第4話 大旦那様の弟子。
帳簿はきちんとしていた。一応、検算を入れながらページをめくる。
今まで見てきた自分の家の帳簿と、、、、金額の桁が、、、二つくらい違う、、、
動揺しながらも、項目を確認する。
実家では、、、資金繰りの心配と、、家にあるもので売れそうなものは売ってしまっていたし、薪ももったいないので冬は早く寝た。
父は金策に走り回っていたので、帳簿の管理は母に聞きながら覚えた。
やらなければならないこと、、、ここ何年か続く少雨に耐えられるように、貯水池を作る。わかってはいたが、どうにもできなかった。領民が冬を越せること、、、いつの間にかそれが一番になるほど、自領は追い込まれていたから、、、、
「帳簿にはね、その家やその人の生き方?人生が書いてある。物語を読むように読んでいきなさい。数字は正直だからね。」
師匠が、そう言う。
私はゆっくりとワルス家の物語を読み解く。
領地の分、、王都のタウンハウスの分、私的な、、各人の出納まで、、、
年度ごとに、繰越金も確認する。
どんどんさかのぼっていく形で、30年分を見た。さすがに、3週間かかった。
「大旦那様、、、、、結構苦労なさってたんですね、、、、」
そう言うと、文書を見ていた大旦那様が、面白そうに笑った。
「何か、気が付いたことはあるかね?」
「そうでございますねえ、、、どうしても、父の領の参考になることはないかと思って見てしまいますが、、、やはり、お金は大事ですね。私が学ぶべきことは経営学かと思っておりましたが、、、経営は、動かすお金があっての物ですよねえ、、、私は、、何を専攻すればいいですかね?」
「・・・・・」
「あ、逆に質問になってしまって、すみません。」
「いや。うちの領の運営をお願いするんだから経営学でもいいんだけどね?お前の父の領にアドバイスできるとしたら、、、、そうだなあ、、、アカデミアに産業開発講座が新設されたから、そこなんかどうだ?」
「ほう、、、、、」
ドレスの袖口が汚れないように小手をはめた手を止める、、、、、産業開発講座ねえ、、、楽しそう!!
「もちろん、うちの経営にも携わるんだぞ?」
「はい!」
大旦那様付きの事務官達が、暖かい目で見てくれている。
お茶を出そうとしたら、年配の事務官さんが入れてくれた。こんな小娘に、、、すみません、、、、
「学院が始まると自由が利かないから、今のうち領を見に行くか?」
「はい!師匠!!」
*****
「は?領の見学に行く?父上とか?」
「はい。大旦那様が乗り気でして。もちろん、大奥様もご同行されるそうです。どうされますか?」
「どう、、、とは?」
ベルノから、婚約者殿の本日の動向の報告を受ける。基本、、、信用していないから。
「あんな守銭奴のような男から学ぶことなんか、俺はない。」
「・・・・・」
「いいんじゃないか?暇なんだろう?ピクニック気分なんだろう。」
「・・・・・」
*****
ちょうどベルノさんから、学院の教科書を頂いたので、ヒルデさんがお出かけ用に準備してくれたカバンにぎゅうぎゅうに詰め込む。寝る前に読む本が出来た!
早朝から、大きな馬車で出発する。お父様、お母様と私とヒルデさんが乗り込む。
もう2台、荷物用と、お父様の侍従とお母様の侍女。大人数だ。
「渡しておいた資料は読んできたか?」
「はい。師匠。やはり、、、ここ2年ほどは不作ですね、、天候不順は全国的なものだったんでしょうか?ただ、師匠の領は、少し、不作、くらいで済んでいますね。」
「ああ。質問は?」
「少し、不作、くらいでは減税されないと過去の資料でも確認しています。その分、、」
「まあ!あなたたち!!お出かけなのよ?外を見ましょう?楽しいお話をしましょう??」
大奥様、、いえ、お母様が本当に驚いたわ!という顔で驚かれている。怒っているのかしら?そうですね、、環境を見るのも大事ですね。書類に全てがあるわけではありませんものね。さすがです。
お父様が、怒っているお母様の手を取って、笑っている。
王都を過ぎて、しばらく行くと、農村風景が広がってくる。ところどころに町があったり、市が立っていたり、、、そんな景色を眺めたり、お父様に質問したり、お母様の社交界での噂話や流行を聞いたりしているうちに、伯爵領に着いたらしい。夕刻になっていた。
「さて、お疲れだったね。着替えて夕食にしよう。荷物は客間に運ばせておくからね。」
お父様がさっさと降りて、お母様を降ろす。今日も高く結い上げられた髪が、ぶつからないかとひやひやしたが、にこやかに降りていかれた。そうそう、、、あの高く結い上げた髪は、今の社交界の流行らしい。あのような髪形のご婦人が、ホールいっぱいに集まっている光景を想像すると、、、少し、、、異次元?
まあ、、、舞踏会のホール自体は知識でしか知りませんが。
お父様に手をお借りして、私も降りる。
夕日に照らされる、領地のお屋敷、、、、荘厳,,,,
領地のお屋敷でお勤めの皆様も、みなさん、親切でした。
夕食を頂いて、部屋に下がり、持ってきた学院の教科書を読みこんで、、、就寝。
翌朝から早速、領地の見学です。
「お前、馬は乗れるのか?」
「あ、はい。」
ほっそりとした足の馬には乗ったことがありませんが、、、良く乗ったのは、農耕馬です。足のぶっとい。農耕馬自体の数が少ないので、あちこち連れて行きました。その時、乗っていました。
「じゃ、いくぞ。」
「はい。師匠。」
お母様は朝はゆっくりだそうで、、、、、生粋のお嬢さまなんですねえ、、、、見習ったほうが良いのでしょうか??
*****
領地のことは父が仕切っているので、あまり携わっていない。年度切り替え時に、帳簿を見せられるくらいだ。いつも、完璧な帳簿だ。不正などから一番遠いところにいる人かもしれない。まあ、、、、それゆえの王家からの信用、も、もちろんあることは自覚している。
自領は、馬車で一日掛かりの所にある。
羊が群れを成す、のどかな場所だ。
母は、、、意外なことに領地が好きだ。あんなに社交漬けになっている人が、、領地には楽しそうに出かけていくことを知っている。ま、、、気分転換?