表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話 愛は家族を救う!

 公爵邸の庭園は、柔らかな日差しと、色とりどりの花々の香りに満ちていた。私は、ユリウス様と並んで、エミールを抱っこしながら、ゆっくりと歩いていく。昨日の出来事……エミールが魔王スズキの息子だったなんて、まるで悪夢。でも、腕の中にいるエミールの温もりは、紛れもない現実。


「ぴゃあ!」


 エミールが、甲高い声を上げた。その瞬間、エミールの瞳が、深紅に輝く。


「リリアーナ、ユリウス、世話になったな」


 え……? エミールが渋い声で喋った!? いや、違う。これは、エミールの体に、魔王スズキ様が憑依してるんだわ!


 ――ズドン


 突如、地面が揺れるような轟音が響いた。何事かと音のした方を見ると、庭園の芝生に見慣れない人影が。もうもうと土煙が舞い上がり、視界が遮られる。


「ゲホッ、ゲホッ……! い、一体、何が……」


 風が土煙を吹き払い、徐々に視界が開けていく。そこに立っていたのは、筋骨隆々、見るからに強そうな……でも、どこか品のある紳士だった。


「何者ですかっ! ここはローゼンクランツ公爵家の敷地内ですよ!」


 私は、エミールを庇うように抱きしめながら、紳士に向かって叫ぶ。不法侵入よ、不法侵入! ユリウス様は……? 彼は、いつも通りの無表情。……って、ユリウス様! 今は、そんな場合じゃないでしょうが! 不審者が来てるのよ!?


「余は魔王。魔王スズキだ」


 紳士……いや、魔王スズキ様は、威厳たっぷりに名乗った。


「ぴゃ!?」


 ま、ままま、魔王スズキ!? 本物の魔王が、目の前に現れた!? い、一体、何の用なの!? も、もしかして、エミールを連れ戻しに……!?


 私の頭の中は、パニック状態。口はパクパクするばかりで、言葉が出てこない。


「久しぶりだな……魔王スズキ」

「貴殿も息災そうで何より」


 ユリウス様と魔王スズキ様は、旧知の友のように、親しげに言葉を交わしている。


 え?


 えええええぇぇぇぇぇ!? 魔王スズキ様とユリウス様は、知り合いなの? ちょっ、ちょっと待って! 私、全然聞いてないわよっ!


 ……って、ユリウス様が無口だから、聞けるわけないんだけど!


 それにしても、魔王スズキ様って、想像と全然違う! もっと、こう、禍々しいオーラを放ってて、見るからに恐ろしい存在かと思ってたのに……。意外と普通のおじ様……いや、若々しいから、お兄様? 

「お前がリリアーナか。いらぬことを考えるな。それより、エミールは連れて帰るぞ」


 魔王スズキ様は、私の心の声が聞こえたかのように、鋭い視線を向けてきた。え、もしかして、心、読めるの? やだ、恥ずかしい! 変な妄想、バレちゃった!?


「待ってください、スズキ様! エミールは、まだ人間界で学ぶべきことが……」


 エミールを抱きしめ、必死に抵抗した。だって、エミールと離れたくない! エミールは、もう、私たち家族の一員だもの! それに、まだユリウス様との愛も育みきれてないし……!


「ふむ、確かにエミールはまだ未熟。人間界で修行を続けるのも悪くはないか……」


 魔王スズキ様は、腕組みをして、考え込んだ。……って、修行!? このドタバタ育児が、修行だったの!? いや、それは私であって、エミールじゃないわよね。じゃあ、エミールは何のために人間界に……? 


「ただな、魔界にも、エミールを必要としている者がいる。そろそろ、連れて帰らねばならん」


 魔王スズキ様は、真剣な表情だ。その言葉には、有無を言わせぬ迫力がある。


 魔王スズキ様は、私からエミールを奪い取るように抱き上げた。その動きは、あまりにも素早くて、何もできなかった。エミールは、魔王スズキ様に抱かれて、少し不安そうな顔をしている。


「エミール……」


 エミールは私の方を見て、ニッコリと笑った。その笑顔は、やっぱり天使みたいに可愛い。


「リリアーナ、心配するな。また会える」


 魔王スズキ様は、そう言うと、エミールと一緒に、光の中に消えていった。最初からそこにいなかったかのように。


「エミール!」


 思わず叫んでいた。……あ、またやっちゃった。氷の令嬢なのに、人前で大声出すなんて。でも、今は、そんなこと気にしてられないわ! エミールが、いなくなっちゃったんだもの!


「リリアーナ」


 ユリウス様が私の肩に手を置いた。その手は、温かくて、大きい。


「ユリウス様……」


 彼はいつも通りの無表情だったけど、その目は、優しく私を見つめていた。


「エミールは、きっと大丈夫だ」


 ユリウス様は、私をそっと抱きしめた。


「ユリウス様……!」


 ユリウス様の胸に顔を埋める。彼の温もりが、私の悲しみを優しく溶かしてくれる。

 ユリウス様…、やっぱり大好き! エミールがいなくなっても、私には、ユリウス様がいる! 


 私は、心の中で叫んだ。


 ふと、背後に気配を感じて振り返る。そこには、セバスチャンが立っていた。彼は、いつものように冷静な表情で、私たちを見つめていた。


「奥様、旦那様、おめでとうございます」


 セバスチャンは、恭しく頭を下げた。


「おめでとうございます、って、何がですの?」


 私が首を傾げると、セバスチャンは笑みを浮かべた。


「奥様のお腹に、新しい命が宿っております」

「……え?」


 セバスチャンの言葉に、私は言葉を失った。……新しい命? 私のお腹に? まさか、赤ちゃん!?


 自分のお腹に手を当てた。まだ、何も感じないけど、ここに新しい命が宿っているの? ユリウス様と私の赤ちゃんが?


「ユリウス様……!」


 私はユリウス様を見上げた。彼は、いつも通りの無表情。でも、その目は、今まで見たことがないくらい、優しく輝いていた。


「リリアーナ、ありがとう」


 ユリウス様は、私を強く抱きしめた。その腕はすこし震えていた。


「ユリウス様……!」


 私はユリウス様の胸で、涙を流す。嬉し涙だった。エミールとの別れは悲しい。けれど、私のお腹には、新しい命が宿っている。ユリウス様との愛の結晶が。


 神様、ありがとうございます! 私、頑張ります! 今度こそ、ユリウス様と、本当の家族になります!


 私は、心の中で誓った。


 *


 数年後――。


「おかあたまー! ちちうえが、またエミールにーさまに会いにいくってだだこねてるー!」

「もう、お父様ったら! エミール兄様は、魔界で忙しいんだから、邪魔しちゃダメでしょ!」


 ローゼンクランツ公爵邸の庭園は、今日も賑やかだ。私とユリウス様の間には、レオンと名付けた男の子が生まれた。

 家族三人で、庭園でピクニック。私は幸せをかみ締める。


 無口で不器用なユリウス様は相変わらず。でも、時々魔界から帰ってくるエミールとレオンと、賑やかで楽しい毎日を送っている。


 ふふ、これが、私の求めていた理想の恋……。そう。白い結婚なんて、どこかへ吹き飛んでしまったわ。


 ユリウス様は、私がエミールを拾う前から、魔王スズキ様と面識があったの。そして、私とユリウス様が離縁しないように、魔王スズキ様と密約を交わしていたのよ。


 わずかな期間とはいえ、エミールを育てたという事実は、魔王スズキ様とこの国の間に、相互不可侵条約を締結するに到った。


 私の知らないところで、魔王スズキ様との戦争が間近だったらしいの。それをエミールを育てる事で回避できたなんて……! 「そんなことも知らなかったのか」と、セバスチャンには呆れられちゃったけどね!


 まあでも、魔王スズキ様とエミールは、たまにこっそり遊びに来てくれるし、結果オーライよ!


 ――ドン!


「やあ、リリアーナ、ユリウス。久しぶりだな! おお、レオン、少し大きくなったな」

「スズキのおっちゃん! エミールにいたま!」


 突如、庭園に魔王スズキ様が現れた。腕の中にはエミール。レオンが大喜びでエミールに駆け寄っていく。


 よし、エミールとレオン、二人ともわしゃわしゃにして、どさくさに紛れてチューしよう。うん、そうしよう!


 ……え? まだ妄想してるのかって? だって、妄想は、私の生きがいなんだもの! それに、妄想は、いつか現実になるかもしれないでしょ?


 私は笑顔で、家族のもとへ駆け出した。



(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白かったのですが…結局…公爵なのか侯爵なのか、題名から…公爵と侯爵が、混ざって読みづらかったです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ