トリベナ祭1
ミコトの謝罪事件を機に、俺たちは示し合わせて集まる様になっていた。
毎日とは言わないが、魔法陣を組み立てて残念な呪文を組み立てるのが日課になっている。
…と言いたい所だが、グレイス先生と講義混じりの雑談で終わる時もあるし、何なら課題をこなす自習室として使う時もある。
部活動にしては、あまりにも制約の無い平穏な日々が続いていた。
そんな矢先、ミコトがいつもの調子で部室に飛び込んできた。
「みんなー!お祭りがあるみたいだよ!」
「お祭り?」
「文化祭か?」
この大学にどの様な祭りがあるか、正直あまり分かっていない。どうやら年に2回ほどある様だが…名称も実施日も不明だ。
その疑問は、直ぐに解決することになる。
「トリベナ祭!春の文化祭だね!!」
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トリベナ草、3つの丸い葉が均等に開く、ありふれた植物の一つだ。その普遍性や生命力から、永遠や不滅、という言葉を冠する事も多い。
すなわちトリベナ祭は、大学とアース王国の発展が、永遠に続くよう祈願する、という想いが込められているのかも知れない。
「そこで、私たちウィーク部も出し物をしたいと思います!!」
「たった3人でか?」
「ちょっと厳しくない?」
「えええ!?絶対やりたいって言ってくれると思ったのに…!」
ミコトには申し訳ないが、3人で屋台なり出し物をするのは、到底力が足りないと感じていた。
ましてや、経験のある先輩も全く居ないのだ。
しかしそこで、頼れる助っ人が現れる。
「折角だしやってみればー?人生であと何回あるか分からない催しだよー?」
グレイス先生だ。時折、絶妙な瞬間に現れる事がある。まるで見計らっているかの様だ。
「学生ってのはね、唯一失敗しても笑って済まされる存在なんだ。社会に出てからは、そうそう簡単に許されたりしないよ…」
態とらしく中空を見つめて宣うグレイス先生。だが、確かに言ってる事は納得のいく内容だった。
「まあまあ、3人で何が出来るか考えてみようよ!!諦めたらそこで試合終了だよ?」
「試合すら始まってないけど…」
「ひとまず考えてみて、やはり難しそうなら、諦めて力を蓄える事にしよう。ユカもミコトも、この辺りが落とし所じゃないか?」
「確かに…じゃあ3人で何出来るか考えてみる?」
「待って待って、よく考えたら4人だよ!!」
「だが、学生は3人…」
「マスターに手伝ってもらえば万事解決じゃん!!」
なるほど確かに。教授にして銀級冒険者のグレイス先生であれば、これ以上無い強力な助っ人だ。
「あー、期待してもらってる所悪いんだけど、私ちょっと遠出する事になったから、しばらく居られないかなー。外せない会議があるんだよねー。」
「ええ!?そんな殺生なぁ〜!」
「お若い3人で、頑張ってくれたまえー。」
「ぐすっ!」
「嘘泣きしても無駄だよー?」
やはり冒険者なのだ。頻繁に部室に居る訳にもいかないのだろう。そもそも、週の半分は現れる方が特殊だったのだ。
「まあ、もしやりたい事が決まったら、今週中に教えてね。手続きくらいはしとくからさー。」
「分かりました、ありがとうございます。」
「はーい、それじゃあねー。」
嵐の様に現れた先生だったが、直ぐに居なくなった。
…先輩も先生も居ないのは、本当に大丈夫なのだろうか。
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「ではでは、これから出し物会議を行います!」
「「はぁーい」」
開き直った俺たちは、どの様な出し物が出来るか会議を始めていた。
「まず、食べ物屋さんか、工作系かどっちにする??」
「工作系はおそらく技術が足りない。出来なくもないが…もし事故を起こしたりしたら責任が取れない。」
「お堅いなぁー、もぉー!!」
「待って、そもそも魔法の使用は顧問必須って書いてるよ?」
方向性を決め始めた頃合いで、ユカがパンフレットを開く。先ほどミコトが持ってきたものだ。
「えっ!?グレイス先生居ないからダメじゃん!!」
「終わったな…」
仮に魔装具で何かしらの取り組みをするにしても、魔法の使用が禁じられる以上、何もする事が出来ない。
「食べ物屋さんなら何とかならない?」
「火器の使用許可が顧問無しで出るなら、むしろそれしか無さそうだな。」
「揚げ物いっぱい作ろ!!」
「揚げ物か…無難そうだ」
揚げ物であれば、衛生管理もしやすいだろう。取っつきとしても良さそうだ。
「じゃあ私、委員会に交渉してくるよ!!」
「分かった。まず、揚げ物出すなら何が必要か聞いてみようか。」
「ここは3人で行こう。情報共有のミスを減らしたい。」
「いいね!レッツゴーだよ!!」
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「机、揚げ壺、炭、吸気核、オリブン油…諸々込みで貸し出し料20000Zenになりますん。学生証見せてくんださい。」
「ええー!?お金居るの!?」
「出店に使う備品は、トリベナ祭運営会が貸し出した備品が基本なん。」
奇妙な喋り方の委員が、ざっと見積もりを示す。寝癖が強い銀髪の女生徒だ。寝不足なのだろうか。
あくまで最低限の備品に抑えたつもりだったが、どうやら相当な金額が必要の様だ。
「くぅー!チビシー!!」
「委員会の人、仮に燃料を持ち出せるならどうだ?」
「それでも、18000Zenですん。」
「きえー!」
「じゃあ、油も持ち込みならどうですか?」
「それなら、6000Zenですん。油は魔法で出せない消耗品なので、高いんですん。」
「なるほど、油が高い、か。」
どうにも、家の近くの物価とやや違う。この大学付近は魔法を使った産業が利用できるので、価値の比重が他と違うのかも知れない。
「であれば、焼き麺などはどうだ?概ねの金額が知りたい。」
「焼き麺用の設備なら、大体8000Zenになりますん。油が要らないので、安いですん。」
「なるほどね!!油をやめれば良いわけだ!!」
先ほどから1人で悶絶していたミコトが、急に理性を取り戻した。
「ウィーク部は、焼き麺をやります!!」
「相変わらず勢いがすごいな。」
「元気だよね。」
「お二人とも、大変そうですねん。」
委員会の人も少しツッコミを入れながら、方針が決まった。
ここで、想定外の横槍が入る。
「今よぉ、ウィーク部って言ったか?あの裏切り者共、まだ残ってやがったかよぉ。」
「ぬぉ!!何奴!?」
「「!!」」
振り返ると、やや青みがかった黒髪を後ろで括った、大男が現れた。不機嫌なのか、苛立ちを隠そうともしていない表情だ。
一触即発。ミコトが犬の様に唸り始めた。…こいつ、たまに自分が人間なのを忘れてはいないか?
「あー、レウさん今年もよろしくお願いしますん。また揚げ物ですかん?」
「ああ。揚げ壺を3つ頼む。今年もウチが、魔導工作部が覇権取るぞぉ!」
「だが今、それだけじゃあねぇ。お前らウィーク部、もう一回、揚げ物で潰す!」
あ、思ったより平和的なヤツかもしれん。




