11 ブレスト防空戦 vsスツーカ
五月二十七日 ブレスト港上空
「クレナイ各機、8時からまたお客さんだ。スツーカっぽいのにフォッカーもだ。高度は3000かな。行くよ」
「こちらエチゴ一番。フォッカーはこちらが引き受ける」
「じゃあ任せた麻倉」
十式艦戦が忙しく翼を翻す。ブレストの空はまさに戦場であった。洋上には無数の船が行き交い、上空を護衛の戦闘機が飛び交う。そして隙あらば侵入しようとする敵機。
本格的な脱出作戦が始まって三日目。ようやくこちらの意図を察知したブランドル軍はブレスト港への攻撃に力を入れ始めた。朝からひっきりなしに爆撃機がやってきては船を攻撃しようとする。
ブランドル軍がブリタニー半島に投入している航空戦力は第二航空艦隊のうち500機程度と見られている。対するは秋津陸軍第五飛行師団の120機と海軍第十四航空隊50機、そこに〈翔鸞〉〈瑞鸞〉の航空隊200機を加えてなんとか支えている。
地上展開している航空隊も、あと数日で整備員たちを引き上げなければならない。そうなると洋一たち空母航空隊が頑張るしかない。
目標となるスツーカ急降下爆撃機の編隊がぐんぐん迫る。その上空にいた護衛のフォッカー109がこちらに向かってくるが、横合いからエチゴ一番、朝倉大尉率いる第二中隊が横合いから突っ込んで追い払う。スツーカ隊への攻撃針路が切り開かれた。
「アカツキは左の編隊、ユウグレは奥、クレナイは右を攻撃するよ」
綺羅たちの目指すスツーカ隊はこちらに気づいているようだが逃げる様子はない。この段階で爆弾を捨ててくれたら楽な仕事だったのだが、残念ながらそうもいかない。ならやるしかないのだ。
相手の横合いから接近する形となった。スツーカの後部座席から火箭が伸びているのが判る。防御用の旋回機銃だ。この方向ならまず当たらないだろう。
せめてもの抵抗で編隊を密集させて防御機銃の密度を上げようとしているが、その程度では止められない。
先頭のスツーカに紅宮綺羅の銃弾が伸びる。燃料タンクを撃ち抜かれて霧状にガソリンを拭きだし、数秒おいて機体が炎に包まれた。
次は自分だ。洋一はその隣の機体に照準を合わせる。相手の横方向から撃つので照準環の外に目標を置く。
まず軽く握って短い連射。曳光弾が目標の後方に曲がっていく。もう少し前か。少しラダーペダルを軽く踏み込む。
今度こそ。洋一は強くスロットルレバーに付いている銃把を握りしめた。自分から見ると機銃の航跡が照準の外に曲がっていき、そして吸い込まれるようにスツーカに刺さった。
次の瞬間、巨大な火球が目前に現れた。機体の方も大きく傾く。訳が判らないまま洋一は操縦桿を引いてその火球を避けた。
火球が収まると煙だけが残っていて、その中にいたはずの機体が、かき消すように消えてしまった。
衝撃でくらくらする頭を軽く振って、ようやく洋一は事態を呑み込んだ。スツーカが腹に抱えている爆弾に、命中したんだ。
そして250㎏爆弾の威力はスツーカ一機を粉々にしただけでは収まらなかった。すぐ隣にいた編隊の残り一機が、片翼の半分と、片方の水平尾翼と、垂直尾翼を吹き飛ばされていた。
損傷したスツーカは爆風にあおられて水平錐揉みに入った。落ち葉のように回りながら下に落ちていく。ああなるともう助からない。
水平錐揉みは立て直すのがむずかしい上に、頼みの綱の尾翼まで喪っている。そして搭乗員は身体を壁に押しつけられて機からの脱出もままならない。あのまま彼らは地上まで墜ちるしかない。
「いやぁ、すごいもんだ」
すぐ後ろで見ていた3番機の小暮二飛曹が無線で感嘆していた。
「一度に2機撃墜は初めて見た。おっかないなぁ。こっちの獲物が無くなっちまった」
驚かれても洋一にはどうにもピンとこなかった。
「でも、あっちの機体は撃ってないんですよ」
弾を当ててもいないのに「撃墜」になるのだろうか。
「おめでとう洋一君。失速に追い込んだり地上に激突させても撃墜は撃墜だよ」
そういえば「遣欧滋野航空隊」でも森の中に逃げ込んで追ってきた敵機を木立に引っかけさせる「百舌鳥の早贄」という技があったっけ。
派手な爆発は他のスツーカ隊にも動揺を与えたらしい。先ほどまでこちらの攻撃をものともせず目標に向かっていたのに、爆発の後は皆一斉に爆弾を切り捨てて逃げに転じていた。ああいう死に方はしたくないのだろう。
爆弾を捨てたところで固定脚のスツーカよりも十式艦戦の方が優速である。追いかけて全滅させたいところだがそうもいかない。
「こちらクレナイ一番、中隊は一旦集まって」
ブレスト上空は敵も味方もとにかく忙しい。そして港はもっと忙しい。上から見ても脱出する船が連なっているのが判った。残された兵隊達を洋上に運び出しているのだろう。




