第9話 あと2年半。
王城の舞踏会、、、、絵本で読みましたわ、、、と、思っていたら、お母様がドレスを作って下さいました。
「お披露目よ!お披露目。いい機会だわ。12月の大舞踏会はウィルが行かないって言い張るから、仕方なかったけど、、、もういいわ。私たちと行きましょう。」
お母様が作ってくださったドレスは、白にブルーの刺繍。きれい、、、
髪型はひょっとして、、、高くそびえるのかと思ったら、そうでもありませんでした。
結い上げた髪に、サファイヤと白いお花の髪飾り、、、ロンググローブに旦那様に頂いた指輪。お父様とお母様に挟まれて、舞踏会に向かいました。礼儀作法とか、、、どうなんでしょう?
「大丈夫よ。クリスティーナ、ですもの。きれいよ。」
「ああ。」
という、不思議なお二人の会話。
お母様に言われて、お茶会の準備を手伝ったりしました。、、、招待客のリスト、どことどこが仲がいいとか、悪いとか、、、、招待状の作成、発送。準備する物のリスト、季節に合った会場、茶器、お茶、お菓子、軽食、、、
少し寒くなるころのお茶会では、お父様の領から、軽くて暖かなショールを人数分取り寄せました。新作ですね。ひざ掛けにしてもよし、羽織って庭の散策にも良し、、それで、そのままお土産になります。お一人お一人に合わせて色も違います。お母様の心遣いに感動します。勉強になります。
・・・・もちろん、それから間もなく、かなりの数のショールの注文がいろんなところから来たのは、本当にさすが!としか言いようがありません。
・・・あ、脱線しましたね?
そうそう、お茶会では、息子の嫁だと皆様に紹介していただきました。。ご婦人方は、、、興味津々だったことでしょう。何せ、、、田舎の子爵家から、歴史あるワルス伯爵家に嫁いできた嫁、、、、
お母様に恥ずかしい思いをさせないように、精一杯努めましたが、、、、大丈夫だったんでしょうか?
お二人に連れられて、国王陛下にもご挨拶。その横にいらっしゃるのが、旦那様の上司の王太子殿下ですね?いつもお世話になっております。
ダンスの時間になって、お父様とお母様のダンスを見学。
いい。凄くいい。
長い間一緒に踊っていらっしゃると、、、、こうなるのねえ、、、
「クリスティーナ?」
「はい?」
お声を掛けて下さったのは、イルデ様。今日も、銀色の髪は縦ロール。
ブルーの綺麗なドレスにダイアモンド。うんうん、、、お綺麗です。
先ほど、王太子殿下と踊っていらしたのも拝見しました。
「まあ、イルデ様、この度はご婚約おめでとうございます。」
「ああ、、、ありがとう。決まってたことなんだけどね、、、」
「これからはおいそれとお声も掛けられませんね。王太子妃になられるんですもの。」
「声を掛けるも何も、、、あなた、さっさと学院をスキップして、春からアカデミアに行ってるでしょ?楽しい?」
「はい。今のうちに学ぶべきことは学んでおかないと。すごく楽しいですよ。」
あと、、2年半しかございませんが。
お父様とお母様にもご説明しました。
帳簿を見るのもどうなのかと思って、、、期限付きの嫁ですし。
お母様のドレスが着れないことが申し訳なかったのですが、残念でしたし、、、
ウィルマー様が心から望む方が現れた時のために、大事にしまっておいてほしいです、そうお伝えいたしました。
「まあ、、、、、大丈夫よ、クリスティー、、、今まで通りにしてね。ね、あなた。」
「ああ。」
それで、私は商売を始めたこと、いよいよの時はご迷惑を掛けないように借りている家で生活できること、、、、を、ご説明しました。
お二人は反対なさいませんでした。やってみたらよかろう、と、背中を押してくださいました。ありがたいです。
*****
「あなたの旦那様は?今日も欠席なの?」
「ええ、お仕事が立て込んでいらっしゃるようで。」
「毎度毎度、、、本当に仕事なの?他所に女でも囲ってるんじゃないの?」
「うーーーん、、、どうでしょう?嘘をつくような方ではないと思いますよ。あの方が忙しいというなら、お忙しいんだと思いますわ。」
青と白のドレスの女が二人で話し込んでいる。
トレーを持ちながら、通りがかった。相変わらず、、、噂話か?旦那の浮気話か、、、
「あら、シャンパンを二つ頂こうかしら?」
青いほうの女に声を掛けられる。
にっこり笑って、シャンパンをお二人に渡す、、、、、って、、、白いの、、クリスじゃない??
あんまり変装してたからわからなかったけど、白いドレスの女、お隣のクリス、だよね?
はっ、として見渡してみると、待機した侍女の中に、あの不機嫌そうな顔のルルもいる。まじかあ、、、、
今日の俺は黒髪、、、ばれないか。
まあ、どってことないけど。
旦那が女を囲ってる?家に寄り付かない?
「では、遅くなりましたが、あなたのご結婚を祝して。」
「まあ、ありがとうございます。イルデ様のご婚約をお祝いして。」
軽くグラスの当たる音。二人は楽し気に話し込んでいる。とんでもないお友達がいるんだな、、、、
「子豚ちゃんシリーズ、買いましたわ。巾着袋とお財布を。相変わらずかわいいですね。モデルは、、、ずばり、ウィルマー様でしょ?」
「はい。お判りになりましたか?かわいいですよね?」
「あなたって、、、、相変わらずねえ、、、、こほん、、、私がモデルの銀ぎつねシリーズも出してよろしくってよ?」
「あらまあ、、、気に入って下さって良かったです。イルデ様の気高さを表現しきれましたでしょうか?」
「ええ、、、まあまあね。」
子豚ちゃんシリーズって、、、、この前貰ったハンカチの豚か?豚なのか?クリスから見た旦那って、、、、、しかも、、かわいい???
まあ、、、子豚のハンカチは確かにかわいくはあったが、、、、
給仕しながら、少し離れて、クリスを眺める。
お友達や親に連れられて、あちこち挨拶に回っている。大変だな、、、
いや、、しかし、、、ちゃんとした礼儀作法が出来ているのに驚く。父親と一曲踊っているのも見たが、上手だった。ああ、、、そうか、一応貴族だからか、、、、
父と母に連れられて、うちの嫁だとあちこちで言い回られたからか、口説きに来る男はいないようだ。まあ、、、、人妻が好きな奴もいないわけじゃないけどね、、、
ふらりと、中庭に出て行った。危なくね?侍女はどうした?
ほっとけなくて、思わず声を掛ける。
「お嬢様、おひとりで外に出るのは、、危ないですよ。警備の者はいますが。」
「あ、、、すみません、、、なんだか人がたくさんすぎて、少し人に酔ってしまったみたいで」
「お水をお持ちしますか?」
「まあ、、、すみません。お願いできますか?」
いやいや、たかが給仕に、そんなに丁寧に受け答えしなくても、、、、
水の入ったグラスをもって、急いで中庭に戻る。
暗くなくて、人通りの少ないベンチに座らせてきた。なんか、、、危ないよね?
グラスを渡すと、美味しそうに水を飲んだ。
ほんの、、、、いたずら心だった、、、、
「お嬢さん、パートナーは君を探していないの?」
「あ、、いえ、、私、これでも結婚しておりますの。ですから、お嬢さん、ではないですよ?」
そう言って、恥ずかしそうに笑った。
「そうなんだ、、、、実はさっき、少し聞いてしまったんだけど、、どうせ愛のない結婚だったんでしょ?俺が、、、あなたを愛してあげようか?」
グラスを受け取る風を装って、手を握る。首をかしげて、優しげに笑う。どう?
まあ、大概のご令嬢、ご婦人は《《狙えば》》落としてきた。
今日の黒髪も、そそられる娘が多いよね。
「愛?愛ねえ、、、愛でお腹は一杯になりません。愛で暖炉は燃やせません。愛で、病気になったとき医者にはかかれません。甘いんですよ、、、、あなたは、その辺の雑草をサラダで食べたことなんかないでしょ?明日燃す薪の心配は?民が餓死する夢を見たことは?、、、、それから救い出して頂いただけでも、私は旦那様に感謝しております。愛、はなかったとしても、感謝と尊敬は持っておりますわ。」
そこまで一気に言って、手を払いのけられた。
「・・・・」
「まあ、、、、歩み寄る機会も時間もないんですけどね、、、、」
ぐらり、と、身体が揺れた、と思ったら、、、寝てしまった、、、、
あ、、、、こいつ、、、酔ってるな、、、、シャンパン一杯で、、、、