12 ブレスト防空戦 vsゴータ爆撃機
遣欧秋津軍4個師団とノルマン軍5個師団、合計20万人以上がここを脱出しようとしている。あそこに爆弾を落とされたら大変なことになる。洋一たちの戦闘機隊にもおのずと重責がのしかかってくる。
洋一も周囲へ向ける眼が厳しくなる。港より東側に、他と少し動きの違う船が目に付いた。特に2隻ほど大きいのが居る。片方は艦上が山のようにせり上がっていて、もう一隻は対照的に真っ平らだった。
「見たまえ諸君。〈プレジデント・オブ・ウィンザー〉と〈ヴィクトリアス〉だ」
〈プレジデント・オブ・ウィンザー〉は〈ジョージV〉級戦艦の二番艦で、〈ヴィクトリアス〉は〈イラストリアス〉級空母の2番艦であった。2隻ともブレスト港のドックで建造されていたが、ブレスト港の命運が尽きようとする中で無理矢理完成させたらしい。
彼女たちもまた明日のノルマン海軍を背負う大切な希望である。喪わせるわけにはいかない。周囲に向けられた洋一の視線が、ある方向で止まった。
「こちらクレナイ二番、エルム川上流辺りに敵編隊発見!」
やはり新手が現れた。ためらわずに洋一は無線のスイッチを入れた。
「低空、大型機、10機ぐらい。多分ゴータGo111」
何度か見た双発の大型爆撃機であった。大柄な機影を隠すために低空で侵入して来たらしい。
「多分魚雷だね。船団を雷撃するつもりだ」
ユウグレ小隊の指揮官機である池永中尉が教えてくれた。
「中隊全機、ゴータを仕留めるよ。エチゴ一番、こっちはしばらく低空にいるから宜しく」
そう云って12機の十式艦戦は翼を連ねて降下していった。
いつもならもっと高い高度から爆撃するゴータ111だが、今回は海面すれすれを這うように飛んでいる。よく見ると確かに腹の下に魚雷らしきものをぶら下げている。それも2つも。そんな奴らを行かせる訳にはいかない。
3機の小隊3つの9機編隊がぐんぐんと大きくなる。相手の斜め前から攻撃を仕掛けることとなる。よく見ると機首の辺りで何か光り始めた。
ガラス張りの機首に装着された旋回機銃だろう。何をと思う間もなく敵が間近に迫った。綺羅以下12機が機銃を連射してゴータ111の編隊の上を駆け抜けた。
洋一は振り返った。少なくとも3機が煙を吐いている。だが撃墜までには至らず、そして攻撃を止めようとはしない。
再度攻撃を加えるべく、十式艦戦は反転した。今度はゴータの後方から迫る格好となる。そしてその向こうに、〈プレジデント・ウィンザー〉と〈ヴィクトリアス〉が航行しているのが眼に入った。ゴータは彼女たちを目標に定めたらしい。
もちろんやらせるわけにはいかない。一旦取った高度を消費しながら十式艦戦はゴータ111爆撃機に迫った。ゴータの背中にある旋回機銃が各機一斉に火を噴いた。
9機揃うと流石に密度が違う。一気に駆け抜けるしかないが、〈プレジデント・ウィンザー〉たちの距離からするともう一回攻撃できるか怪しい。確実に仕留められるか。そう考えたところで綺羅から無線が入った。
「洋一君、左のエンジンを狙ってくれ、私は右だ」
「了解!」
元気よく答えると洋一は綺羅機に視線を向ける。飛んでいる様子から彼女の目標に当たりをつけると、洋一は照準を敵に合わせた。中央の編隊の右側、うっすらと煙を吐いている左のエンジンナセル。
視界の右端で綺羅が発砲するのと同時に、洋一も銃把を握った。7.7㎜機銃二丁と、プロペラ同軸の20㎜機銃が火を噴いた。
左のエンジンナセルに突き刺さり、多くの破片をまき散らす。エンジンカウルが吹き飛ぶと同時に派手に黒煙を吹き出した。視線を少しだけずらすと、右のエンジンからも炎を吹き上げていた。
両のエンジンを破壊され、ゴータ爆撃機はがっくりと機首を落とし、すぐさま海面に滑り込んだ。一機撃墜。
その程度で綺羅様が満足するはずはない。洋一がそう思ったときには綺羅機はもう針路をずらしていた。
「洋一君、もう一機いくよ」
次は編隊の先頭を飛ぶ指揮官機。洋一も当然のごとくその左側に照準を合わせた。
機体に何か当たったような気がする。だがそんなのが気にならないほど洋一は集中していた。自分を止めたければ身体を直接撃つか、綺羅様に云って欲しい。そして綺羅様が撃つなら、自分もそれを撃つ。
自分でも不思議なほど研ぎ澄まされた感覚で、洋一は十式艦戦を操り、そして引き金を引いた。
先ほどの攻撃で20㎜を撃ち尽くしたので、火を噴くのは2丁の7.7㎜のみ。伸びた火線がエンジンナセルに注がれる。威力が低い7.7㎜なのですぐに火を噴いてはくれない。しつこく、しつこく撃ち込み続けた。
敵の尾翼の横辺りまで来たので、ようやく綺羅機が引き起こした。洋一もそれに続く。振り返ったところで目標にしていたゴータの右プロペラが舞い上がった。洋一が撃っていた左側も回転を止めてしまった。前に進む力を失ってしまったゴータ111は海面に突き刺さった。
十式艦戦は上昇してゴータの編隊から離脱する。振り返ってみると大戦果だった。9機中5機を撃墜、いや6機目も今海面に激突した。残りも大体煙を吐いて、そしてなにより目標よりかなり前なのに魚雷を投下していた。
洋一たちはそのまま直進して艦の上空を飛ぶ。〈プレジデント・オブ・ウィンザー〉と〈ヴィクトリアス〉の甲板の上に大勢の人影が見えた。どうやらこちらに手を振っているらしい。こちらも翼を振ってそれに応えた。
あれだけの大型艦ともなれば両艦とも1000人以上は乗っている。それだけの命を救うことができたのなら、嬉しいな。洋一も綺羅に続いて翼を振りながら、ペンキも真新しい両艦を見た。
湾内で編隊を整えながら、中隊は高度を取り始める。勝利の余韻に浸るにはこのブレストは危険な空であった。




