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基本創構魔法論1 魔法基盤論

科学的知見もしばしば引用しますが、専門の方から見て矛盾などあれば教えて下さい。

「入学手続き大変だったぜ」

「教科書は何を買っていいか全くわからぬな~」

「いや、指定教科書一覧みとこうよそこは」


学生たちが雑談する声が聞こえる。そろそろ昼休みも終わりか。


ここは大講義室、俺は教室の後ろから3番目という、不真面目だと思われたくない割には、ある意味もっともやる気がない人たちが集まる席に陣取っていた。


大学に入学できたのは良いものの、友達作りも何から始めていいか分からない。結局ひとりぼっちのまま初回の授業を迎えてしまった。


ゴーン…ゴーン…


鐘の音が鳴る。どうやら3時間目が始まってしまうらしい。正直単位さえ貰えたらいいか、という程度の気持ちでこの授業は取っている。


こうもやる気がでないのは、もっぱら自分の魔法適正の低さだろう。俺は体育の成績が高くて、この学科に入学できたクチだ。


べつに勉強が好き、というわけでもないし、卒業したら適当に戦士冒険者にでもなろうと思ってる。


国立アース魔法大学 創構魔法体育学部 戦闘魔法学科


おもに冒険者業を志す人間が集まる学科だが、俺の周囲にたまたま冒険者を目指したい、という人間が多く、なあなあでこの学科を選んだ。


あとは国立大学として、分かりやすい良い大学を出た、という肩書がもらえるのもある。


得意な体育を受験科目にできたのも大きい。実際受験会場じゃ、俺以上にうまく体を動かせる人間はそんなにいなかったと思う。


だけど、魔法適正検査と数学Ⅰはマジで失敗したと思う。微分積分の問題が難しくて、時間内に終わらない。



全部の科目が終わった後で、魔法適性検査で魔力を魔法陣に流しまくった。


これで炭ができるわけだが、他の人よりだいぶ炭のサイズが小さかった。


正直1割とれているかも怪しい。ほかにも科目はあったからそっちでとれたのか?


この大学成績開示システムがないから、点数配分とかわからないんだよな。


おっと、脳内でさみしく独り言をしていたら、教授が来たようだ。


「おはよう。それでは、えー科目なんだっけ、そうそう、基本創構魔法論1の授業を始めますよぉ。」


若い女の先生だ。ちょっと小さめか?ここ戦闘魔法学科なのに、あんまり強そうには見えないな。あと今昼過ぎだぞ、あいさつ間違えてるだろ。


「今日から授業させてもらいます、マインと申しますぅ。普段は理学部にいるんですが、基礎論の方は私が担当しますぅ。出席は毎回レポートを出して、最終回のテストで評価しますね~、次の授業までにレポート出してください。出席は入口でしてくれましたか?手をかざすだけで良いですからね~」


なるほど、理学部の先生なら弱そうなのも納得だな。


「まず、君たちには才能があります。これは生まれてからずっと教えられてきたことだと思うけど、魔法を使える人は100人に1人なので、もう天才といっていいと思うんですよねぇ。ここにいるのは、魔法適正検査を突破した人だけで、テストの成績が良くてもこれに引っかかると落ちます。まあ、面接みたいなものですよぉ。部外秘ですけどねぇ。」


確かに、魔法が使えると分かった時は、両親とも両手を挙げて喜んでいたな。


衝撃の事実発覚、成績開示がされないわけだ。そもそも言ってよかったのか?


「自己開示ってやつですよぉ。ではこれくらいにして、魔法の基礎を説明していきますねぇ。」


「初回は、魔法とは何か、ということを考えていきましょうねぇ。手始めにこの世界の次元を定義しましょうか。あ、私どんどん当ててくタイプなので、頑張ってくださいね~。じゃあ、一晩後ろの隅っこの君!この世界は何次元ですか?」


うわ、最悪。後ろから当ててくタイプかよ。結構すぐ順番来そうだな。


「あ、ええとぉ、4次元です!」


誰かが当てられた。俺もその辺曖昧なんだよな、なんとなく4次元な気がするが。何が正解なんだ?というかこの強度の質問が来たら結構厳しいぞ。


「ふうむ、なぜそう思いますか?」


けっこうがつがつ来るな。もはや単位落としたか?


「いやええーっと、世界は実空間の3次元構造と、魔法次元の1次拡張構造があり、合計して4次元構造だからです!」


「なるほど!おおむね考え方はあっていると思いますよぉ。はい拍手!!」


パチパチパチ…


おいおい地獄か、1人、一番前のやつが拍手しようとしてやめて静寂になった。空間が気まず過ぎる。


「みなさん引っ込み思案ですねぇ、そんな半端な意思では、立派な冒険者なんてなれないですよぉ。自分を押し通して意見を絶対に伝える、という心構えは大事ですからねぇ。押しつけるのはまた違いますがぁ。」


うわ、ささるなぁ、適当に志望学科を選んでしまったからな…


「では回答に戻るんですけど、正確には5次元、とする説が強いです。まずは、言ってくれたように、世界には幾何的な3軸に基づいた空間があります。これが物質界の空間次元です。でも惜しいですね!時間の概念を入れ忘れていました。つまり、物質界の空間次元で、すでに4次元になります。」


マイン教授が黒板に空間座標軸と小さな赤い矢印を書いた。さらに、原点に1本の線を付け足す。


「この物質界の次元からさらに多層構造に世界は重なっています。これが、魔法次元軸; Wです。」


この多層構造は理解できる気がしない。かさなるって、目の前がダブって見えるのか?数学苦手なんだよな…


「では、どのような機序でこのW軸が提唱されたでしょうか。はい、そこの後ろから3番目の一番端の人!そうそう君ですよぉ。」


目線的に俺じゃん。いきなり無理があり過ぎる。


「あー、そうですね、分からないです。」

「わからない、ですかぁ、ちょっと考えてみてください。なんでもいいですよぉ。」


うわあ、やっぱりあんまり得意じゃないタイプの先生だ。


「魔法が存在するから、ですか?」

「うーん、ある意味正解なんですが、それでは理論が飛躍しすぎです。もうひと押しできませんかぁ?」


拷問すぎる。次のひとに当ててくれ。こうなればヤケだ。


「魔法のエネルギーが存在するからですか?」

「おお!いいいところに気づきましたね!そうなんですよぉ。あ、皆さん彼に拍手!!」


パチパチパチ


あぶない、山勘で当たった。


「魔法エネルギーの源として知られるのは、潮素; tidaliumという物質です。人の体にある魔力;Manaとは少し違うので注意してくださいね~」


ここで、マイン教授が黒板に大きな箱を描き、中にヒトを描いた。


一般的に知られている魔法エネルギーは2つ。ManaマナTidaliumタイダリウムだ。


Manaは人体に、Tidaliumは大気中にある魔法エネルギーだという。


基本的に魔法が使えない、”魔法陣にManaを流すことさえできない人”がほとんどのこの世界である。


俺も最近まで魔法を”一応曲がりなりにも使える”と気づかなかったので、魔法エネルギーの話は”なにやらあるらしい”という認識で止まっていた。


「ここで質問です。この空間内で、このニンゲンが炎球投射魔法を使い続けるとどうなるでしょうか。じゃあさっきの人の横の人!」


「はっはい!ええと、死にます!」


「飛びすぎですよぉ、まあある意味正解なんですけどぉ。もう少し穏やかな表現にしましょうね~。」


ざわざわざわ


どよめきが起こる。かわいそうに、あの子トラウマにならないか?


「ですが、このニンゲンが死ぬ理由は、あくまで酸欠です。近年活発になった原子論;酸素が人体に必要である、という理論に基づきます。炎球投射魔法の燃焼現象で、酸素は消費されてしまいますからねぇ。では、呼吸補助の魔装具を付けた場合はどうでしょう。さっきの子。」


「また私ですか!?ええと、生きます!」


「あほの子なんですかぁ?逆を言えばいいわけではないですよぉ。」


ふつうに辛辣すぎる。あの先生、多分性格悪いぞ。


「ごめんなさいねぇ、少し言いすぎましたぁ。ほかの人も、誰かが失敗しても笑わず、助けてあげられる人になってくださいねぇ。」


思ったより良いこと言うな、この先生。まだ性格が良いと決まってはいないが。


「結論は、manaの限り魔法を使えますぅ。しかしながら、manaの消費エネルギーと実際のエネルギーは等価ではありません。」


さすがにエネルギー保存則を疑うのは無理があるだろ。


「Manaは特殊な魔装具;”魂視鏡”で間接的に見ることができて、その最大量を数値化できますぅ。この辺の理論は私たち魔法物理化学科の専門領域になるので一旦おいておきますねぇ。ひとまずは、魔法発動に必要なmanaは数値化できる、というのがミソですぅ。」


「この条件下で、少し使う魔法を変えましょう。同じ炎球投射魔法ですが、弾速を倍にします。その時の消費manaはどうなるでしょうかぁ。じゃあ、一番前の君!」


「はい!2.013倍です!」


「おお!知っていましたか!高校では魔法論は必修ではないはずですがぁ、よく知ってましたね~、拍手!!」


パチパチパチパチパチパチ


うお、あいつマジか。だれか知らないが、眼鏡をかけたインテリ少女というイメージ通りのキャラクターだな。頼れば単位が取りやすくなるかもしれん。


「仮にmanaが速度調整のためにエネルギーとして消費されるならば、消費manaは速度の2乗になるはずですぅ。しかしそうはならない。ならば、manaは別の、火球の発生・保持や着弾にも使われている、と考えられますねぇ。」


物理か。運動エネルギーの概念だな。K=(1/2)mV^2の式で表現されるという。つまり消費エネルギーは速度の2乗に比例するわけだ。


倍の速度で移動する馬車が止まるのに4倍距離が延びる、といったところだな。


単振動の微分を機に物理も嫌いになってしまったが。


「とはいえ、これで運動エネルギーの差分としては1.013ということになりますぅ。では、思い切って、魔法弾の速度を10倍にしてみましょう。つまり、2倍の場合に比べると、5倍の速度ですねぇ。すると初めに比べて何倍の消費manaになるでしょうか?答えは4.042ですぅ。」


当てないんかい。まあ誰も答えられないとは思う。そもそもそれって測定値だろ。


「あれあれ、奇妙ですね~、差分で言うと3.029でしたぁ。この”差分自体”は運動エネルギーのはずですが、消費manaは、2倍の場合の5倍の速度になっても、たった3倍程度です。本当は25倍になるはずですがねぇ。つまり、エネルギー保存則があてはまらない。」


仮に本当だとしたら、たしかに奇妙な話だ。というか隣のやつ寝てる…


「こうして提唱されたのが、manaは消費エネルギーとして消耗されず、あくまで命令エネルギーとして消費される。という概念です。しからば、その根本的エネルギーが必ずあると考えられますねぇ。そこで提唱されるのが…せーのっ」


たったいいだまなりうむ…


ついに合唱させた。だれか違う事言った?


「はいぃ、というわけで、魔法のエネルギーの本質はTidalium、という説が持ち上がったわけですぅ。Manaの測定技術がなければ、この説は存在し得ませんでしたぁ。技術の進歩は偉大ですねぇ。」


「じゃあ少し戻りましょう。仮に密閉空間で炎魔法を使えば、その空間内のTidaliumは枯渇し、魔法は使えなくなる、と考えるのが筋ですぅ。しかし私が言ったことを覚えていますか?答えは否でしたねぇ。」


「Tidaliumが消費され続ける密閉空間内で、Tidaliumが供給され続けるにはどうしますか?最後、後ろから3番目の君、そう端っこの君ですよぉ。すこしは私の授業に興味をもってくれましたかぁ?」


聴き入っていた。世界は、魔法とは、摩訶不思議な能力ではなく、歴とした科学として成立しうる、それを突き付けられた。点と点がつながった。


そしてどうやら、はじめに俺に意欲がないことも見抜かれていたらしい。前言撤回、この先生の観察力は異常、強者と呼んで良いな。


「…W軸。次元間を移動できれば、密閉空間でも魔力は充填できます。」

「おお!またもや正解、すごいですねぇ。でも惜しい!魔力じゃなくて、潮素かTidaliumと呼んでくださいねぇ。Tidaliumの性質も、おいおい取り扱っていいきますよぉ。」


「軽く触れておくと、Tidaliumは直接触ることはできません。皆さんご存じ、魔物の体内にある魔石、すなわち固体エーテリウムを通して、初めてニンゲンが干渉できますぅ。」


「というわけで、現在の魔法エネルギーとして、Tidaliumが5次元空間を飛び回り、世界中に拡散している、というのが昨今の学説ですぅ。皆さんも、これを踏まえて、いろいろ魔法を使えるようになってくださいね~。」


「以上で今日のところは終わりますぅ。200文字くらいでレポート書いて、来週持ってきてくださいねぇ。」


途中から、脳内で余計な思考はやめていた。眠気も一切感じず、この授業を聴き入ってしまった。テストに出るところだけメモしようとしていた紙は、白紙のままだ。


はじめに重くてうっとうしかった教科書も、いまは読んでみたいという欲求に駆られている。


…面白かった。この学校は、俺が思っているより遥かにすごい所なのかもしれない。ひとまず、“前の席の彼女“に話しかけてみるか。


なるべくカットしない魔法講義をお見せできればと思ってます。次回は魔法陣についてです。

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