廃鉱山の死闘
狂化した魔物の群れが、唸り声を上げながら迫ってくる。
その数、優に50体を超えている。
「これは……多すぎる!」
カイルが剣を構えながら叫ぶ。
「でも、やるしかないわ!」
エミリアが杖を握りしめる。
俺は『解析』で魔物たちの状態を確認した。
――狂化状態。理性消失。攻撃力3倍、防御力半減。痛覚遮断。
「みんな、聞いてくれ!」
俺は戦闘しながら情報を共有する。
「狂化した魔物は攻撃力が上がってるが、防御が落ちてる! 一撃で倒せ!」
「了解!」
カイルが最前線で剣を振るう。
「炎よ、我が敵を焼き尽くせ! 【火炎の嵐】!」
エミリアの上級魔法が、魔物の群れを薙ぎ払う。
しかし、狂化した魔物たちは炎に包まれながらも突進してくる。
「痛みを感じないのか!」
「援護します! 【精霊の矢】!」
ミラが次々と矢を放つ。
その精密な射撃は、確実に魔物の急所を貫いていく。
「データ解析完了。弱点をマーキングします!」
リナが魔法で魔物たちの弱点を光らせる。
「助かる!」
ノアが短剣で的確に弱点を突く。
◆
戦闘は激しさを増していく。
狂化した魔物は、倒されても後から後から湧いてくる。
「キリがない!」
カイルが息を切らせる。
「このままじゃ、体力が……」
確かに、長期戦は不利だ。
俺は決断した。
「みんな、少し下がって!」
仲間たちが距離を取る。
俺は『創造』の力を解放した。
「風よ、刃となりて敵を切り裂け――」
俺の周囲に無数の風の刃が生まれる。
「【千刃風陣】!」
新たに創造した術式が発動する。
千を超える風の刃が、同時に魔物たちに襲いかかった。
一瞬の静寂。
そして、魔物たちが次々と崩れ落ちていく。
「す、すごい……」
ミラが息を呑む。
「レイン、いつの間にそんな術を」
エミリアも驚いている。
しかし、これで魔力をかなり消費してしまった。
◆
「ほう、やるじゃないか」
ヴァイスが拍手をしながら前に出てきた。
「だが、これはほんの挨拶代わりだ」
彼が再び指を鳴らす。
すると、廃鉱山の奥から、巨大な影が現れた。
「なんだ、あれは……」
ノアが震え声で言う。
それは、5メートルを超える巨大な岩ゴーレムだった。
しかも、全身から禍々しい魔力を放っている。
「私の最高傑作だ。狂化に加えて、強化術式も施してある」
ヴァイスが自慢げに語る。
「さあ、どこまで持つかな?」
岩ゴーレムが咆哮を上げ、地面を踏みしめた。
その衝撃で、周囲の地面が割れる。
「散開!」
俺の号令で、全員が別々の方向に飛ぶ。
次の瞬間、ゴーレムの拳が俺たちがいた場所を粉砕した。
「速い!」
見た目に反して、その動きは俊敏だった。
「【火球】!」
エミリアの魔法が直撃するが、ゴーレムはびくともしない。
「硬すぎる!」
「物理攻撃も効かねぇ!」
カイルの剣が岩の表面で弾かれる。
俺は『解析』でゴーレムの情報を読み取る。
――強化岩ゴーレム。物理防御極大。魔法防御高。弱点:核石(胸部中央)。
「胸の中央に核がある! そこを狙え!」
「でも、どうやって」
リナが困惑する。
確かに、あの硬い岩の奥にある核を破壊するのは困難だ。
「俺に考えがある」
俺は『創造』で新たな魔法を紡ぎ始める。
「時間を稼いでくれ!」
「分かった!」
仲間たちがゴーレムの注意を引きつける。
俺は精神を集中させ、『解析』と『創造』を同時に発動する。
ゴーレムの構造を完全に理解し、それを崩壊させる術式を創る。
「できた!」
俺の手に、黒い光球が生まれる。
「みんな、離れて!」
仲間たちが素早く距離を取る。
「【構造崩壊】!」
黒い光球がゴーレムに吸い込まれていく。
一瞬、何も起こらない。
しかし次の瞬間、ゴーレムの体にひびが走り始めた。
「ば、馬鹿な!」
ヴァイスが信じられないという顔をする。
ゴーレムは内側から崩壊し、粉々に砕け散った。
◆
「くそっ! まさか狂化ゴーレムまで」
ヴァイスの顔が怒りに歪む。
「もういい! 直接相手をしてやる!」
彼の周囲に、どす黒い魔力が渦巻き始める。
「これは……」
エミリアが警戒する。
「禁呪の気配だわ」
「そうだ。これは禁呪【魂食らい】」
ヴァイスが狂気の笑みを浮かべる。
「お前たちの魂を喰らい、我が力とする!」
黒い触手が、ヴァイスの体から無数に伸びてくる。
「避けろ! あれに触れたら魂を吸われる!」
俺の警告で、全員が必死に回避する。
しかし、触手の数が多すぎる。
「きゃっ!」
ミラが触手に捕まってしまう。
「ミラさん!」
リナが助けようとするが、別の触手に阻まれる。
「ふははは! まずは一人目だ!」
ヴァイスが勝ち誇る。
しかし――
「触れたな」
俺は冷静に言った。
「は?」
ヴァイスが困惑する。
次の瞬間、俺の体が光り始めた。
「『無限』発動」
俺の隠し持っていた究極スキルが、ついに牙を剥く。
「な、なんだこの魔力は!?」
ヴァイスの触手が、逆に俺の魔力に飲み込まれていく。
「お前の禁呪、返してやる」
俺は無限の魔力を解放し、ヴァイスの術式を逆流させた。
「ぐあああああ!」
ヴァイスが苦悶の叫びを上げる。
自分の禁呪に、自分が喰われていく。
「や、やめろ! やめてくれえええ!」
しかし、もう止まらない。
ヴァイスは自らの魔力に飲み込まれ、光となって消滅した。
◆
「レイン……今のは」
エミリアが呆然として俺を見る。
「説明は後だ。今は人質を助けよう」
俺はミラを助け起こす。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます」
ミラはまだ震えていたが、妹のことを思い出したのか、すぐに立ち上がった。
「妹を! 早く妹を!」
「分かってます。行きましょう」
俺たちは廃鉱山の中へと入っていった。
中は思った以上に広く、複雑な構造をしていた。
「こっちです」
リナが魔力探知で人質の場所を特定する。
「奥の方に、生命反応が集中しています」
薄暗い坑道を進んでいくと、鉄格子で仕切られた空間が見えてきた。
「あれは……」
そこには、10人以上の人々が囚われていた。
皆、ぐったりとして動かない。
「妹! ユリ!」
ミラが鉄格子に駆け寄る。
奥の方で、銀髪の少女が弱々しく顔を上げた。
「お……姉ちゃん?」
「ユリ! 良かった、生きてた!」
ミラが涙を流す。
俺は剣で鉄格子の鍵を斬り落とした。
「みんな、人質を運び出そう」
しかし、その時――
「動くな」
奥から、新たな人影が現れた。
黒いローブに身を包んだ、長身の男。
その威圧感は、ヴァイスの比ではなかった。
「貴様は……」
「『魔獣結社』副団長、ガルムだ」
男が名乗る。
「ヴァイスがやられたようだな。まあ、あいつは所詮は小物」
ガルムの言葉には、仲間の死を悼む様子は微塵もない。
「人質は返してもらう」
俺が前に出る。
「ほう? Dランクの小僧が、私に逆らうと?」
ガルムが嘲笑する。
次の瞬間、凄まじい殺気が放たれた。
「うっ!」
カイルたちが圧倒される。
この殺気、Sランク級の強者だ。
「面白い。少し遊んでやろう」
ガルムがローブを脱ぎ捨てる。
その体は、筋骨隆々としており、全身に魔法陣の刺青が刻まれていた。
「我が『獣化』の力、見せてやろう」
ガルムの体が変化し始める。
人の形を保ちながら、獣の特徴が現れていく。
鋭い爪、牙、そして全身を覆う黒い毛。
「これが、人と魔物の融合体だ」
半人半獣となったガルムが、不気味に笑う。
「さあ、どこまで耐えられるかな?」
真の強敵との戦いが、始まろうとしていた。