因縁の対決
準決勝当日。
闘技場は今までにない熱気に包まれていた。
「すごい観客数ね……」
エミリアが息を呑む。
確かに、準々決勝の時よりも明らかに人が多い。皆、Fクラスの快進撃を見届けに来たのだろう。
「緊張するか?」
俺が聞くと、仲間たちは力強く首を横に振った。
「今更だよ。ここまで来たんだ」
カイルが不敵に笑う。
「それに、相手があのSクラスなら、むしろ燃えるってもんだ」
「そうね。私たちを見下してきた人たちに、実力を見せる時よ」
エミリアも闘志を燃やしている。
その時、対戦相手のSクラスチームが入場してきた。
先頭を歩くのは、第二王子アレクサンダー。その隣にはソフィアの姿もある。
「久しぶりだな、レイン」
アレクサンダーが余裕の笑みを浮かべて近づいてきた。
「まさかFクラスがここまで来るとは思わなかった。素直に称賛しよう」
「ありがとうございます、殿下」
俺は形式的に頭を下げた。
「だが、ここまでだ」
アレクサンダーの目が鋭くなる。
「我々Sクラスの実力は、君たちの想像を遥かに超えている」
「そうでしょうか」
俺は挑発的に返した。
「実力は、戦ってみなければ分からない」
「ふん、強がりもここまでだ」
アレクサンダーが踵を返す。
その時、ソフィアと目が合った。
「レイン……」
彼女の瞳には、複雑な感情が宿っていた。
後悔、寂しさ、そして……わずかな期待?
「ソフィア、行くぞ」
アレクサンダーに促され、ソフィアも背を向けた。
◆
「両チーム、位置につけ!」
審判の声で、俺たちは戦闘態勢を整える。
Sクラスのメンバーは、アレクサンダー、ソフィア、そして3人の上級魔法使い。
全員が複数の上級魔法を使いこなす、まさにエリート集団だ。
「レイン、作戦は?」
リナが小声で聞いてくる。
「基本は今まで通り。ただし……」
俺は仲間たちを見回した。
「今回は全力で行く。出し惜しみはなしだ」
「了解!」
皆が頷く。
「戦闘開始!」
合図と同時に、Sクラスが動いた。
「『天雷』!」
「『氷河』!」
「『業火』!」
3人の魔法使いが、それぞれ強力な魔法を放つ。
雷、氷、炎が複合的に襲いかかってくる。
「散開!」
俺の指示で、皆が素早く回避行動を取る。
しかし、攻撃は正確で、避けきれない。
「くっ!」
カイルが雷撃をまともに受けてしまう。
「カイル!」
「大丈夫だ……まだやれる」
カイルは立ち上がるが、ダメージは明らかだった。
「さすがSクラス、一撃が重い」
ノアが冷や汗をかきながら言う。
「でも、諦めない」
エミリアが杖を構える。
「『火球』!」
しかし、その攻撃はソフィアの『聖光障壁』に阻まれた。
「無駄よ、エミリア」
ソフィアが悲しげに言う。
「あなたたちとの実力差は、埋められない」
「そんなことない!」
エミリアが叫ぶ。
「私たちは成長した! もう昔の私たちじゃない!」
「成長?」
アレクサンダーが鼻で笑う。
「たかが一ヶ月程度で何が変わる。所詮、Fクラスは Fクラスだ」
その言葉に、俺の中で何かが切れた。
「なら、見せてやる」
俺は前に出た。
「俺たちの一ヶ月が、どれだけの意味を持っていたか」
「ほう?」
「『解析』『創造』」
俺は二つのスキルを同時に発動した。
そして、今まで温存していた最後のスキルも。
「『無限』」
俺の体から、圧倒的な魔力が溢れ出す。
「なんだこの魔力は!?」
Sクラスの面々が驚愕する。
「まさか……無限の魔力!?」
ソフィアが信じられないという表情を浮かべる。
「これが、俺の本当の力だ」
俺は静かに宣言した。
「『創造』――『時空停止結界』」
俺が作り出した新魔法が発動し、Sクラスの動きが一瞬止まる。
「今だ! 総攻撃!」
仲間たちが一斉に動く。
「『幻影軍団』!」
ノアが100体もの分身を作り出す。
『無限』の魔力供給を受けて、彼のスキルも限界を超えた。
「『記憶解放・全戦闘データ統合』!」
リナが今までの全ての戦闘データを解析し、最適な攻撃パターンを導き出す。
「『超火炎砲』!」
エミリアも俺の魔力供給を受けて、今までにない巨大な炎を放つ。
「『極限身体強化』!」
カイルの体が黄金に輝き、神速の動きでSクラスに迫る。
しかし――
「『王の威光』!」
アレクサンダーが真の力を解放した。
彼の魔力が爆発的に増大し、俺たちの攻撃を全て弾き返す。
「これが……第二王子の力」
リナが震え声で言う。
「だが、まだだ!」
俺は更に力を解放する。
「『創造』――『概念武装・真理の剣』!」
俺の手に、光り輝く剣が現れる。
これは物理法則すら切り裂く、究極の武器だ。
「レイン! あなた一体……」
ソフィアが呆然と俺を見つめる。
「答える必要はない」
俺は剣を構えた。
「ただ、一つだけ言っておく。俺は、仲間と共に強くなった」
俺が剣を振るうと、空間が切り裂かれ、次元の裂け目が生まれる。
「なんだこれは!?」
アレクサンダーが初めて焦りを見せた。
「終わりだ」
俺は冷静に告げた。
しかし、その瞬間――
「待って!」
ソフィアが俺とアレクサンダーの間に飛び込んできた。
「ソフィア!? 何をしている!」
アレクサンダーが怒鳴る。
「もう、やめて」
ソフィアは涙を流していた。
「レイン、あなたの言う通りだった。私たちは……間違っていた」
「ソフィア……」
「スキルで人を判断して、可能性を否定して……それが貴族の誇りだと思っていた」
ソフィアは俺を真っ直ぐ見つめた。
「でも、あなたたちを見て分かった。本当の強さは、スキルじゃない。仲間を信じる心と、諦めない意志」
「何を言っている!」
アレクサンダーが激昂する。
「お前も所詮は、あの無能に情でも移したか!」
「違う!」
ソフィアが叫んだ。
「私は、真実を見たの!」
その時、予想外のことが起きた。
ソフィアの体から、今までにない輝きが放たれた。
「これは……スキルの進化!?」
リナが驚愕する。
ソフィアの『聖光』が変質し、新たな力に目覚めたのだ。
「『聖光』が『真理の光』に……」
俺は『解析』で、その変化を理解した。
ソフィアは、自分の過ちを認め、真実を受け入れたことで、スキルが進化したのだ。
「私は……レインたちの味方をする」
ソフィアがきっぱりと宣言した。
「ソフィア! 裏切るのか!」
アレクサンダーが怒りに震える。
「裏切りじゃない。これが、私の選んだ道」
戦況は、予想外の展開を迎えていた。
「面白い」
俺は剣を下ろした。
「なら、新しい提案をしよう」
「提案?」
「1対1の決闘だ。俺とアレクサンダー殿下」
俺は第二王子を真っ直ぐ見据えた。
「どうだ? 王子の誇りにかけて、逃げはしないだろう?」
「……いいだろう」
アレクサンダーが不敵に笑った。
「その提案、受けてやる」