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そのいち 馬車と車輪と移動速度

「大急ぎなんだよ~」


 一人の男がとても間延びした声で切実に困っているぽかった。


「間に合わないと大損害なんにゃよ~」


 とても困って右へ左へうろうろしていた。

 あまりにもうろうろするので付け髭がずれたので、小道具さんに指摘されるほど困っていた。


「どーもー。

 冒険者でーす」


 そこに男と同じ声っぽいが、違う声と認識してもらいたい冒険者が現れた。

 その冒険者は輸送の依頼を受けてやってきたのだ。


「おお、よくきてくれたにゃ。

 これを大至急隣の町までれっつらごー!」

「ほーい。

 で、どうやって持っていけばいいにゃ?」


 荷物は木箱一つ。

 持ってみるとずっしり重い。

 冒険者はひょいと持ち上げたが設定上重いのだ。


「荷馬車を用意した。

 これを使ってくれたまへー」

「おーけい、まかせとけー。

 んで、いつまでに届ければいいにゃ?」

「ぶっちゃけ今日中」


 どーんと言い放った男の真上でお天道様がイケイケで上り詰めています。

 しかしどんなにイケイケでもこれからお天道様は下り調子確定なのです。

 だるー。


「隣町までどれくらいだっけ?」

「直線距離で60Kmくらいじゃね?」


 男がてきとーな事を言うので冒険者は地図を取り出します。

 ちなみに地図もふぁんたじーな世界では結構あてにならず、冒険者自身の書き込みがいたるところにあります。


「えーっと。

 街道で……徒歩4日にゃね」

「ずがーって行っちゃえよ。

 直進GOGO!」


 GOGO!と腕を振り上げる男に剣でチョップ一発。

 演技用なので体に優しく、とても痛いだけです。


「NOぉぉぉおお」


 うずくまる男に冒険者は言います。


「街道以外に走れるわけねーだにゃろ。

 ぼけぇー」

「気合にゃよ!

 KIAI!」

「いや、無理にゃから。

 そもそも馬車が普通に走れるのはちゃんとした道だけにゃよ」

「えー」

「んじゃ解説いくよー」




 人の歩行速度は4km/h程度とされています。

 照明技術が未発達であるエオスでは、夜間の移動は危険を伴います。

 また体力的な理由も鑑みて一日の移動可能時間は約8時間と考えられ、結果一日の移動距離は約30kmとなります。

 この移動速度は平坦な街道での事で、山道や道なき道の場合には格段に速度を落とす事になります。

 ただし、冒険者がマラソンランナーのように身軽な格好で歩いているはずもなく、鎧や野営道具を担いでその距離を歩くのですから、その健脚ぶりを称えるべきでしょう。

 さて、これに対して馬車の移動速度はどれくらいかと言うと約十数Km/hです。

 道の具合にも寄りますが、舗装されているアイリーンの街道を想定すると12km/hくらいと見るのが妥当でしょう。

 15km/hに平坦な道だけではない事を考慮した数字です。

 従って一日の移動距離は約100km程度となります。


 今回のケースの場合、徒歩で4日ということから30×4=約120km  

 少し無理すれば今日中に到着できそうですが、今はお昼ということもあり移動に使える時間は4時間程度。

 従って12×4=約50km。

 夜中もぶっちぎれば確かに到着可能かもしれないですが常識的な判断としては無茶な依頼と考えるべきでしょう。




「つか、間に合うじゃん。

 夜中もGOGO!」

「うりゃっ」


 また剣でえぐります。

 演技用なので以下略。


「夜中に走るなんて無茶にゃよ」

「松明あるじゃん。

 ランタンあるじゃん」


 踊りながらどこからか取り出した数本の松明でジャグリングを開始する男。

 見事な腕前です。


「松明程度で見通せる距離には限界があるにゃよ。

 ついでに夜中に急いで移動する馬車なんて『盗賊さん私はとっても重要な物運んでるよ。急ぎだよイエイ!』って感じじゃん?」

「がんばれ、あうち!?」


 ざっくり剣が眉間にささりますが、演技用なので問題ありません。


「そ、そのために冒険者雇ってるアルヨ?」

「なんかキャラ立てのためか語尾のアクロバット激しすぎにゃね」

「よし、じゃあ全速力でかっ飛ばすんDA!

 峠が俺を呼んでいる~」


 豆腐屋のシールを馬車に張る男は満足げに頷いて。

「これで最速伝説」と満足げです。


「平坦な道でがんばれば30Km/hは出るけど、良いことないにゃよ?」

「出るならいいぢゃん?」

「よかないにゃ。

 ほい、解説」




 馬車はスピードが出ないか、と言えば実際には出ます。

 初速はともかくとして一回加速が付けば慣性が働き、ある程度の速度は維持できます。

 ただし、これは街道が無人であるときにしか成り立ちません。

 すでに三次産業が芽吹き始めているエオスでは点在する大都市への物流はかなりの量です。

 一般的な旅行に対する不便さから、個人での旅行は皆無ですが、町と町を結ぶ街道で誰とも出会わないことはまずありません。

 そこを猛スピードで駆け抜けるとどうなるか。

 もち、事故ります。

 ハンドルがあるわけでないので回避性能は最悪。

 ブレーキもありません。

 歩行者を跳ね、対面から来る馬車に激突すること間違いなし。

 増してや緩やかなカーブですら遠心力という悪魔に捕らわれて大転倒することになるでしょう。

 また車軸、車輪への緩衝材が未発達のため、舗装されていない道では御者が飛び跳ねる事になり、舗装された道ではものすごい勢いで車軸、車輪の疲労が蓄積されることになります。

 その上、馬車を引くのはその名の通り馬です。

 人間よりも遥かに優れた持久力を持っているとは言え、数時間に及ぶ全力疾走はその寿命を大きく損なうことになるでしょう。




「というわけにゃ」

「むむむ。

 じゃーどーしろって言うんだこんちくしょー!」


 ぶんぶんと手を振って憤る男に対し、んーと緊張感のない顔で考え込む冒険者。

 不意にぽんと冒険者は手を打つと


「いや、馬車じゃなくてそのまま馬の鞍に荷物縛りつけたらいいじゃん」

「……(=ω=)b」


 先ほども述べた理由で街道の全力疾走は禁止されていますが、馬車よりもよっぽど小回りの利く馬単体ならば馬車よりもよっぽどスピードを出すことが可能です。


「というわけで急いでくれたまへ!」

「ほーい」


 かくして冒険者は馬にまたがり隣町へといくのでした。


 めでたしめでたし。

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