第16話 あと1年と4か月。
「一人で産んで、一人で育てていきます、、、」
そう言うと、大概の婚約者の女は、慌てて両親と相談してまとまったお金を用意して、無かったことにしようとした。相手との婚約が大事な場合は必ず。
男側に言うと、、、もっと簡単。子供が出来るようなことをやった覚えはあるわけだし。
それこそあっという間に大金が転がり込む。男の親が、無かったことにしてくれる。
揉めた時にだって、うちの養父が出て来て、間をおさめる形での慰謝料の支払いになる。
どちらにしろ、、、両家からお金が入るし、話はなかったことになるので、誰も口にしない。何か月か潜伏して、、、、社交界に戻る。
突っ込まれたときには、領地にいる子供に会いに行きますか?と言うと、、、大概黙り込む。簡単だった。
貴族の男、妻帯者はもちろん、婚約者のいる男、金持ちの商会のボンボン、そのオヤジ、、、、
正直、、、、いきなり医者を呼ばれたのは初めてだった。
養父は、、、孤児院にいた小さかった私を、かわいいというだけで引き取ってくれた。
教育はろくに受けなかったが、可愛らしさと無知が武器になるらしい。良くは分らなかったが、、、好きな事だけやって、養父の言う通りの男を誘った。初めはびっくりしたが、みんなちやほやしてくれるのは気持ちが良かった。
綺麗なドレスに、キラキラした社交界。美味しいご馳走に、沸いてくるような美味しいお酒。大好きだった。この華やかな世界!!
「次はね、この男だよ?カトリーヌ。」
黒髪に青眼、、、整ったお顔。王子様みたいね!!
徹底的にマークして、仮面舞踏会で落とした。ちょっと誘ったら、すぐに。二人共泥酔状態だったが、、、
次はツンと澄ましたイルデ、という銀髪の令嬢。
こう言うプライドの高そうな女は、自分のために、自分の立場を守るために、いくらでも金を積む。経験からわかっている、、、、つもりだった、、、
「そうしたら?」
そうしたら?ですって?あなたの婚約者との子供がいるって言ってるのよ?
参ったわ、、、、
しかも、一緒にいた女、なんなの?
このイルデという女の一大事でしょう?なんでそんなに冷静なのよ??
うろたえなさいよ!もっと大騒ぎにしなさいよ!
仕方がないから泣きまねをして、周りの人に聞こえるようにしようとしたのに、、、医者を呼ぶ?医者の診断??
地下牢で、養父が迎えに来るのを待つ。
こんな薄暗くて狭いところは私には似合わないのよ。早く出してよね。
とりあえず、、、、だれか、、、お酒を持って来て!!!
お願いよ!私を好きにしてもいいから、お酒を、、お酒を持ってきてちょうだい!!!
*****
「子供はいないようですね。お話からすると、もう、赤ん坊の心音が拾えなければなりませんから。」
医師は冷静にそう言うと、聴診器を外した。
「ただ、、、このお嬢さん、肝臓がかなり腫れておりますね。お酒の飲み過ぎと、、、安価な避妊薬を飲み続けていますかね?もう、黄疸が出ていますね、、、どうされますか?」
「地下牢に連れていけ。治療はするまでもないと思うぞ。
こいつの父親を呼べ。僕の執務室に。」
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パーティーの途中で、そっと近づいて、ジラ伯爵の耳元で囁く。
「大変申し訳ございませんが、王太子殿下が執務室でお待ちでございます。」
ジラ伯爵は、白髪の混じった茶色の髪をなでて、口元だけで笑った。
「おやおや、仕事の話が入ったようなので、少し失礼する。」
そう言って、一緒に飲んでいた連中に断りを入れて、付いてきた。
一緒に飲んでいた連中も、薄笑いを浮かべている。メンバーの顔は覚えた。と、言うか、、読み通りすぎる。
王城の長い廊下を歩き、ジラ伯爵をご案内する。
「こちらでございます。」
近衛に目配せして、ドアを開ける。そのまま滑り込み、ドアの前に待機する。
「お呼びでございますか?エリック殿下?何でございましょう?」
礼をしながらも上目遣いで、様子を伺っているようだ。
執務室には、王太子殿下とジラ伯爵、しかいない。
「ああ、他でもない。あなたの娘のカトリーヌ嬢の事なんだがな?」
「おや、あの子がどうかいたしましたか?」
「どうも、僕との子供が出来たようなんだよ。そう言うんだが、、、」
「え?、、、、子供が???」
しらじらしいなあ、、、、
エリック殿下の憂い顔も上手だな。
「本当だったら大変なことだよね、、、それで、父親のあなたに確認をしようかと思ってね、、、」
「ああ、、、心に思う人がいると言っておりましたが、まさかエリック殿下だったとは!!!しかも、、、殿下もあの子を愛してくださったと?そういう事でございますね?」
「・・・そうらしいね、、、」
「しかし、、、殿下はもう6月には公爵家のイルデ嬢とご結婚、、、、ああ、、、どうしたら、、、、大変なスキャンダルになってしまいますね、、、、」
「・・・・・」
「どうでしょう?私たち親子が黙ってさえいれば、漏れない話でございます。領地で生まれた子供は大事に育てますゆえ、、、、」
「・・・・へえ、、、、、」
「娘にはよく言って聞かせますから、、、育てるうえでの養育費等については、、後々相談するとして、、、、娘は?どこに?ああ、さぞや心細かったことでしょう!!」
「お前の領地には、、、他の貴族令息の子供や、大商会の息子の子供や、、、そうそう、、あの、大御所の引退した貴族のオヤジの子供やら、、、、何人ぐらいの子供が過ごしているんだ?」
「は?」
「いや、、、素朴な疑問なんだが?何人いる?ん?」
「な、、、、何のことでしょうか?」
「いや、カトリーヌ嬢がきれいさっぱり話してくれたんだがなあ、、、、父親に命令された、とな。今回は私がターゲットだったそうだな?何が望みだ?王太子妃の座か?金か?・・・・・それとも、、、誰かに頼まれたのかな?」
殿下が刑の軽減をちらつかせたら、あっけなく吐いた。
そうだろうとは思ったが、第二王子の実母の実家が依頼した。ジラ伯爵はその道では有名な親子だったんだろうな、、、子供が出来てもよし、なんならスキャンダルだけでもいい。そう言って。
控室のカーテンが開いて、ぞろぞろと人が出てくる。
流石に国王陛下まで出てきたのを見て、ジラ伯爵がぎょっとしている。近衛に押さえ込まれていたが、目玉が出そうなくらい驚いている。
「つまらない寸劇でございましたね。」
イルデ様、、、辛辣ですね。
「お前、当日はどうしてたんだ?」
「あ?父上、隣国に外遊中でしたよ?疑ってますか?あの変な舞踏会には僕の片腕が潜り込んでいます。黒髪、青眼で、ね?」
そう言いながら、ちらっと僕を見るのは止めていただきたい。誤解が生まれたらどうしますか??やってはいません。本当です。あのご令嬢とあの変な舞踏会で会ったのは2度目ですが、、、酔わせただけです。中々酔わなくてびっくりしましたが、、、着衣も少し乱しておきましたが、、、仕事ですから!!!
「じゃあ、まあ、結婚式は予定通りで。いいな?イルデ?」
イルデ様のご両親も、何事もなかったかのようだ。
「そうですね。エリック殿下が私との約束を守って下さる限りは、ですね。」
「まあ、お約束、とは?」
クリスティーナがこんな状況なのに、普通に質問している。
「側室は取らない約束なのよ。今回みたいに揉めるでしょ?結局、勢力争いになってしまうしね。他の方と夫を共有する趣味もないし。」
「まあ!素敵ですね!!」
国王が目をそらしている。
まあ、、、、いいか、、、、
国王の命で、丁度良く揃っていたメンツは集められ、牢に放り込まれた。
舞踏会はなかなか便利だな。探しに行く手間が省ける。
それぞれの屋敷や領地の屋敷も押さえが入った。早いな。
側妃も修道院送りかな、、、ま、しょうがないよね?
第二王子は、、、事情を聴かれるんだろうけど、、、
何事もなかったかのように、舞踏会は続く。
ワルス伯爵ご夫妻のもとに、クリスティーナ嬢をお送りしていくと、血相を変えて駆け寄ってきた侍女に舌打ちされる。おい。
「チェッ、、、」
「まあ、ヒルデさん、この執事さんが送って下さったのよ。舌打ちはいけませんわ。」
「・・・・・」
「あら?あらあら、、、ウィリーさん?でいらしたの?今日もアルバイトなのね?片眼鏡なんかされているから、全然気が付きませんでしたわ。うふふっ、、」
クリスが俺を見て笑った。
え、、、と、、、今日のドレスは少し露出しすぎじゃないか?む、、、胸元が、、、