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進化する魔物

 融合魔物たちが、不気味な唸り声を上げながら迫ってくる。

 

 その姿は、まさに悪夢そのものだった。


「うげっ! ゴブリンとオークが合体してる!」


 カイルが顔をしかめる。


 確かに、小柄なゴブリンの体に、オークの太い腕が生えているという異様な姿だった。


「気持ち悪いけど、強そうね」


 エミリアが杖を構える。


「データベースにない存在です。予測不能」


 リナが困惑した様子で言う。


「でも、倒すしかない」


 ノアが幻影を展開する。


「『解析』」


 俺は融合魔物の構造を分析した。


(なるほど、無理やり魔力で繋げているだけか)


 融合は不完全で、むしろ弱点が増えている。

 

 ただし、単純な攻撃力は上がっているようだ。


「みんな、融合部分を狙え! そこが弱点だ!」


「了解!」


 戦闘が始まった。


 グオオオォ!


 融合魔物の一体が、オークの腕でカイルに殴りかかる。


「『身体強化』!」


 カイルが腕を交差させて防御するが、その威力に押される。


「くっ! パワーはオーク以上だ!」


「援護するわ! 『火球』!」


 エミリアの魔法が融合魔物に直撃する。

 

 しかし、ダメージは予想より少ない。


「硬い!?」


「ゴブリンの素早さとオークの耐久力を併せ持ってる」


 俺は冷静に分析する。


「なら、こうだ! 『創造』――『分離の刃』!」


 俺が生み出した特殊な剣が、融合部分を正確に切り裂く。


 ギャアアア!


 融合が解けて、ゴブリンとオークが分離した。

 

 そして、両方とも動かなくなる。


「やった!」


「まだだ! 他にもいる!」


 見渡すと、様々な融合魔物が俺たちを包囲していた。


 狼とコウモリの融合体。

 スライムとゴーレムの融合体。

 植物モンスターと昆虫の融合体。


「こんなにいるのか……」


 ノアが青ざめる。


「大丈夫。一体ずつ確実に倒していけば」


 俺が励ますが、状況は厳しかった。


「ふふふ、素晴らしいデータが取れる」


 黒ローブの魔術師が、楽しそうに観察している。


「お前! こんなことをして何が目的だ!」


 カイルが怒鳴る。


「目的? 決まっている。最強の魔物を作ることさ」


 魔術師が狂気じみた笑みを浮かべる。


「人間は弱い。魔物も個々では大したことない。なら、融合させればいい」


「そんな単純な話じゃない!」


 エミリアが反論する。


「生命を弄ぶなんて、許されることじゃない!」


「許される? 誰に?」


 魔術師が鼻で笑う。


「力こそが正義。強い者が弱い者を支配する。それが世の理だ」


「違う!」


 俺は強く否定した。


「本当の強さは、他者を踏みにじることじゃない。共に高め合うことだ」


「綺麗事を……」


 魔術師の目が冷たく光る。


「なら、証明してみろ。お前たちの『絆』とやらで、私の最高傑作を倒せるか?」


 魔術師が新たな魔法陣を発動させた。


 すると、地面から巨大な何かが這い出してきた。


「なんだあれは!?」


 それは、数十体の魔物が融合した、巨大なキメラだった。

 

 ドラゴンの頭、オーガの体、無数の触手、そして昆虫の羽。


「これが、私の最高傑作『カオスキメラ』だ!」


 カオスキメラが咆哮を上げる。

 

 その声だけで、空気が震えた。


「でかすぎる……」


 カイルが呆然と呟く。


「あんなの、どうやって倒すのよ」


 エミリアも絶望的な表情を浮かべる。


 しかし、俺は諦めなかった。


「『解析』!」


 全力でカオスキメラの構造を分析する。


(融合が複雑すぎて、単純な分離じゃ無理か)


 だが、必ず弱点はあるはずだ。


「リナ、今までの戦闘データから、融合魔物の特徴を分析して!」


「は、はい!」


 リナが必死にデータを整理する。


「融合部分は魔力の流れが不安定。そして、核となる魔石が必ずどこかに」


「魔石か!」


 俺は更に集中して『解析』を続ける。


 そして、ついに見つけた。


「あった! 胸部の奥に、巨大な魔石がある!」


「でも、どうやってそこまで」


 ノアが困惑する。


 確かに、カオスキメラは巨大すぎて、簡単には近づけない。


「任せろ!」


 カイルが前に出た。


「俺が注意を引く。その隙に」


「危険よ!」


 エミリアが止めようとする。


「大丈夫だ。俺を信じろ」


 カイルは不敵に笑うと、カオスキメラに向かって突進した。


「おい、化け物! こっちだ!」


 カイルの挑発に、カオスキメラが反応する。

 

 巨大な腕が振り下ろされるが、カイルは紙一重で回避する。


「今だ!」


 俺たちも動いた。


「『幻影軍団』!」


 ノアが無数の分身を作り、カオスキメラを撹乱する。


「『束縛の蔦』!」


 エミリアが植物魔法で、カオスキメラの動きを封じようとする。


「軌道予測完了! 右側から接近してください!」


 リナが最適なルートを示す。


 俺は仲間たちが作ってくれた隙を逃さなかった。


「『創造』――『貫通の槍』!」


 全魔力を込めて、究極の一撃を放つ。


 光の槍が、カオスキメラの胸部を貫いた。


 ガシャン!


 魔石が砕ける音が響く。


「やった!」


 しかし、喜びも束の間。

 

 カオスキメラは倒れるどころか、更に暴走を始めた。


「なんで!? 魔石は破壊したはず!」


「ふははは! 甘いな!」


 魔術師が高笑いする。


「カオスキメラには予備の魔石がある。一つや二つ壊したところで」


「そんな……」


 絶望的な状況。

 

 カオスキメラは制御を失い、無差別に破壊を始めた。


「このままじゃ、森が全滅する」


 ノアが青ざめる。


「止めなきゃ」


 エミリアが震え声で言う。


 その時、俺は決意した。


「みんな、力を貸してくれ」


「レイン?」


「学園対抗戦の時みたいに、全員の力を一つに」


 俺は仲間たちに手を伸ばした。


「でも、あの時とは規模が」


「大丈夫だ。俺たちなら、できる」


 俺の言葉に、仲間たちは頷いた。


「分かった。レインを信じる」


 カイルが手を握る。


「私も」


 エミリアも手を重ねる。


「データはすべて共有します」


 リナも加わる。


「みんなで、一緒に」


 ノアも手を重ねた。


 5人の力が、一つに融合する。

 

 しかし、今回は学園対抗戦の時とは違った。


「これは……」


 俺たちの力が融合するのではなく、それぞれの力が共鳴し、増幅されていく。


「『共鳴』……新しい力だ」


 5人それぞれが、自分の得意技を同時に放つ。

 

 しかし、それらは別々ではなく、一つの大きな力となって収束していく。


「『絆の共鳴・五芒星陣』!」


 巨大な五芒星が空に浮かび上がる。

 

 そして、その中心から、純粋な浄化の光が降り注いだ。


「ぐああああ!」


 カオスキメラが苦しみ始める。

 

 浄化の光は、無理やり融合させられた魔物たちを、元の姿に戻していく。


「馬鹿な! 私の最高傑作が!」


 魔術師が信じられないという顔をする。


 光が収まると、そこには元の姿に戻った魔物たちが、ぐったりと横たわっていた。

 

 生きてはいるが、もはや戦う力は残っていない。


「終わりだ」


 俺は魔術師に告げた。


「お前の実験は失敗だ。生命を弄ぶことの報いを受けろ」


「くっ……覚えていろ!」


 魔術師は煙幕を張って逃走しようとする。


「逃がすか!」


 カイルが追いかけようとするが、俺は止めた。


「いい。今は森の回復が先だ」


「でも……」


「あいつは必ずまた現れる。その時は、完全に止める」


 俺たちは、弱った魔物たちの手当てを始めた。

 

 浄化の光のおかげで、彼らは正気を取り戻しつつある。


「かわいそうに……」


 エミリアが優しく魔物たちを癒していく。


 数時間後、森はようやく静けさを取り戻した。

 

 魔物たちも、それぞれの住処へと帰っていく。


「初任務にしては、ハードだったな」


 カイルが疲れた様子で言う。


「でも、やり遂げたわ」


 エミリアが達成感に満ちた表情を見せる。


「貴重なデータが取れました」


 リナも満足そうだ。


「みんなで力を合わせれば、どんな困難も」


 ノアが微笑む。


「ああ。これが、俺たち『絆の証』の力だ」


 俺は仲間たちを見回して、心から思った。

 

 この仲間たちとなら、どんな冒険も乗り越えられる。


 初任務は、大成功に終わった。

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