午後3時の論争
場所は、隼人のアパート。
狭い6畳の部屋に、例の4人がだらっと座っていた。テレビではクイズ番組が流れている。
「おい、まなと、お前“サハラ砂漠”ってどこにあるか知ってるか?」
森下が突然ふってきた。
「え、サハラ…えっと……たぶん北海道?」
「バカかお前は。サハラの気温なめてんのか。雪見だいふくが一瞬で蒸発するわ。」
森下が鼻で笑う。
「いや、知らんて普通に。別に俺が困るわけちゃうし……」
中岡がタオルケットにくるまって小声で言い訳をする。
「北海道て…お前それ小学生でも笑うぞ。」
白鳥が苦笑いしながら、ポテチをつまむ。
「まぁまぁ。」
隼人が背もたれにもたれながら、コーヒーを啜る。
「森下も毎回まなとバカにしすぎやろ。そろそろ国連から警告くるぞ。」
「いやいや、こいつがアホすぎるのが悪い。俺は素直に“事実”を伝えてるだけや。」
森下は本気とも冗談ともつかない口ぶりで言う。
「しょうって、なんやかんやで人の間違いに厳しいよな。」
白鳥がつぶやく。
「お前が言うか? “イギリスの首都はロンドン”って言っただけで“知ったかすんな”ってキレてたくせに。」
中岡がチクリと指摘すると、白鳥がポテチを床に落とす。
「ちょ、それは言うな。あれは一時の気の迷いだって何回も……!」
「いや、お前“気の迷い”多すぎんねん。」
森下が笑いながら言うと、隼人もふっと笑って言った。
「みんなアホでええやん。俺含めて。」
「お前はアホというか、何もしてへん。」
森下がツッコむと、
「それを見守ってるのが俺の仕事や。」
隼人はどこか誇らしげに言った。
「見守るだけで大学卒業できたら苦労せんわ。」
「お前が言うな、白鳥。レポートの提出期限“明治時代”とか言ってたやろ。」
その日もまた、何も起こらないけど、くだらなくて笑える午後だった。