第18話 あと10か月。
12月の大舞踏会は、、、
入場時に、家名と名前を呼ばれて、国王陛下の御前に出ます。もちろん、高位貴族の方からです。
「大丈夫よ?クリスティーですもの。」
「ああ。」
いつもの優しいセリフを残して、お父様とお母様は入場されて行きました。
私は、、、御同伴してくださるというウィルマー様が到着されるのを待っていました。
急にお仕事が入ってしまったようで、王城の執務室から真っすぐ来てくださる、という事でしたので。
・・・・ウィルマー様のお顔を、この前初めてまじまじと見てしまいました。
ネックレスのお礼に旦那様の執務室に伺った時、、、やはりご両親譲りの綺麗な夏空のような青い瞳でした。眼鏡越しですが。
眼鏡をかけていらしたんですねえ、、、、気が付きませんでした。
前髪が邪魔なようで、ピンで留めていらっしゃいました。うふふっ、、かわいい。
やはり、、、子豚ちゃんではなくなっておりましたが。
今日の私のドレスは、イルデ様に頂いたネックレスに合わせて、シンプルな淡いブルーの物。肩が落ちそうで怖いです。
私的には、折角、、、、最初で最後でしょうが、ウィルマー様から頂いたお花のネックレスを合わせたかったのですが、なにせ、頂いたのが王太子妃ですから、、、優先しましょうとお母様に説得されました。なるほど。結い上げた髪留めに使って頂きました。オレンジと黄色のお花。
ぼおーーっと旦那様をお待ちしておりました。
都合がつかなければ、このまま帰るのもありかなあ、、、と、思っていた時に、入場待ちされているご令嬢方がざわざわと騒ぐ声がしました。なんでしょう?
「え?どなた?」
「まあ、、、、お見掛けしない方ですわね?隣国の貴族?」
「素敵な殿方ですわねえ、、、お連れはいらっしゃらないのかしら?」
「きゃ、こちらをご覧になったわ!」
「どなたかお探し?きゃあ」
どこぞの殿方が、御入場待ちされている御様子です。きょろきょろと、、、どなたか探しながら歩いてくるようですね。
「ああ、クリスティーナ!」
ほっとしたような声を掛けて下さったのは、、、、え?ウィリーさん?何時ものように髪をかきあげて、整えてあります。
黒のコートに金糸の刺繍、あら?ベストはお父様の所の新しい生地ですねえ、、変わった織り方なので、それ自体が柄になります。リボンは綺麗なブルー。ラペルピンに、、、、オレンジと黄色のお花、、、、?
「まあ、どうしました?ウィリーさん、今日はこちらでアルバイトですの?今日は、、、どこぞのご令息の身代わりですの????今日はね、国王陛下との謁見がありますでしょう?流石に、、、、まずくはないですか?」
ウィリーさんの耳元で、こそっと話しかける。
だって、、、、ばれたら、不敬になったりしないですか?
「どうしましょう、、、このまま潜り込んだりしたら、罰せられませんか?」
「・・・・・」
ウィリーさんは驚いた顔でいましたが、、、ため息を一つついて、、、胸ポケットから眼鏡を取り出しました。ん?
「あ、、、、、あら、、、、旦那さまでしたの?申し訳ございません、知り合いにとてもよく似ていたものですから。」
「へえ、、、そいつも金髪なのか?」
「いえ、お仕事の都合で髪色を変えるようで、黒だったり茶色だったり、、、でも、、本当によく似ていらっしゃったような???」
あら、、、じゃあ、さっきご令嬢方に騒がれていたのって、、、旦那様???
「まあ、遅れてすまなかった。じゃあ、行こうか。」
旦那様に初めてエスコートしていただいて、入場です。緊張します。
旦那様の左手の指輪を見て、なんとなくほっといたしました。間違いないようですね。
*****
「ではクリスティー、私たちも踊ってきましょうか?」
クリスティーを誘って、フロアーに出る。
この子がかなり踊れるのは、以前見かけて知っている。
にっこり笑ってステップを踏む。
ネックレスは、、、王太子妃にもらったやつか、、、と、思っていたら、髪留めに僕の贈ったネックレスが使われていた。なるほどねえ、、、
2曲踊って、手を離した途端、、、、女の子たちに囲まれる。すごい勢いだ、、、
その向こうに、、、僕の両親のもとに急ぐクリスティーの背中が見える。背中、、、開きすぎ!!
「マリアンヌと申します。一曲お願いいただけまして?」
「いえ、ぜひ私と!」
「初めまして、ワルス伯爵ご令息でいらっしゃいましたのね?社交界嫌いとお伺いしておりましたが、、、、」
「まあ、こうしてお会いできたのは運命ですわ!私と踊っていただけませんか!」
・・・・
ぎゃあぎゃあうるさいなあ、、、、、とも言えない。
「ごめんね、綺麗なお嬢様方、僕はもう結婚しているんだ。」
何時ものように小首をかしげて、笑う。
きゃあーーと、絶叫が聞こえる。・・・・ああ、、、、メンドクサイ、、、
クリスティーを探すと、両親と一緒に王太子ご夫妻に挨拶に行ったところらしく、和やかに話しているようだ。女の子たちを適当にあしらって、僕もクリスティーの所に向かう。
「やあ、相変わらずだね、、、ウィル。」
「ああ、、、メンドクサイ、、、だから嫌なんだ。こういう場は。」
「フフッ、、、妻帯者になってもなお、だな?あの変な変装は止めたのかい?」
「なあに?貴方、、、、羨ましいの?」
イルデ様が殿下を睨みつける。
「いや。僕には最愛の妻がいるからね。」
エリック殿下がイルデ様を引き寄せてのろけている。
はいはい。ご馳走様。僕にも、、、さい、、、、え?
妻が、、、、追ってきた女の子たちを嬉しそうに、眩しそうに眺めている。嬉しいの?なにが?
「ウィルマー様はおもてになるんですねえ、、、安心しました。早く、最愛の方が見つかるといいですね?」
「「は?」」
「あら?イルデ様にはお話いたしましたでしょ?私たち、《《白い結婚》》でございますの。あと10か月はこの立場にいる予定なんですが、、、ウィルマー様が心に決めた方がいらっしゃれば、すぐにでも。アカデミアも春には卒業いたしますし。ただ、、、心残りは、、、」
「え?心残りは?」
「まだ、お父様の領地の羊の毛刈りを見ていないことと、お母様がお持ちのウエディングドレスを見れなかったことでしょうかね?」
そう言って、笑った。え、、、、と、、、、
「おい、、、、ウィル、、、お前、本気か?白い結婚て、、、」
「まあ、エリック、、、、、この二人、白いどころか、真っ白ですわ。」
「ま、、、、、、、」
「・・・・・」
「そのことだがね?」
苦笑いしながら黙って話を聞いていた父が、
「妻とも話し合ったんだが、私たちはクリスティーナを、養女にしようと思っているんだ。な?」
「ええ。一緒に領地経営して、クリスティーに婿でも取って、のんびり暮らしますわ。ベルノあたりがいいかしらね?親戚筋だし。この度ウィルマーは新しく領地が貰えるようだし、丁度良かったわ。ね、あなた。」
「まあ、、、、、お父様、お母様、、、、」
「いいんじゃないかしら?こんな中途半端な結婚を続けるよりは、ね、ウィル?」
え?
「じゃあ、、、、、私、、、、ウィルマー様の妹になるんですねえ、、、」
感慨深げにクリスティーナが、、、、いや、、、ちょっと待って!!何みんな決まったことみたいに言ってるの??