放課後1 未知との遭遇
隔週金曜日投稿(大嘘)
日常パートも大事にしていきたいですね〜
あまりにも濃密な1日だった。初めて聞く内容が多く、上手く咀嚼しきれていない部分が多い。しかしながら、魔法を理解していく過程は面白い、そう思える。
将来の目標などは何も考えつかないが、この面白さを糧に努力するのも良いだろう。
しかしながら、先ほどの授業では、あまり魔導書にManaを貯めることは出来なかった。
他の学生が100程度まで蓄えられる中、俺は50程度…やはり、魔法そのものの才能は薄いのかもしれない。
とはいえ未だ魔法学系の最初の授業だ。努力次第では、成長できると信じたい所。
1日をやおら振り返りながら、敷地内のコミュニティエリアを歩いていた。この通りを抜ければ学生寮が近づいてくる。
しかしながら、途中で見覚えのある人影に気づいた。
あの遠くで読書に耽っているのは、先ほどのユカか。
せっかく会話も出来たのだし、少し話しかけてみるか。
「お疲れ様、と言えば良いか。さっきぶりだな。」
「ああ、こんにちは。またお会いしましたね。」
「あの講義は理解できていたか?」
「ええまぁ、マイン先生のですね?大筋は捉えれましたけど、細かい部分はまだ。」
「一つ分からないことがあった。炎球投射魔法とは、有名な火の玉を飛ばす魔法で問題ないのか」
「そうですね、その理解で問題無いと思いますよ。」
「そうか。」
まずい、話す内容が無くなった。
「部活動には入っているのですか?」
「いや、まだだな。そもそも何があるか分からない。」
「なるほど。では少し見に行きますか?」
「そうだな。部室棟はこのまま右か?」
「左です。ちょっと行ってみましょうか。」
「一緒に来るのか?別に一人でも問題ない。」
「良いじゃないですか。そもそも大学にまだ知り合いも居ないわけですし。戦闘魔法学科の方と交流を持つのも良いかと思いまして。」
「そうか。俺としても、確かに理学部との関わりを持つ機会は貴重だな。では、少し歩こう。」
高校では異様な身体能力の高さゆえ、俺は多くの人間に敬遠されてきた。このように、怯えずに会話をしてくれる存在は、俺としても有難い。
「あと、敬語じゃなくて良いぞ。仲間として距離を感じる。」
「仲間まではまだ行かないでしょう、でも、分かりました。いや分かったよ、以後よろしく。」
「ああ、よろしく頼む。」
この出会いが全ての始まりだった、なだという物語風の言葉を脳内で流し、自身で嘲笑する。そんな簡単に未来が変わることもないか、と。
少し話しながら歩みを進めると、校舎と似た造りの、しかし規模は小さい建物が見えてくる。石材を基調とし、彫刻も控えめながら成された造りだ。
屋根は、カワラという伝統的な工作に基づいた形式になっている。石を研磨し、流線型の板を何枚も作って重ねるのだ。
近年の魔法使いは大きく力を付け、このような大型石材建築も、一般的な建築法として使用可能になったらしい。
ユカ曰く、Tidaliumが発見されたのもここ50年ほどの事のようだ。先ほど授業に出た金級冒険者も50年前のようで、その頃から魔法使いは大幅に力を付けたことが伺える。
「着いたね、中を覗いてみようか。」
「ああ、楽しみだ」
「リオンさんって、見た目の割に感情豊かだね。」
「そうか?俺は普通だと思うが」
「何というか、面白いと思うよ。」
「そういうものか。」
マイン先生を彷彿とさせる、深淵な目線を感じた。ただ、ユカの眼鏡は別に普通に見える。
む、後ろに人が居る。誰だ?
「やあやあ!そこのお二人さんっ!ウィッチクラフト!ウィーク部に入ってみない?いつでもウェルカムだよ!!」
やけに元気な声がする。振り返ってみると、快活な雰囲気の少女が話しかけてくるのが分かった。
明るい赤みがかった髪の少女だ。しかし、不思議な雰囲気を感じる。言葉にし難い違和感がある。
「ウェル?不思議な言葉だが、先輩か?」
「リオン君、基本初対面の人には、敬語の方が無難だよ。」
「それもそうだな。失礼しました、見知らぬ先輩。俺は一回生のリオンという者です。名前を伺っても?」
「名前??コモレビ•ミコトと言います!やっぱり新入生だね!あっつぅ!!」
おそろしく元気な話し方だ。現実にこんな人が存在するとは。
「あの、ウィーク部は、何の部活なんですか?」
ユカが尋ねる。確かに、気圧されていたが、目的は部活を調べる事だったのを思い出した。
「お?興味持ってくれた??聞いて驚け!ーーー本部活は、魔装具を作って遊ぶ本格的クラフティイング!ッックラブなんだよ!!」
魔装具か。授業でも少し触れられていた。だが詳しくはわからない。魔法使いが身につける、魔法使用に必要な道具全般、という大雑把な印象だ。
「クラフティ?よくわかりませんが、部活動の一環で魔装具作りをしているんですか?」
「イェース!ザッツライト!ピースピースぅ!!」
「「??」」
ユカと二人で首を傾げてしまった。ついに理解できる言語が無くなってしまったな。古語の一つか?
「あの、先ほどから話してらっしゃる言語は、一体何ですか?」
「んん?多分ほとんど誰も知らない謎の言語でっすよぉ!イィングリッシュってやつさ!」
「イングリッシュ?初めて聞きました。魔物言語ですか?」
魔物言語か。確かにその可能性もある。この大学の文学部では、熱心に研究されているという話だ。ゴブリンやオークなど、対話可能な魔物の言語体系として有名だな。
「いんや、まあその辺はテキトーで良いよ。とりあえず見ていってよ!色々置いてあるよ!!」
「はぁ、ではお言葉に甘えて。」
気のせいか、ユカがこの先輩、ミコトをヒトとして見ていない雰囲気がした…まあ良いか。
「では、良ければ案内願います。ミコト先輩。」
「およよ、いきなり下の名前なんて…熱烈だねぇ!」
えぇ、人には下の名前で呼びかけるのが常識だろう。奇妙な感覚をお持ちのようだ。
「とりあえず付いておいで!レディ、ゴー!!」
ともあれ、魔装具とはどのような物だろうか。楽しみだ。
ーーーー
「さあ、入って入って!!」
部室棟の端、人通りも少ないそこに、その部屋はあった。
入り口に謎の材木の破片や、工作道具が散乱している。とても国立大学の一施設とは思えない無秩序さだ。
だが、中に入るとそんな感慨が浅はかだったと思い知らされる。
「なんだ…、これは」
棚に乱雑に置かれた魔法装置、工作道具の棚はみだりに開け放たれ、足元に魔法陣を封入したらしき物体が散乱している。
無造作に積み重なれた馬車?の車輪は、もはや目的が分からない。工作台も、とても機能するようには思えない状態にあった。
中身の抜かれた表紙だけの魔導書は、この部屋の持ち主の管理能力の煩雑さを物語っている。
「どう!すごいっしょ!」
「…ええ、凄惨、という意味で。」
やはりユカも俺と同じ心境らしい。礼儀良く振る舞うのを忘れている。
「…どれか、使えるものはあるのですか? たとえば魔導書とか。」
「え、無いよ!!」
「「???」」
よもや、そんなにも自信を持って言うとは。
「魂視鏡とかは…」
「無いよ!!」
「…」
これは、本当に見せてくれただけか?そもそも他に先輩は居ないのか。
「おーいミコトちゃーん、片付け進んだー?」
3人以外の声が聞こえる。他の先輩か。
「あ!マスタゥアーッッグレイス!!お疲れ様です!」
「相変わらず元気だねー、、おお!その二人、新しい子ー?」
「イエスボス!ぜひウィーク部に入りたいと申しております!」
イングリッシュとやらは分からないが、とにかく要らぬ方向に話が進んでいることは分かる。
「いえ、あの…」
「おおー!それは良かった。この部活この子しか居なかったからねー、部員が増えて何より何より。」
あ、まずい。この人も勢いが強いぞ。ユカが押し負けている。
「あ、すいません、私まだ入ると決めた訳じゃ…」
「自己紹介、まだだったねー。私はグレイス、このウィーク部の顧問をしているよ。よろしくねー。」
グレイス、教授級だろうか?栗色の長髪で、耳も隠れるくらいの毛量だ。目はにこやかに細められている。
若い女性に見えるが…底知れぬ雰囲気というか、”何か違う生物”という感覚がする。
ミコトと言い、何やらよからぬ人が集まる部活なのだろうか。…人数はこの二人で全員らしいが。
そろそろ助け舟を出さないと、あらぬ方に誤解を招きかねない。
「すみません、グレイス先生。俺たちはまだ見学で、入部するとは決めていません。」
「そうだったのー?、ごめんねー。ミコト、ダメじゃなーい勝手にきめちゃあさ。」
「へへっすみませんっ!マスターぁ」
「全く、、」
ともあれ、誤解が解けてよかった。このままでは大変なことになる所だった。こんな怪しげな部活、すぐにでも脱出せねば。
「あとミコトねー、実は新入生だよ。」
あ、え?
「そ、そうだったんですか…?じゃあ、どうしてそんなに元気に…?」
「え?せっかくだし先輩風吹かしたいじゃん?現にこの部活じゃ私先輩だよ?」
「1週間だけねー。」
「…」
ああ、授業だけでなく、出会いも濃いらしい。ひとまず今日のことをまとめないと気が触れそうだ。