トリベナ祭2
ちょっと時間空きすぎたかも。
校舎の群れを分け隔てるような大通りがある。幅は運動場のように広く、奥行きは1kmほどありそうに思える。
なぜこれほどまでに広いかは所説あるが、ともあれ利用者は多く、朝はジョギングに勤しむ学生や、横幅5人分の列を成して歩く一団も散見される。
第一大通りという簡単な名前の道とはいえ、その有用性は学園祭の時にこそ真価を発揮すると実感した。
なぜならば、こうやって出店の前に人が並んでも邪魔にならないほど、十分な余裕があるからだ。
「ま、間に合わない!」
「野菜切っておくぞ」
「いらっしゃいませい、はいどうぞ!次の方!」
思ったよりも忙しい。ユカが焼き麺を作り、ミコトがそれを売りさばいていく。俺は野菜の下処理や、荷物の搬入などを手伝った。
お昼時とはいえ、思ったよりも盛況だ。目の前に10人近く人が並んでいるが、売った傍から列に人が入る。
しかし、目を見張るのは隣の店舗だった。
「よっしゃぁ、盛り上がってきたぜぇ!」
隣の店舗はひと際大きい。従業員も10人ほど居て、その盛況ぶりは驚異的だ。なんと、100人は並んでいるように見える。
演出もすさまじい。
光魔法だろうか。光の粒の集合体が、さまざまな料理を形作っている。さらに、音響も整備され、しばしば揚げ物の音が拡張されているように聞こえる。
店内をちらと除けば、料理をしている部員と魔法を使っている部員が居る。顧問の姿は見当たらない。…あくまで店内には、だ。
空を見上げる。微かだが、小さい人影が見える。
恐らくあれが魔導工作部の顧問なのだろう。先ほど魔導工作部の部員と話した人が、そのまま上空に飛翔したのを見た。
“本来”今日は雨らしい。不自然にこの人影を中心とした、円形の青空が存在を主張している。非常に遠いが、空の端には厚い雲ができていた。
よもや天候を操っているのか。魔法の極致の一種なのかもしれない。
一方、俺たちウィーク部の屋台は、支給された屋根を整備し、ありあわせの紙で作った簡易的な店舗だ。
しかし、一定数の客足がある事を見るに、この質素さが、かえって名店らしさを演出するのに一役買っているのかもしれない。
「ははっ、負けてられないね!」
「そうだな、勝つぞ、この勝負」
「んんっ!いらっしゃいませい!」
ユカ、ミコトとともに、想像以上ににぎやかな運営ができていた。
妙に気分が高まり、普段言わないことも言ってしまう気がする。これが学園祭か、案外悪くない。
先刻考えていた不安は、特に現実にはならないでいた。
ーーーー
「そういえば、さっき話しかけてきた魔導工作部って、どんな部活なの?」
「たしかに、妙に因縁をつけられている様子だった。」
「むむむ、私も詳しい方じゃないんだけど…そもそも、ウィーク部は魔法工作部の一部門だったらしいんだよね。」
「へぇー…」
言われてみれば、ウィーク部のルーツはほとんど知らないままだった。
そもそも、先輩が一人も居ないのも不自然な話だ。
「魔法工作部はかなりアグレッシブな部活で、冒険者の真似事のようなことをしてるらしいんだよ。外で魔物を狩って、その素材を加工して道具にする、みたいな、文武両道の部活なんだ。」
机に両肘をつけ組んだ手で口元を隠すような、やや芝居がかった格好をしながらミコトが続ける。
「それで、魔法工作部は大きく分けて、素材集めをする探索チームと、その加工をする工作チームに分かれていたみたい。」
「さすがに危ない目に合う部員もいるから、工作だけの部活があった方がいいよねって事で、工作部門の有志が集まって、ウィーク部ができたんだって。」
「それなら、たしかに自然だね。」
「でも、結局先輩たちが何かしらの問題を起こして、みんないなくなっちゃったみたい。———マスターが言ってたのは、こんな感じだった気がする。」
おおむね流れは理解できる。しかしそれで反発が起こるのは不思議だ。
「うんにゃ、でもなんで喧嘩売られたかはあんまりわかんないなー。」
ミコトが分からないのなら、ひとまずはここまでといった所だろう。
「ミコトはあの彼、レウといったか。彼とは面識があるのか?」
「え、ないよ?」
「じゃあ、なぜあんなに警戒していたんだ?」
「そりゃあ、いきなり喧嘩売られたら誰だって買うでしょ!」
武闘派すぎやしないか。
「でもミコトちゃんは結局、唸ってただけじゃない?」
「あ、確かに。宣戦布告するの忘れてた。」
「あの後すぐに撤退したからな。」
「…妨害とかされないと良いね。」
因縁が付いたような無いような、神妙な雰囲気で場面が終了したのを思い出しつつ、その話題は終了となった。
ーーーー
「おい、おまえ。そっちの上回生が見えねえな。どこにいる?」
「むむ、レウさん、で良いか。ウィーク部員はここの3人で全員だ。」
昼食の時間帯が過ぎ、客足が遠のきはじめて余裕ができた頃、隣の魔法工作部のレウが近づいてきた。
他の2人は店番をしているので、俺しか対応できなさそうだ。
「そんなことはないだろうが。あと5人は居るはずだぜ。お前たちは新入部員だろう?」
「生憎、先輩とは一切面識はない。本当に知らないんだ。」
「…」
神妙に目を細めるレウ。何か魔法を使っているような、別な技術を使っているような、とにかく内面を探られているような妙な感覚がした。
「…嘘じゃないみてぇだな。だが、なんでだ…」
少し考えるそぶりをした後、すぐにこちらに向き直り、急に頭を下げてきた。
「すまねぇ、一方的に因縁をつけちまった。お前たちには関係のない話みてぇだ。」
「代わりと言ったらなんだが…うちのコロッケだ。くれてやる。味わって食え。」
謝っているのか見下されているのか、よくわからない態度を取られながら、ありがたくコロッケを拝借する。
「あ、ありがとう。後でこちらの焼き麺も渡そう。」
「いや、それじゃあ詫びにならねぇよ。おとなしく受け取っておけ。」
「そうか。ではこれで。学園祭を楽しんでいこう。」
「おまえ、表情はほとんど変わらないのに、妙に楽しんでいる雰囲気がしやがる。変な奴だな。」
「心外だ。」
「ああ、それともう一つ。現役の冒険者の演武がそろそろ始まる。行きたけりゃ、店をいったん閉じて、行ってくればいいんじゃねえか?」
「そうなのか。検討しておく。」
ふむ、情報もくれるとは。態度は高飛車だが、心根は優しそうに見える。何か嫌なことでもあったのだろうか。
やや失礼な想像をしながら、俺は持ち場に戻った。
ーーーー
「ほよ、あやつ、気付いておりそうよの〜」




