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そのに 王様と市民と冒険者

「おいらは冒険者ー、あうとろーな冒険者~」


 顔に傷のシールを貼った冒険者がずかずかと道を行きます。

 強面っぽいつもりですが、人形特有のくりくりとした目は当然のごとく、なぜか鞘にはハリセンが入っています。


「おい、これもらうぜ~」


 不意に冒険者は露天に並ぶりんごを一個手に取るとお金も払わずにかじってしまいます。


「こらー。

 金払え~」


 おなかに布を詰め込んでふとっちょおばさん風の商人が腕をぶんぶん振って怒ります。


「へっ、知るかよ~。

 俺様あうとろー」

「兵隊さーん。

 へるぷみー」


 おばちゃんの声に101匹の兵隊さんがどどどっどどーと現れて冒険者を拉致って行きます。


「おとといきやがれ~」


 ごーとぅーへるー!と見事な動きで逆サムズアップを決めたおばちゃんでした。




「こらー、釈放しろー」


 冒険者が騒ぎます。


「うっさい」


 番兵が槍でぐりぐり突付きますが、演技用なので余り痛くないはずです。


「てめーら。

 なんで俺を捕まえるんにゃよー」

「何でって、窃盗じゃん?」

「ばーかばーか。

 俺様あうとろーだぜー」


 いい気になって番兵に『ばーか』と言い続けるのでまたぐりぐりします。


「馬鹿はお前にゃよ。

 アウトローの意味分かってる?」

「法律の外、法律適用外~」

「うん。

 うん」


 番兵はうなずいて


「だからお前死刑(σ・▲)σ」

「……Σ(=ω=)」


 J○J○立ち(あくまで伏字です)で指を突きつけられながらの宣告に、強面冒険者はがーんという効果音を背負って立ち尽くします。


「ちょ、まっ。

 何で窃盗で死刑にゃねんっ!」


 じたばたして猛抗議する冒険者を番兵が冷ややかに見つめます。


「今自分で言ったじゃん。

 アウトロー。

 法律適用外。

 窃盗に対する刑罰規定も『刑法』で法律にゃよ」

「んだから捕まらない?」

「いや、捕まえるっしょ。

 普通に」


 すげー普通に言われると頷かざるを得ません。

 刃物向けられれば抵抗しますし、盗人はひっとらえるのは法律以前の話です。


「で、本来の刑法なら罰金と禁固刑数日だけどさ~。

 人間一人閉じ込めるのにもお金かかるにゃよ。

 ほら食費はともかく、あちしがここで番をやってるのも人件費かかるし」

「おにー。

 あくまー。

 ひとでなしー」

「いや、だからね。

 『人で無し』は君にゃよ」

「俺様ばりばり人間っ。

 猫耳生えてるけど人間っ」

「国にとって税金払ってない、他国にも属していない人間は野生動物と一緒にゃよ。

 煮ろうが焼こうが誰も文句言わないし?」


 どきゅーんと心臓貫くような宣告に冒険者たじたじです。


「……あ、じゃあほらほら、俺様去年まで農民でしたー」


 どうだと言わんばかりに胸を張る冒険者。


「今年税金払った?」

「うんにゃ。

 ぜんぜん」

「南無(=人=)」


 戯言をばっさり切って捨てた番兵はそれ以上取り合う事もなくこちらを見ます。


「補足よろ~」


 ってこっちカヨ?




 では、補足解説です。

 『冒険者』と言えば吟遊詩人が歌うサーガにあって竜を打ち倒し、財宝を手にし、王になる者すらあるとても夢のある職業ですが……

 正しくは職業ですらなく、浮浪者と何ら変わりありません。

 国にとっては税も払わず、武装し、領地を歩き回る厄介者で山賊と余り大差がない存在なのです。

 それでも『冒険者』が受け入れられ、ギルドまで成立しているのはこの世界にモンスターと呼ばれる厄災が存在するからでしょう。

 本来ゴブリン等が発生した場合、その討伐に当たるべきは国か領主です。

 しかしエオスでは未だ一歩間違えれば戦争が勃発しかねない情勢から、民の一つ一つの陳情にいちいち付き合ってられないのが現実です。

 結果、突然現れたゴブリンに対して、村人は冒険者を雇うことを検討するのです。

 ですが、常にゴブリンの脅威にさらされているわけではありません。

 仕事にあぶれ、食うに困った冒険者がその手にある武器を人間に向けることは決して少なくないのです。

 その時、国はその元冒険者を盗賊と認定し、生死を問わず狩るように指示を出すことでしょう。

 市民でもなく、王の領地に著しい被害をもたらす存在は、どんな形をしていてもゴブリンと代わりはないのです。




「捕まれば~脱獄するのが世の定め~」


 妙な歌を歌いながら強面なつもりの冒険者が夜闇を走り抜けます。

 さっきぐりぐりされたときに傷シールがはがれていますが役柄的に強面なのです。

 さて、今冒険者は『こんなこともあろうかと』と用意してあった鋸で、壁の書き割りを切り取って脱走したのでした。

 大道具さんカンカンです。

 終わった瞬間を狙ってゴムハンマーを握り締めています。


「よし。

 冒険者やってらんねーから農民に戻るにゃ」


 おもいっきり犯罪者な事をぶっちしてそんなことをのたまいます。


「とりゃっ」


 一瞬の早着替えで農民風の衣装となった冒険者⇒農民はてっこてっこと我が道を行きます。

 やがてたどり着いたのは彼の故郷です。


「久々の家~」


 そう言いながら自分の家の扉を空けると、別の農民がご飯食べてる最中でした。


「……」

「……」


『どろぼー!?』

 一緒に叫んで、一緒に『はぁ?』という顔をします。


「お前、何で人の家に入り込んでご飯してんにゃよー?」

「お前、何で人の家にいきなり入りこんでんにゃよー?」

「いや、ここ俺の家にゃし?」

「馬鹿言え、ここは俺の家にゃ」


 平行線です。

 ぶっちゃけきりがないので、そこに身なりの良い人が入ってきます。

 偶然視察で通りかかった領主様で男爵です。

 ええ、偶然です。


「これ、何の騒ぎじゃ」


『こいつが勝手に人の家に入ってきたんです』


 見事なハーモニーで同時に言います。

 びしっと指差す格好まで一緒です。


「もう少し事情を説明せよ」


 領主様の言葉に、二人はぎゃあぎゃあ言いながら説明します。


「うっさい」


 たまにげしげし剣で抉りながら話を聞き終えた領主様は言います。


「お前が悪い」

「Σ(=ω=)」


 指差されてがーんとなったのは入ってきた方の農民です。


「なんで!?」

「だって、もうここお前の家じゃにゃいし」

「えーえーえー!?

 ざっつまいほーむ!?

 俺の家俺の土地。俺の故郷!」


 領主様はやれやれと肩を竦めます。


「そもそも土地は王の物にゃよ。

 それを私が管理しており、農民に貸し与えている。

 お前は土地を借りるための代償である税を支払わず、あまつさえ領から出て行ってしまった。

 管理者としてはそんなやつにずーっと無料で貸し与えるなんてできないにゃ」

「俺の土地じゃねーの!?」


 領主様はちゃうちゃうと手を振ります。


「ここ王国。

 王様の国。

 おーけい?」

「のっとおーけい」


 ぶんぶんと首を振る農民に王様はやれやれとこちらを見ます。


「じゃあ解説してやってちょ」




 王権制のアイリーンでは明確な身分の差が存在します。

 その内容は政治、経済を初めとしてさまざまな制度に適用されます。

 ある一定以上の職には貴族でしか就けない事もあり、アイリーンでは才能ある一定以上の役職に付くべき人間に、一代限りですが準騎士という貴族(仮)位を授ける制度を設けています。

 さて、今回の問題となっている土地の話ですが。

 大前提として、国土の全ては王の物です。

 しかし王族だけで莫大な領土を管理することは到底無理です。

 そこで王は貴族に土地の管理を依託し、貴族は王から賜った管理権限の元で税の取立てと土地の防衛、治安維持の役割を担います。

 さらに民は王の代理人として貴族から土地を借り、安全を保障される代わりに生産した物を税として納める義務を負います。

 従って乱入農民の言うように『ここ俺の土地』というのは間違いで、更に理由がどうであれその管理者である領主が下した沙汰は絶対となります。

 また基本的に農民は移住を許されていません。

 なぜかと言えば、隣の領地の方が土地が肥沃だったり、税が安いと当たり前ですが引越しを考えます。

 そうやって全員移ってしまえば民に逃げられた領地が成立しなくなり、また移住者と先住者での諍いが起こる事になるからです。

 従って一般的には関所は厳重な管理がなされているのが普通で、いかにも引越しですよーという一家が関所を通されることはまずありません。

 例外としては国が奨励した開拓地へ志願した場合です。

 この場合にはかなり緩い審査で移住が認められる上に、職能者にとっては千金に値するうまみがあります。

 そこの詳細はまた別途。




「と、いうわけでゴーアウェイ~」

「殺生なー」


「んー」と領主様は考えます。


「まじめに農民やる?」

「やるやる」

「ほんと?」

「ほんとほんと」


 すさまじい勢いで首を縦に振ります。

 きっとデスメタルでもやっていけます。


「じゃあ今回だけ許してやるにゃ」

「わーい」

「でも、あそこ開墾しろな?」


 領主様が指差したのは切り株やら岩やらが目立つ荒地です。


「あと家もがんばれ?」

「∑(=ω=)」


 まぁ、普通は脱税の上に押し込み強盗まがいな事をしてるのですげー寛大な処置です。


「返事は?」

「(_。。)_~ =ω)ノ ふわぁーい」


 男はエクトプラズム出しながら返事をして、とほほと家作りに乗り出すのでした。




 めでたくないめでたくない。

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