王子との決闘
闘技場の中央で、俺とアレクサンダーが向かい合っていた。
周囲では仲間たちとSクラスのメンバーが、固唾を呑んで見守っている。
「レイン・エヴァンス」
アレクサンダーが厳かに名を呼んだ。
「改めて問う。お前は本当に、あの日Sクラスから追放した『無能』と同じ人物か?」
「ああ、同じだ」
俺は即答した。
「ただ、一つだけ違うことがある」
「何だ?」
「俺は今、仲間を持っている」
俺は振り返ることなく、背後の仲間たちを示した。
「彼らと共に成長し、共に戦ってきた。それが、あの日との最大の違いだ」
「……ふん」
アレクサンダーは鼻を鳴らしたが、その目には複雑な感情が宿っていた。
「いいだろう。ならば、その成長とやらを見せてもらおう」
アレクサンダーが構えを取る。
彼の全身から、王族特有の金色の魔力が立ち上った。
「『王の血統』」
アレクサンダーの固有スキルが発動する。
これは王族にのみ許された力で、全ての能力を飛躍的に向上させる。
「来い、レイン。全力で相手をしてやる」
「望むところだ」
俺も構えを取った。
手には先ほど創造した『真理の剣』。そして、三つのスキルを完全に解放する。
「行くぞ」
二人が同時に動いた。
キィィィン!
剣と魔法がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
「『王雷』!」
アレクサンダーの放つ雷撃は、通常の魔法の数倍の威力を持っていた。
「『絶対防御障壁』!」
俺は障壁で防ぎながら、同時に反撃に転じる。
「『創造』――『次元斬』!」
空間を切り裂く斬撃が、アレクサンダーに迫る。
「甘い!」
しかし、アレクサンダーは信じられない速度でそれを回避した。
「『王の加速』!」
彼の動きが、目にも止まらぬ速さになる。
「速い……!」
俺は『解析』をフル稼働させて、なんとか動きを追う。
「どうした! その程度か!」
アレクサンダーの猛攻が続く。
剣撃、魔法、体術……あらゆる攻撃が複合的に襲いかかってくる。
(さすが第二王子……強い)
俺は防戦一方になりながら、相手の実力を認めざるを得なかった。
生まれ持った才能に加えて、弛まぬ努力。アレクサンダーは確かに、王子に相応しい実力者だった。
「レイン!」
エミリアの心配そうな声が聞こえる。
「負けないで!」
カイルも声援を送ってくる。
(そうだ……俺は一人じゃない)
仲間たちの声援が、俺に力を与えてくれる。
「アレクサンダー殿下」
俺は剣を構え直した。
「一つ、教えてやろう」
「何だ?」
「力は、一人で積み上げるものじゃない」
俺は『無限』の魔力を更に解放した。
「仲間と共に高め合うものだ!」
俺の魔力が爆発的に増大する。
それは単なる量の増加ではない。仲間たちとの絆が、質的な変化をもたらしていた。
「『創造』――『絆の具現化・仲間の力』!」
俺の周囲に、4つの光が現れる。
それは、カイル、エミリア、リナ、ノアの力を模した光だった。
「なんだこれは!?」
アレクサンダーが驚愕する。
「俺の新しい力だ。仲間との絆が生み出した、新たな可能性」
4つの光が俺の剣に宿る。
「『統合技・五連星撃』!」
俺が剣を振るうと、5つの属性を持つ斬撃が同時に放たれた。
カイルの『力』
エミリアの『炎』
リナの『知』
ノアの『幻』
そして俺の『真理』
5つの力が螺旋を描きながら、アレクサンダーに迫る。
「くっ! 『王の絶対防御』!」
アレクサンダーが最強の防御魔法を展開する。
しかし――
バキッ!
防御魔法に亀裂が入った。
「馬鹿な! 王の防御が破られるだと!?」
「これが、俺たちの力だ」
俺は静かに告げた。
「一人一人は弱くても、力を合わせれば王をも超える」
防御が完全に砕け散り、5つの斬撃がアレクサンダーを捉えた。
「ぐあああ!」
アレクサンダーが吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「殿下!」
Sクラスのメンバーが駆け寄ろうとするが、アレクサンダーが手で制した。
「来るな……まだ、終わってない」
アレクサンダーは震える足で立ち上がる。
その顔には、もはや余裕の表情はなかった。
「認めよう、レイン。お前は強い」
アレクサンダーが真摯な目で俺を見つめる。
「だが、俺にも譲れないものがある」
「譲れないもの?」
「王族の誇りだ」
アレクサンダーの魔力が、今までとは質的に異なる輝きを放ち始めた。
「これは……!」
観覧席がざわめく。
国王陛下も、驚きの表情を浮かべていた。
「『王の覚醒』……まさか、この歳で」
エドワード殿下が呟く。
「『王の覚醒』?」
俺は『解析』で、その力の正体を探る。
どうやら、王族が極限状態で覚醒する、伝説の力らしい。
「これが、俺の全てだ」
アレクサンダーの姿が、光に包まれて変化していく。
髪は白銀に、瞳は黄金に。まるで神話の英雄のような姿へと変貌した。
「来い、レイン。これが最後の一撃だ」
「……分かった」
俺も覚悟を決めた。
ここで出し惜しみをしては、アレクサンダーに対して失礼だ。
「『解析』『創造』『無限』」
三つのスキルを限界まで解放する。
「そして……『統合』」
俺は新たな境地に達した。
三つのスキルが融合し、一つの究極のスキルへと昇華する。
「『全知全能』」
俺の体が、純粋なエネルギー体へと変化した。
これが、転生者である俺の、真の姿。
「なんという力……」
ソフィアが息を呑む。
「これが、レインの本当の姿……」
エミリアが感嘆の声を上げる。
「行くぞ、アレクサンダー」
「来い、レイン」
二人は同時に、最後の技を放った。
「『王の裁き』!」
「『創世の一撃』!」
金色の光と、虹色の光がぶつかり合う。
その衝撃で、闘技場全体が激しく震動した。
「うわあああ!」
観客たちが、あまりの眩しさに目を覆う。
光が収まった時――
そこには、膝をついたアレクサンダーと、立っている俺の姿があった。
「……俺の、負けだ」
アレクサンダーが、潔く敗北を認めた。
「見事だ、レイン。お前の強さ、そして仲間との絆の力……全て本物だった」
「ありがとうございます、殿下」
俺は深く頭を下げた。
「いや、礼を言うのは俺の方だ」
アレクサンダーが立ち上がり、俺に手を差し伸べた。
「お前は俺に、大切なことを教えてくれた。真の強さとは何か、を」
俺はその手を取った。
二人ががっちりと握手を交わすと、闘技場は大歓声に包まれた。
「すげええ!」
「Fクラスが勝った!」
「レイン! レイン!」
観客たちが、俺の名前を連呼する。
「レイン!」
エミリアが涙を流しながら駆け寄ってきた。
「やったね! 本当にやったよ!」
「ああ。でも、これは皆のおかげだ」
俺は仲間たち全員を見回した。
「みんながいたから、ここまで来れた」
「レイン……」
その時、ソフィアも近づいてきた。
「ごめんなさい。私、あなたを追放して……」
「もういい」
俺は微笑んだ。
「過去は過去だ。それに、あの追放があったから、俺は本当の仲間に出会えた」
「レイン……」
ソフィアも涙を浮かべた。
「勝者、王立魔法学園Fクラス!」
審判の宣言が響き渡る。
俺たちは、ついに決勝進出を決めた。
そして何より――
Fクラスの誇りを、世界に証明することができた。