表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

基礎呪文構成論実習1 呪文構文論 / 放課後3

「前に片付けちょこっとしたし、ゆっくり出来そうだね!」


「そうだな、前回よりは綺麗になっている。」


「え?綺麗??照れる〜」


「お前ではない。」


やや秩序を取り戻した部室に、俺たちは集合していた。ちなみに4限のイオ先生の授業は、マイン先生と似た方向性の話で、エーテリウムによる魔法陣の分類を学んだ。だが、一つ異なっていたのは…


ーーーー


「では、エーテリウムの結び目をどのように繋ぎ合わせるか。それこそ、”絡み目” です。」


イオ先生が3葉結び目と8の字結び目を繋げる。だが、単に線で結ぶのではなく、まるで取り込まれているように、絡ませながら組み込んだ。


つまり、1つの交差を作った上で取り付けたのだ。


「このように、複数の結び目を交差数を以て繋げた物を、絡み目と呼びます。この連結する数を絡み数と呼びましょう。」


絡み数、つまり呪文の大きさに直結する物だな。これが大きくなるほど、呪文の大きさも上昇するのだろう。


ちなみに、ミコトは横で授業を聞いているように見えたが、顔を上げた状態で寝るという奇行に及んでいた。


…さっきも寝ていなかったか?


「ではそこの、豪胆にも睡眠を取るあなた。素な結び目も絡み目の1つなのですが、絡み数で表現するとどの様に言えますか。」


寝ている人には直ちに目をつける先生らしい。それとなく突いて起こしてやる。


「ふがッ!エッおはようございます!!」


「はい、おはようございます。問題は聞いていましたか?」


「えぇっとぉ、…リオン助けて!」


「おそらく、”絡み数0の絡み目”だ。正解とは限らんがな。」


「ありがとう!!命拾いしたよッ!」


小声にしては先生にも聴こえていそうな声量で話すミコトは、すぐに向き直る。


「ええと、絡み数0の結び目です!!」


「ふむ、御友人に感謝を伝えておくように。それと、回答としては、絡み数0の絡み目、となります。惜しい所でした。」


「あれれ!?」


聞き間違えたか、勘違いしたか。…これは俺も間違えた事にならないか?


「このように、呪文の要素が”素な結び目”であり、これを繋げた物が絡み目、すなわち呪文構文になります。」


「では本日はここまで。来週からは具体的な呪文を紹介していきましょう。」


ーーーー



詰まる所、散らかっていた魔法陣を組み合わせて、魔法が使えないか検証したい、というのが俺たちの目的だ。


この魔法陣は、先輩が置いていった教育用の魔法陣らしい。一つ一つが大きく丁寧に作られている。例えるなら、遊戯で使う札などに似ているだろう。


しかし、結び目としての立体構造を作るために、高さは5mmほどの分厚い板だ。


「ユカちゃんこれ、”形式型”かな??」


「8字結び目だね。色は緑だから、多分形式型だと思う。」


「意味はOutputだったか。」


「うん、体から魔法を出す”形式”だよね。」


「試しに、マイン先生がやってたお風呂に入れるやつ?やってみようよ!」


「やめてよ、この部屋、また掃除しないとダメになる。」


「光を出すのはどうだ?後で窓を閉めて確認してみるか。」


3人で雑談しつつ、魔法陣を机に並べていく。とはいえ、この魔法陣は教育用であるため、エーテリウムの型と結び目の種類は書いてある。これを参照し、部屋にある物を組み合わせたら呪文が完成するだろう。


「あ!絡み目ってどうやって作るんだろ?」


「ここの接続部を使うんじゃないかな。ほら、外して向きを変えられそうだよ?」


「本当だな。思ったよりも簡単に外れる。」


「ねえねえ!これって”前に動かすヤツ”じゃない?同じようなラベルが付いてる!」


「”修飾”の魔法陣もあったか。付けてみよう。」


魔法陣は、およそ10cmほどの大きさの札のようになっている。各辺縁には取り外し可能な部位があり、エーテリウムの円環がそこに入り込んでいる構造だ。


つまり、この取り外し可能な部位を付け替えたりすれば、絡み数を増やした上で魔法陣を接続し、呪文として組み立てる事ができる。


Outputを起点に、Illuminateの効果を繋げ、さらに”前に動かすヤツ”ことCoordinateForward1と接続する。


この修飾、授業での名称とやや異なるように思えるが…気にせずにやってみよう。


カチカチと魔法陣を繋げていき、3つの呪文要素を繋げた構造が完成する。


「じゃあ、今日は俺が魔法を使ってみても良いか?」


「良いよ。何か気づいた事があったら教えて。」


「ワクワク!」


実習科目での経験に加えて、グレイス先生が言っていた、”魔力を置きに行く感覚”というのを意識してみる。次の瞬間、Manaが通った証拠に、魔法陣が発光を開始した。


そして、俺の体の目の前が強く発光する。


「…!眩しィっ!!」


「こんなに光るんだ…」


「ピカーン」


想像以上に至近距離で発光したため、目が開かない。思わずミコトのように取り乱してしまった。


「…魔法って何だか愚直だよね。」


「わっユカちゃん、世界への冒涜だー!」


「そんな大袈裟な…びっくりしただけだよ。」


なかなか興味深い結果であったが、都合よく手のひらを発光させたり、松明のように一点を光らせることは、まだ難しいらしい。


ここで、我に返ったミコトが、思い出したように訴える。


「そうだ!約束通り、2人に面白い物を見せてあげるよ!」


「ああ、さっきそんな事言ってたね。別にお礼とかはいいよ。」


「いやいやァ、お納め下さいよぉ!」


大袈裟で滑らかに奇怪な動きをしながら、ミコトは鞄から本を取り出す。表紙の文字は、古代文字に見える。しかしながら、所々如何なる種類の文字か判別出来ない物もある。


「驚いたな。これは相当な年代物に見えるが、不気味なほど状態が良い。」


「何これ、本当にミコトの私物なの?」


「うん!気付いたら持ってたんだ!」


やや引っかかる言い草だが、中身が気になるな。


「ミコト、これは読めるか?」


「読めるよ!これこそがイングリッシュってやつさ!!」


「本当か!?」


ミコトの悪ふざけとばかり思っていたが、実在する文書に記された言語だったとは。


「では、表紙は何と書いてある?」


「だいがくにゅうしぃ、ごぉーるどえいたんごぉ、にせん、これひとぉつでぇ、きょうつうてすとよゆぅ…」


「だめだ、分からん。」


「イングリッシュの説明は、どうなってるの?」


「おっけ!中身読むよぉ、..まず一つ目、Ask:尋ねるぅ。」


「アッ…って何だ?鳴き声か?」


「リラーックス!リピートアフター、ミー、真似してね!”Ask”、尋ねる!!」


「「As..」」


ミコトの勢いに乗せられ、イングリッシュなるものを読み上げようとした時、ふと声が出なくなっている事に気付く。


理由は明白。口に何者かの手が当てがわれていた。


「ミコトちゃーん、言ったよねー。それ、家から持ち出すなって。それでさー」


横を見ると、ユカも同様に口を塞がれていた。同時に、飄々とした喋り口から、下手人が誰か理解した。


「あまつさえ、人に見せたらダメだって。」


体の違和感に気付く。感覚がない。力の入れ方そのものを忘れたかのように硬直していた。


目の前のミコトは、顔を青くして震えていた。今までふざけていた態度とは異なる、生物としての”本能的な怯え”に見える。


少なくとも背後に立つ存在は、それほどの威圧感を放っているという事だろう。俺の今の視点からでは、その表情を伺い知る事はできない。


その存在、グレイス教授は、間をおいて厳かに発言した。


「それが私との契約のはずだよ?コモレビ•ミコト。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ