優勝、そして
白い光が収まると、そこには信じられない光景が広がっていた。
俺とシルヴァン、両者とも立っていた。
「まさか……相打ち?」
観客席がざわめく。
しかし、次の瞬間――
ピシッ
シルヴァンの魔法障壁に、小さな亀裂が入った。
「これは……」
シルヴァンが驚きの表情を浮かべる。
亀裂は徐々に広がり、ついに障壁が砕け散った。
「……俺の、負けだ」
シルヴァンが膝をつく。
「君たちの絆の力は、俺の想像を超えていた」
「シルヴァン……」
「素晴らしい戦いだった」
シルヴァンが立ち上がり、俺に手を差し伸べる。
「帝都魔法学園の名において、君たちの勝利を認めよう」
俺はその手を握った。
二人ががっちりと握手を交わした瞬間――
「勝負あり! 優勝、王立魔法学園Fクラス!」
審判の宣言が、闘技場に響き渡った。
一瞬の静寂。
そして――
「うおおおおおおお!」
爆発的な歓声が沸き起こった。
「やった! やったぞ!」
「Fクラスが優勝だ!」
「奇跡だ! これは奇跡だ!」
観客席は興奮の渦に包まれた。
「レイン!」
エミリアが泣きながら俺に抱きついてきた。
「やった! 本当にやったのよ!」
「ああ……やったな」
俺も実感が湧いてきて、涙が溢れた。
「すげえ! 俺たちが優勝だ!」
カイルが雄叫びを上げる。
「データにない結果です。でも、最高の結果」
リナも涙を拭いながら微笑む。
「みんなで掴んだ勝利だね」
ノアも感慨深げに言う。
「そうだ。これは、みんなの勝利だ」
俺は仲間たち全員を見回した。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
◆
表彰式。
俺たちは優勝トロフィーを掲げていた。
「素晴らしい戦いでした」
国王陛下が直々に祝福の言葉をかけてくださる。
「君たちは証明した。スキルの優劣など、真の強さの前では意味がないことを」
「ありがとうございます、陛下」
「レイン・エヴァンス」
国王が俺を見つめる。
「君には特別な褒美を与えよう。何か望みはあるか?」
俺は少し考えてから、答えた。
「一つ、お願いがあります」
「申してみよ」
「学園の教育制度を変えていただきたい」
会場がざわめく。
「Fクラスの生徒たちは、正しい教育を受けていません。わざと間違った知識を教えられ、成長を阻害されています」
「ほう……」
「全ての生徒が、平等に学べる環境を作っていただきたい。それが、俺の願いです」
国王は深く頷いた。
「なるほど、君らしい願いだ。よかろう、その願い、聞き届けよう」
「ありがとうございます!」
俺は深く頭を下げた。
「本日をもって、王立魔法学園の階級制度を撤廃する」
国王の宣言に、会場は騒然となった。
「今後は、スキルによる差別を禁じ、全ての生徒が平等に学べる環境を整える」
「陛下……」
俺は感動で言葉が出なかった。
「君たちが示してくれた。可能性は誰にでもある。それを伸ばすのが、教育の役目だ」
国王の英断に、多くの人々が拍手を送った。
◆
学園対抗戦から一ヶ月後。
王立魔法学園は、大きく変わっていた。
S〜Fのクラス分けは廃止され、生徒たちは自由に授業を選択できるようになった。
元Fクラスの生徒たちも、正しい教育を受けて、めきめきと成長している。
「レイン先輩!」
廊下を歩いていると、後輩たちが駆け寄ってくる。
「今日も魔法理論を教えてください!」
「ああ、いいよ」
俺は今、学園で臨時講師をしている。
『鑑定』を極めた経験を活かして、生徒たちの隠れた才能を見つけ出す手伝いをしているのだ。
「レイン」
振り返ると、エミリアが立っていた。
「生徒会の会議、始まるわよ」
「ああ、今行く」
エミリアは新しい生徒会の副会長になった。
会長は、なんとアレクサンダーだ。
生徒会室に入ると、見慣れた顔が揃っていた。
「遅いぞ、レイン」
カイルが笑う。彼は生徒会の武術指導担当だ。
「データによると、レインの遅刻率は12%です」
リナが正確に指摘する。彼女は会計担当。
「まあまあ、許してあげて」
ノアが苦笑する。彼は広報担当として、学園の魅力を外部に発信している。
「全員揃ったな」
アレクサンダーが議事を始める。
「今日の議題は、来年度の新入生受け入れについてだ」
「スキルに関係なく、やる気のある生徒を受け入れるべきです」
ソフィアが提案する。彼女も生徒会の一員として、改革に協力していた。
「賛成。可能性は誰にでもある」
俺も同意する。
「じゃあ、入学試験の内容も見直さないとな」
カイルが言う。
「実技だけじゃなく、人物評価も重要視すべきだと思う」
議論は活発に続いた。
かつて対立していた者たちが、今は同じ目標に向かって協力している。
◆
夕暮れ時。
俺は学園の屋上で、一人黄昏ていた。
「ここにいたのね」
エミリアが現れた。
「どうしたの? らしくないわよ」
「いや、ちょっと思い出してたんだ」
俺は苦笑した。
「一年前、Sクラスから追放された時のことを」
「レイン……」
「あの時は、世界が終わったような気がした」
俺は遠くを見つめる。
「でも今思えば、あれがあったから今がある」
「そうね」
エミリアが隣に立つ。
「あの追放がなければ、私たちは出会えなかった」
「ああ」
「後悔してる?」
「まさか」
俺は首を振った。
「今が、最高に幸せだ」
エミリアが優しく微笑む。
「私もよ」
二人で夕日を眺めていると、他の仲間たちもやってきた。
「何だ、二人だけでいい雰囲気か?」
カイルがにやにやする。
「違うわよ!」
エミリアが顔を赤くする。
「データによると、二人の距離は恋人の適正距離です」
リナが真面目に分析する。
「リナ!」
「ふふ、いいじゃない」
ノアが楽しそうに笑う。
皆でわいわいと騒いでいると、ふと思った。
(前世では、こんな仲間はいなかった)
仕事に追われ、孤独に生きていた前世。
それに比べて、今はなんて充実しているのだろう。
「なあ、みんな」
俺は仲間たちを見回した。
「これからも、ずっと一緒にいような」
「当たり前だろ!」
カイルが力強く言う。
「Fクラスの絆は永遠だ!」
「そうね。私たちは家族みたいなものよ」
エミリアも頷く。
「統計的に、この関係が続く確率は98.7%です」
リナが相変わらずの分析。
「100%でしょ」
ノアが訂正する。
みんなで笑い合う。
夕日が、俺たちを優しく照らしていた。
転生してから一年。
「無能」と呼ばれた俺は、最高の仲間たちと共に、世界を少しだけ変えることができた。
これからも、きっと色んなことがあるだろう。
でも、この仲間たちとなら、どんな困難も乗り越えられる。
俺は心から、そう確信していた。