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特訓の日々

 学園対抗戦まで、あと三週間。

 

 俺たちFクラスチームは、毎日欠かさず特訓を続けていた。


「はあ、はあ……もう限界……」


 エミリアが膝をついて荒い息をつく。

 

 今日の訓練は、魔力の持続力を高めるためのものだ。


「まだだ! あと一発!」


 俺は厳しく言い放つ。


「で、でも……」


「エミリア、君の魔力はまだ半分残ってる。限界は頭が作り出した幻想だ」


 『解析』で彼女の魔力残量を正確に把握している俺には、嘘は通じない。


「……分かった」


 エミリアは震える手を上げ、再び『火球』を生成した。


「えい!」


 放たれた火球は、見事に標的を貫いた。

 

 そして、エミリアは今度こそ本当に魔力を使い果たし、その場に倒れ込んだ。


「よくやった」


 俺は優しく声をかけ、回復薬を手渡す。


「これで、三週間前より5発多く撃てるようになったね」


「本当だ……」


 エミリアが驚いたように自分の手を見つめる。


「私、強くなってる」


「当然だ。正しい訓練をすれば、必ず成果は出る」


 隣の訓練場では、カイルとノアが組み手をしていた。


「はああ!」


 カイルが拳を振るうが、その攻撃は空を切る。

 

 ノアの『幻影』が、3体に分身して攻撃を回避したのだ。


「くそ! どれが本物だ!」


「ふふ、当ててみて」


 3体のノアが同時に動き、カイルを翻弄する。

 

 以前は臆病だったノアも、今では自信に満ちた表情を見せるようになった。


「ならこれでどうだ!」


 カイルが地面を強く踏みつけると、衝撃波が広がった。

 

 3体のノアのうち2体が揺らいで消え、本物だけが残る。


「見つけた!」


「やるね、カイル」


 ノアが苦笑しながら降参の意を示した。


「でも、実戦なら今ので十分時間を稼げたよ」


「確かにな。チームプレイなら、お前の『幻影』は最高の武器だ」


 二人が握手を交わす姿を見て、俺は満足感を覚えた。

 

 個々の能力だけでなく、チームワークも確実に向上している。


「レイン、ちょっといい?」


 リナが大量の資料を抱えてやってきた。


「どうした?」


「他校の情報を集めてきたの。これを見て」


 リナが広げた資料には、学園対抗戦に参加する各校の情報が細かく記されていた。


「すごいな、よくここまで」


「図書館の司書さんに頼んで、過去の大会記録を全部見せてもらったの」


 彼女の『記憶』スキルがあれば、膨大な情報も完璧に頭に入る。


「それで、何か分かったことは?」


「うん。まず、優勝候補筆頭は帝都魔法学園」


 リナが資料を指差す。


「去年の優勝校で、Sクラスの生徒だけで構成されたチーム。全員が上級魔法を使える」


「強敵だな」


「次に注目なのが、北方騎士学園。魔法より肉弾戦を得意とする学校よ」


 カイルのような身体強化系が多いのだろう。


「あとは……」


 リナが言いかけて、顔を曇らせた。


「どうした?」


「私たちの学校、王立魔法学園のSクラスチーム」


「ああ……」


 当然、アレクサンダーとソフィアも出場するだろう。

 

 俺を追放した連中と、直接対決することになる。


「でも、データを分析した結果、私たちにも勝機はあるわ」


 リナが力強く言った。


「過去の大会を見ると、個人の強さだけじゃなく、チームワークが重要なの」


「なるほど」


「それに、意外性のある戦術で番狂わせを起こしたチームもいくつかある」


 リナの分析は的確だった。

 

 確かに、正面からぶつかれば勝ち目は薄い。だが、戦い方次第では……。


「リナ、君は本当に頼りになるな」


「え? そ、そんな……」


 リナが顔を赤くする。


「ただ『記憶』しているだけだもの」


「いや、情報を集めて分析し、活用する。それは立派な才能だよ」


 俺の言葉に、リナは嬉しそうに微笑んだ。


   ◆


 特訓開始から二週間が経過した、ある日のこと。


「おい、聞いたか?」


 昼食時、カイルが興奮した様子で駆け込んできた。


「Sクラスの連中が、俺たちのことを笑いものにしてるらしいぞ!」


「どういうこと?」


 エミリアが眉をひそめる。


「さっき廊下で聞こえたんだ。『Fクラスが学園対抗戦に出るなんて、恥さらしもいいところだ』って」


「……」


 皆が沈黙する。

 

 予想はしていたが、実際に言われると腹が立つ。


「それだけじゃない。『特にレインなんて、鑑定しかできない役立たずが』とも言ってた」


 カイルの言葉に、エミリアが立ち上がった。


「許せない! レインをバカにするなんて!」


「まあまあ、落ち着いて」


 俺は彼女をなだめる。


「言わせておけばいい。実力で黙らせればいいんだから」


「でも……!」


「レインの言う通りだよ」


 ノアが冷静に言った。


「今は力を蓄える時。本番で見返してやろう」


「……分かった」


 エミリアが渋々座り直す。


 その時、教室のドアが開いた。


「失礼します」


 入ってきたのは、見覚えのある金髪の少女だった。


「ソフィア……」


 俺の元婚約者が、Sクラスの制服を着て立っていた。


「何の用だ?」


 カイルが警戒心を露わにする。


「レインと話がしたいの。二人きりで」


 ソフィアの申し出に、仲間たちがざわつく。


「レイン、行かない方が……」


 エミリアが心配そうに俺の袖を掴む。


「大丈夫。すぐ戻るよ」


 俺はソフィアについて教室を出た。


   ◆


 学園の中庭。

 

 ソフィアは噴水の前で立ち止まると、振り返った。


「レイン、あなた……本当に変わったわね」


「そうかな?」


「ええ。以前のあなたは、もっと……弱々しかった」


 ソフィアの瞳に、複雑な感情が浮かんでいた。


「で、用件は?」


「単刀直入に言うわ。学園対抗戦を辞退しなさい」


「断る」


 即答した俺に、ソフィアが眉をひそめた。


「なぜ? あなたたちが出ても、恥をかくだけよ」


「それは出てみないと分からない」


「レイン!」


 ソフィアが声を荒げる。


「現実を見なさい! あなたは『鑑定』しかできない。戦闘では何の役にも立たない!」


「『鑑定』しかできない、か」


 俺は苦笑した。


「ソフィア、君は『鑑定』の本当の力を知らない」


「何を言って……」


「例えば、君が今持っている魔法杖」


 俺はソフィアの腰に下げられた杖を指差した。


「『鑑定』」


 スキルを発動し、わざと驚いた表情を作る。


「その杖、魔力伝導率が3%低下してる。このままだと、大事な時に魔法が暴発するかもしれない」


「!?」


 ソフィアが慌てて杖を確認する。


「そんな……でも、昨日点検したばかり……」


「杖の根元、よく見てごらん。髪の毛ほどの亀裂がある」


 ソフィアが目を凝らすと、確かに小さな亀裂を発見した。


「本当だ……」


「『鑑定』は、見えないものを見る力。使い方次第で、どんなスキルにも劣らない」


 俺の言葉に、ソフィアは困惑した表情を浮かべた。


「でも、それでも戦闘では……」


「戦闘は、力だけじゃない。情報と戦術も重要だ」


 俺は一歩前に出た。


「それに、俺には信頼できる仲間がいる。Sクラスにいた時には得られなかったものだ」


「……」


 ソフィアが唇を噛む。


「あなた、本当に変わった。まるで別人みたい」


「人は成長するものさ」


 俺は肩をすくめた。


「忠告はありがたく受け取っておく。でも、俺たちは出場する」


「……後悔しても知らないわよ」


 ソフィアはそう言い残して、去っていった。

 

 その後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。


(ソフィアも、本当は分かってるんだろうな)


 自分たちのやり方が間違っていることを。

 

 でも、公爵令嬢という立場が、彼女を縛り付けている。


   ◆


 教室に戻ると、仲間たちが心配そうに待っていた。


「レイン! 大丈夫だった?」


「ああ、何も問題ない」


 俺は笑顔で答えた。


「それより、午後の特訓の準備をしよう」


「でも、何を話してたの?」


 エミリアが気になるようだ。


「学園対抗戦を辞退しろって言われた」


「なんだと!?」


 カイルが怒りを露わにする。


「もちろん断ったよ。俺たちは必ず出場する」


「当然だ!」


 皆が頷く。


「それに、いいことも分かった」


「いいこと?」


「Sクラスの連中も、内心では俺たちを警戒してる。だから、わざわざ辞退しろなんて言いに来たんだ」


 俺の分析に、リナが納得したように頷いた。


「確かに、本当に相手にならないと思ってるなら、放っておくはずよね」


「そういうこと。つまり、俺たちの成長を認めざるを得ないってことさ」


 この言葉が、皆の士気を高めた。


「よし! 午後も頑張るぞ!」


 カイルが気合を入れる。


「ええ! 見返してやりましょう!」


 エミリアも同調する。


 午後の訓練場。

 

 俺は、ついに『解析』の力を少しだけ解放することにした。


「今日は、新しい訓練をする」


 皆が注目する中、俺は続けた。


「連携技の開発だ」


「連携技?」


「そう。個人の力には限界がある。でも、スキルを組み合わせれば、新たな可能性が生まれる」


 俺は『解析』で、それぞれのスキルの相性を分析していた。


「例えば、ノアの『幻影』とエミリアの『火球』を組み合わせる」


「どうやって?」


「ノア、分身を作って。エミリアはその分身に向かって火球を撃つ」


 二人が言われた通りに実行する。

 

 当然、火球は幻影を素通りする。


「これじゃ意味が……」


「待って。ノア、今度は分身を作る瞬間に、少しだけ魔力を込めて」


 俺の指示は、『解析』で見抜いた『幻影』の隠された性質に基づいていた。


「こう?」


 ノアが新たに分身を作る。

 

 見た目は同じだが、わずかに魔力を帯びている。


「エミリア、もう一度」


 エミリアが火球を放つと、今度は幻影が火球を纏った。


「えっ!?」


「幻影が……燃えてる!?」


 皆が驚愕する。

 

 炎を纏った3体の分身が、訓練場を駆け回る。


「これは『幻炎舞』と名付けよう。敵を混乱させながら、火傷のダメージも与えられる」


「すごい……こんなことができるなんて」


 ノアが感動したように言う。


「これも『鑑定』の応用さ。スキルの性質を正しく理解すれば、組み合わせは無限大だ」


 もちろん、本当は『解析』の力だが。


「他にも色々試してみよう!」


 カイルが興奮して言う。


 その後、俺たちは様々な連携技を開発した。

 

 カイルの衝撃波でエミリアの火球を拡散させる『爆炎波』。

 

 リナの完璧な記憶で敵の動きを予測し、ノアが幻影で誘導する『幻惑の檻』。

 

 そして、俺の『鑑定』で敵の弱点を見抜き、全員で集中攻撃する『弱点総攻撃』。


「これなら……本当に勝てるかもしれない」


 エミリアが希望に満ちた表情で言った。


「勝てる、じゃない。勝つんだ」


 俺は力強く言い切った。


「俺たちは、Fクラスの力を証明する」


 夕暮れの訓練場に、皆の決意に満ちた声が響いた。


 学園対抗戦まで、あと一週間。

 

 俺たちの準備は、着実に整いつつあった。

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