第6話 ハンカチ。
領地を一週間かけて見て回った。
羊がたくさんいる牧場。
作業所。
羊毛加工所。
そして、製糸場。
それから、織物工場。
最後に縫製工場。
生産から加工、商品化、販売ルートまで、、、師匠は何一つ隠さず見せてくれた。
「あ、、あの、、こんなに何もかも見せて頂いて、、、、よろしいので?」
「え?何が?お前なら、うちの帳簿を見て、もう見当が付いていただろう。」
「まあ、そうですが。まあ、、、真似しようにも、真似のしようがありませんが。」
「あはは。お前は正直だな。」
よくまあ、30年間でここまで整備したなあ、、、と、改めて感心する。
羊関係は公社方式で、領民を雇用する形。
もちろん、個人的に羊を飼っている領民からは、羊毛を買い上げしている。
領民はここで働いたり、自分の耕作地で作物を作ったり、個人経営の店があったり、、、
教会への寄付金が多かったのも腑に落ちた。
教会付属の学校は整備されており、孤児院や独居老人用や母子家庭用の長屋もある。まだ働けるお年寄りや母子家庭のお母さんは、教会で仕事をあっせんしてくれる仕組み。
縫製工場から、ボタン付けの内職とかがあるようだ。
ただ、寄付して食べさせるだけじゃない。ちゃんと仕事させる。厳しいようだが、個人の尊厳は守られるような気がするなあ、、、、
「この制度は、妻が考えてくれたんだ。」
「・・・・・」
ちょっと意外。
「食べさせていただく、とか、生かさせていただく、とか、卑屈にならないような制度にしなくちゃだめだと言われてな、、、、」
「・・・・・」
惚れるわ、、、、お母様、、、、
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寝る前に読んでいた学院の教科書を読みつくしてしまった。
領のお屋敷の書庫にある本にも手を出す。
師匠が、、、、この事業に大金を突っ込む前の試行錯誤が見て取れる。
ありとあらゆる事業の勉強をして、、、羊に絞ったんだなあ、、、どんな葛藤があっただろう、、、
いやあ、、、私の父も何も手を打たなかったわけではないけど、、、耕作地は限られ、、、例えばよ?あの規模で牛や羊を飼おうとしたら、小麦を作る耕地がない。危険だ。
じゃあ、小規模にしたら?商業ベースに乗らないなあ、、、
特産物?鉱物?、、、、
ああ、やっぱり、師匠に教えてもらったアカデミアの産業開発講座に行ってみよう、、、と、心に誓う。
羊の追い込みの手伝いをしたり、牧羊犬の手入れをしたり、一緒に遊んだり、お父様とお母様とハイキングに行ったり、、、楽しく過ごした。
なんと!3週間も滞在した。学院が始まらなかったら、そのまま居続けたかも!!
お世話になった領地の屋敷の皆さんに、ハンカチに刺繍をしたものをお贈りした。
今までは木綿のハンカチに、木綿糸だったけど、ここにはそういったものはなく、絹のハンカチに、絹の刺繍糸、、、、光沢が違うわね!慣れるまでは緊張した。
牧場管理のビートさんにはボーダーコリー。
侍女頭のダナさんにはスピッツ。
領のお屋敷の執事のアントンさんはダックス。
獣医のフランクさんはテリア。
・・・・・・
・・・・本当に、犬系の人が多いなあ、、、
「クリスティーナ様は、、、まめでございますねえ、、、」
いつも一緒にいてくれるヒルデさんに呆れられる。
「あら、ヒルデさんの分もあるのよ?いつもありがとう。」
ヒルデさんは黒猫。眼は綺麗なグリーン。我ながら良く出来た。
「・・・あ、、、ありがとうございます、、、」
帰りの馬車の中で、皆様のお話を聞いたらしいお母様が、そわそわしている。
「あら、、お母様の分ももちろんございますよ。」
お母様は金髪のユニコーン。金色の角には蔓バラが巻き付いて、綺麗な赤いバラを咲かせている。渾身の作!!
「あらあ!!!嬉しい!!」
喜んでいただいて、幸いです。
「お父様には、こちらです。」
流石に、、、伯爵様に子豚ちゃんというわけにもいかず、、、ゴールデンレトリバー。首に巻いたリボンはお母様とお揃いの赤。
いい具合に似ています。
「ああ、ありがとう。」
ほっこり、ですねえ、、、、
*****
今日は、とある伯爵家の嫡男の代わりに、少し風変わりな舞踏会に出る。
招待状は本物。髪色は、その息子に合わせて銀髪。仮面付きなので、何をしてもかまわないらしい、、、、どんなんだ?
隅っこでちびちびカクテルを飲んでいると、桃色の髪の女の子に声を掛けられる。わかりやすい髪色だね?バレバレじゃない??
「私と一曲踊っていただけません?」
何でもありなあ、、、まあ、いいか、、、手を取って、腰を引き寄せ、ホールに出る。
一曲踊って、、、バルコニーに誘われる。
「私、、、婚約したんですけど、、、その、、婚約者が私を放りっぱなしなんですの。
外に女の人がいるみたいで、、、、なので私も、、あの、、、良いかなあ、って、、、」
「・・・・・」
何が?ですか?などと、野暮なことは聞かない。軽く指先に口づける。
「じゃあ、私たちも、、行きましょうか?」