に連絡してきたのは友人のSだった。陽気な性格で遊びに誘ってくるのもSからというのが多かった。


「そうだね。ここならゆっくり話せそうだし」

 

 柔らかい表情でうなずくのが友人のIだった。自分よりも他人を優先する性格で、三人がうまくやれていたのはIのおかげだろう。

 

 

 四人掛けの席に案内されると二人は対面側に隣合って座った。自分の横に空いた空白と隣り合う二人の距離をどうしてか意識してしまう。とりあえずおしぼりで手をふいて心を落ち着ける。

 

 久しぶりのぎこちなさは料理の皿が運ばれるとお互いの近況を交えた会話と一緒にゆっくりと流れていった。だけど以前とは違う部分も残った。大学生の頃のような無茶な飲み方はせずにコップを傾けるペースも節度を守ったものだった。安っぽいチェーン店でつまらない話で盛り上がっていた頃とは違うんだなと実感してしまう。

 

 それでも、あの頃と変わらない部分はある。Iはかいがいしくサラダをそれぞれの小皿に分けて渡してくれる。昔から世話焼きなやつだったよな。Sはいつも盛り上げてくれて三人の中心だった。

 

「さてと、そろそろいいかな」

 

 頼んでいたコース料理もあらかた片付いたときにSが切り出してきた。何か話があるのはわかっていたけど、わりと大事な話らしい。

 

「実はさ、オレとこいつ、結婚することにしたんだ」

 

「へ、へー、まじで!? それはおめでとう……?」

 

 『結婚』という言葉に反射的にお祝いの言葉を返したが、もう一度さきほどの台詞を脳内で咀嚼する。あれ、ん、んん?

 

「えっと、二人が結婚でいいんだよね?」

 

「そうだよ。驚くよな一緒になんて」

 

 そういえばSNSでのやりとりも、よそよそしいのとはちがうけど何かを遠慮している雰囲気があった。

 

「付き合い始めは卒業してからでさ、おまえにも話そうかなって思ったけどちょっといいずらくて。秘密にしてたってわけじゃないんだけど、ごめんな」

 

「あ、う、うん。いや、いいんだよ。口出しすることじゃないし」

 

 口だしできるわけないよなぁ!

 というか、予想外すぎるカミングアウトに頭がいっぱいだよ。Sの隣にすわっているIにも視線を向けると、恥ずかしそうに目を伏せていた。

 

「あー、うん、結婚とかすごいよな。いつからそういう関係に?」

 

 少しつっこみすぎた質問だったかとためらったが、Sはひょいと肩をすくめながら気軽な口調で語りだす。

 

「ぶっちゃけると、割と前から同棲はじめてたんだ。オレの会社がブラックすぎてつらくてすぐに辞めちゃってさ。貯金もないし、どうすっかなってぼんやり思ってたら『一緒に住む?』なんて言われて、それからかな」

 

 わーお。積極的。

 

「結婚はわかったけど、大丈夫なのか? その色々と……」

 

 法律の問題とか世間の目とかいろいろと。そう、いろいろと。

 

「確かに問題はあると思うけど、これからもずっと一緒にいたいって言ってくれてさ。オレはその気持ちに応えたいって思ったんだ」

 

「ボクも同じ気持ちだよ。まさかプロポーズの台詞が被るなんて思わなかったけど」

 

 SにつづいてIも素直な気持ちを語ってくれた。二人の決意は固いらしい。本気なんだとわかった。友人としてどうするべきか悩む必要なんてない。応援しようという気持ちを固めた。

 

「そっか……、いろいろ悩んだんだろうな。がんばったな、I」

 

「え? ボクのほうはそんなことはないよ。割りと順調でさ。もっと大変だったのはSの方だったと思うよ」

 

「そうそう、やっぱ結婚するのに無職のままじゃいられないしとにかく履歴書を送って応募しまくったよ。んで、この前ようやく決まったんだ」

 

 こんなときまで相手のこと気遣えるなんて本当に優しいやつだ。きっと、それだけ相手のことを大事に思えているんだろう。

 同性愛については特に偏見はなかったが、友人がそうだとわかると対応に困るというのは本当らしい。しかし、結局は二人の問題だ。以前と変わらず友達として付き合っていこう。

 

 

 緊張の時間が終わると以前と同じ気安い呑みの席に変わった。追加で頼んだ料理と酒が並ぶ。

  

「おい、おまえ飲みすぎじゃないか?」

 

「いいだろ、めでたい席じゃないか。こういうときは我慢なんてするもんじゃないよな」

  

「まあ、そうだな。これからもっと大事なイベントが控えているしな。今日ぐらいハメはずしてもいっか」

 

「緊張するよね。両親への挨拶にあとは結婚式、忙しくなりそう」

 

 二人の答えに思わず顔を見る。え、まじで? 

 

「え、やるの? 結婚式?」

 

「もちろんだよ。まあ身内だけでやる小さい式になるけどな。金があまりないからな。もちろんおまえは呼ぶからな」

 

 そうじゃない。やるの? 本当に? こちらの混乱を置いてけぼりに二人で盛り上がっている。

  

「Sは背が高いしタキシード似合いそうでいいなぁ」

 

「何言ってんだよ。おまえの方が似合うはずだ。おまえのタキシード姿も楽しみにしてるからな」

 

 じゃれ合う二人を見ながら想像してしまう。教会で愛を誓いあうタキシード姿の二人を。

 

「そっかぁ……タキシード同士での結婚式なんてのもありかもね」

  

「え?」

 

「ん?」

 

 思わずぽろりと漏れた言葉によって二人の顔がおかしなことになっている。変なこといっただろうか。変な状況で変なことをいったら果たしてそれはおかしなことなのか、と酔いの回った頭で考える。

  

「なにいってんだよ。新郎新婦が二人ともタキシードを着るわけないじゃないか。やっぱり飲みすぎだよ」

  

 Iにグラスを取り上げられる。代わりにお冷が注がれたグラスを渡された。水が注がれた冷たい感触を手のひらで感じながらも混乱する頭はありえない答えをはじきだす。じゃあ、Sがドレス着るの? そうなの? 筋肉質でスポーツ刈りしてる男がドレス姿になるの? お冷によって戻った思考回路が頭の想像力を補助しだす。

 

「そ、そっか、うん、ドレスか。いいんじゃないかな。きっと似合うよ」

 

「もちろんだよ。みんなにボクのお嫁さんはこんなに美人だって自慢してやるんだから」

 

 いつも控えめだったIが誇らしげな顔をしている。

 このときの自分は悟りをひらいた仏のような顔をしていたと思う。

  

 店を出ると、きれいな星空が広がっていた。店に来たときの緊張がうそのように晴れやかな気分になっていた。

  

「じゃあ、オレたちは行くから」

  

「なんかあったら遠慮なく連絡してくれよ。ノロケ話でも相談でもいいから」

  

 小学生みたいに手を振りながら別れ、離れてい二人の背中を見送った。

 

  

 そこからさらに話が進んでいく。ようやく自分の勘違いに気がついたのは、半年後の結婚式でのことだった。

 

 この日は覚悟を決めて式場に向かっていた。地味だがきっちりと着込んで髪型も美容院で整えてもらった。すべては友情のためだと覚悟を決めようとするが、扉を開ける手のひらにはじっとりと汗をかいていた。

 たとえ、友人二人が周囲から理解されない道にすすんだとしても……それでも、と前へと進むことを決めたのだ。腕に力を込めて扉を開けた先には予想外の光景が広がっていた。

 

「はじめまして、お話は聞いています。大学からの大親友なんですよね」

 

 Sの隣にはすらりとした美人が立っていた。もちろん純白のドレス姿だ。Sはタキシード姿で照れた顔をしている。

 

「いいなぁ、わたしたちの式も素敵なものにしようね」

 

 そういってIに笑顔で語り掛ける女性。小柄でかわいい子でその関係を一目で理解する。

 

 肩の力と一緒にいろいろな覚悟が抜けて、今度こそ心の底から『おめでとう』が言えた。

 

 

 常に何かにとらわれているのが人間だ。誤解や思い込みはしょうがないよね? 自分には恋愛とか結婚なんて関係ないものと思っていたけど、幸せそうな二組のカップルを見ていると考えを改める。ドレスいいなぁとわたしはうらやましくなった。

 

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