第3話 はじめまして。
ゆっくりと頭を上げる。
自分の婚約者との初対面だ。
朝からヒルデさんが張り切って、着付けをしてくれた。髪も整えてくれた。
まあ、、、今までの生活状況を考えると、髪につやが無かったり、お肌が荒れていたり、少し肉付きが良くなかったり、、、するのは、御愛嬌だ。実年齢より、若く?幼く、見える自覚はある。
伯爵家で用意してくれたドレスは、どれも洗練されている。着こなす自信はないが、揃えてくれたであろう皆様に感謝したい。ありがとうございます。
ゆっくり、、私の目に入ったのは、綺麗な金髪、、、で、お顔が良く見えない、ほっぺぷくぷくの、子豚ちゃん?あら、、、思ったよりかわいい、、、おててもぷくぷくね。手袋越しだけど。お腹もぷっくり、、、、かわいいわ、、、肉屋のオヤジさんに似ている。いつも、削ぎ落した肉のかけらを取っておいてくださる、、、、タダじゃないけどね、、、
「ウィルマーだ。」
「はい。よろしくお願いいたします。クリスティーナと申します。」
とんでもないお年寄りに嫁ぐのかと思っていたら、申出をくださったのは大旦那様で、ウィルマー様の父上だったらしい。昨日、ヒルデさんに聞いた。
「屋敷では自由に過ごしていい。何かあったらヒルデに。足りないものは購入してくれ。」
「いえいえ、十分にご準備頂きましたので。」
「学院の手続きは済んでいるから、春から早速通える。制服も手配済み、、、だな?ベルノ?」
「はい。」
「まあ、ありがとうございます。では、ベルノさん、できれば予習をしたいので、教科書は届き次第頂いても?」
「承知いたしました。」
まあまあ、、、ベルノ、と呼ばれた若旦那様の秘書官は、、、、シャムネコ??ね?銀髪にブルーの目、、、シャムネコ、、、ぴったり!!!
「学院に通うのは構わないが、、特定の人と、深くかかわったりするのは遠慮してくれ。」
「はい。」
まあ、、、だって知り合いもいないし、、、問題ないわね。
「君が16歳になったら結婚することになるが、書類上だけだから。式もしない。」
「はい。」
そうですわね、、、そんなお金があったら、お父様の領のために使います。だいたい、、、家族みんなで王都に出てくるお金がもったいないですもの。
「私の部屋は執務室を兼ねているので、立ち入らないでくれ。」
「はい。」
、、、、と、言うことは、、執務のお手伝いはない?、、、学業に専念しろ、という事??!!なんてお優しい!!
「来週、私の父と母が、君をお茶に呼びたいらしい。私は、、、丁度仕事が立て込んでいて一緒に行けないが。」
「はい。承りました。」
*****
まあ、、、、経験から言うと、こういうおとなし気な子って、裏があるよね?
始めはおとなしくしておこう、って感じ?どうでもいいけど。
結婚して3年たったら、3年たっても子供が出来なかったら、離婚できる。
手を出す気は最初からないから、、、、3年、、、まあ、、いいか、、、
母は、何時も泣いていた。
父上が仕事ばかりして、家庭を顧みなかったから。
他所に女がいるのか?と思うほど、家にも寄り付かなかった。後で調べたら、女はいなかったが、、、、
母は寂しさを紛らわすために、頻繁に茶会を開き、社交に出、衣装を作り、宝石商を呼び、、、俺のことをいつも心配した。痩せすぎなんじゃないの?と。
恰幅のいい父親に負けないように太れという事か?
・・・・守銭奴、、、
父は、、、一部の人間から、領地の人間も含めて、、そう呼ばれている。不作でも税を下げず、帳面は個々人の分まで管理する。教会に身を寄せている老人や母子家庭の母親まで、ただでは食べさせずに、働かせているらしい。
そして、、、、家門のために嫁を取れと?
*****
「まあ、あなたがクリスティーナさん?まあ、まあ、よろしくね?」
お茶に呼ばれた私を待っていたのは、いかにも貴婦人然としたお義母様。
艶やかな緑色のドレスがお似合いの、お化粧ばっちりの女性。金髪は高く結い上げられている。どうなっているんだろう?芯があるのかしら?髪に宝石が散りばめられている。子豚ちゃんのお母さん?って感じではないわねえ、、、孔雀?いや、、、、、違うわね、、、ユニコーン?そうね!!!、、、見たことないけど。
スカートをつまんでご挨拶。
「まあ、いいだろう?座りなさい。お茶にしよう。」
大旦那様の侍従?が椅子を引いてくださったので、ありがたく座る。侍従さんは、、おっとりした大きい犬みたい。栗毛色の。
大旦那様は、、、、子豚ちゃんのお父様ね?そのまんまだわ!!
ぷっくりしている。
「クリスティー?あなた、もう少し太ったほうが良いわ!このケーキも食べなさい。美味しいわよ?」
ははん、、、、こうして、あの子豚ちゃんは出来上がったんだなあ、、、でも、美味しいからありがたく頂戴する。ケーキ、、、、生クリーム、、、この時期にいちご、、、
経済格差をひしひしと感じる、、、大丈夫かしら私?いや、、、弱気になっていたら、父の領地も、弟の未来も、私の学院生活もなくなってしまう!!しっかりしろ!!私!!!
「ウィルマーは、王太子の秘書官をやっていてね、仕事で留守がちなのよ。困ったことがあったら、相談してね?私たちはすぐお隣の離れにいるんですもの。」
「はい。ありがとうございます。」
「うちの領地は、今のところ、私が管理しているんだけどね、ゆくゆくは君たちが見ることになるから、時間があるとき、私の執務室で帳簿を見なさい。」
「はい。かしこまりました。」
「まあ、、、、あなたったら、、、こんな時にもお仕事の話?」
拗ねたように、お義母様が言う。
「いえいえ、必要な事ですから。問題ありません。」
「まあ、、、、クリスティー、、、無理しなくてもいいのよ?」
「いえいえ、、、学院が始まるまでは時間もございますので、、、早速、お邪魔しても?」
私は勧められるまま、ケーキを食べ、美味しいお茶をご馳走になり、、、
大旦那様の弟子になった。