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第8話 本当に彼が主人公なのか?

 外も暗くなって来たので、花はアミルを家まで送ることにした。

 とは言っても、今の花は力を使い果たし、アミルに抱きかかえられている。花が生えている植木鉢をアミルが両手で抱いている感じだ。


 アミルの家は森からそこまで遠くなく、30分くらい歩くとそこへ到着した。


「ありがとう! なんだか、送って行くって言ったのに悪いね」

「いえ! 心強かったですよ! あっ、そうです! 少し休んでいきませんか?」

「ええ!? いや……僕モンスターだし……」


 アミルの家はそこまで大きくない。

 そして、基本的にこの世界の一般市民はモンスターを飼ったりしない。


 モンスター=危険な存在という認識が強いのだ。

 おまけに花は喋るモンスター。明らかに怪しまれる。


「大丈夫ですよ! お花さんはお花のフリをしていればいいんです!」

「バレるでしょ!」


 結局、アミル家にお邪魔することになった。

 2階のアミルの部屋に入ると、地面に降ろされる。


「疲れが取れるまで、ゆっくりしていってください!」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」


 ここに来るまで、アミルの母親に見つかりはしたが、なんかちょっと大きめの植物という彼女の言い訳でなんとか通った。


「アミルちゃんって、お兄ちゃんがいるんだよね?」

「はい! 来月からスキハ学園に通うんです! とは言いましても、もう数日で来月ですけどね! もうすぐお兄ちゃんは寮に住むことになります」


 ということは、もう少しで学園編が始まるということだろう。

 SHFは既に主人公 (アミルの兄)が入学した状態から物語がスタートする。


「正直心配です……」

「僕もだよ」


 主にゲイルのことである。大人しくしてくれればいいのだが。


「って、アミルちゃんは何が心配なの?」

「お兄ちゃんのことです……。お兄ちゃん優し過ぎますし、その……臆病な所もありますから……」

「えっ? そうなの?」


 確かに普段は大人しいが、モンスターとの戦闘になると鬼のようになり、モンスターを絶対に殺す戦士というイメージだったのだが。


(あ、そうか)


 本来の主人公は、妹であるアミルをモンスターに殺されている。

 だから、モンスターに対して憎しみを抱いていたが、この世界では多分それもない。


「僕は嬉しいよ」

「何がですか?」

「アミルちゃんが生きていてくれたことと、そのおかげでお兄ちゃんも変わらずにいてくれたことが……って、しまった!」


 口を滑らせてしまった。これでは、ゲイルのことを言える立場ではなくなってしまう。


「なるほど! 本当だったら私はあそこで死んでしまうハズだったのですね!」

「え……いや……」

「ゲイルさんの言っていた、未来が分かるスキルって奴ですよね!?」

「う、うん。そんな感じかな?」

「おお! なんか凄いです! あっ、大丈夫ですよ! 他の人に言ったりしませんから!」

「頼むね」


 主人公の性格が変わったとなると、本当にこの世界のストーリーはどうなってしまうのだろうか?

 強さであれば、潜在能力は強いのでまだなんとかなったかもしれないが、性格となると厄介だ。性格なんて簡単に変わるものでもないし、こっちの都合で変えるなんてそれこそ悪役のやることだろう。


 と、その時。カサカサと音が聴こえた。


「すみません。ネズミがいるんです」

「ああ。別に気にしないから大丈夫だよ」


 花は特に気にしなかったのだが。


「お、お化けぇぇぇぇぇぇ!」


 アミルの部屋に1人の少年が叫びながら入って来た。


「お兄ちゃん!?」

「お兄ちゃんなの!?」


 SHFの主人公よりも、大きく年下と感じる少年だった。


(これが主人公!? 髪型も違うし! 本来ならスポーツ刈りに近い感じの髪型なのに!)


 本来であればそうなのだが、今ここにいる主人公の髪型は少し長めの黒髪ショートヘアーであった。

 SHFで見せたような鋭い目つきでもなく、なんというのだろうか。いわゆるショタっぽい感じであった。とても15歳には見えない。


「お兄ちゃん落ち着いて! ネズミだよ!」

「う、嘘だ! さっきから誰かと喋ってただろ! 気のせいかと思ってたけど、やっぱりお化けだ! ……というか」


 彼は、急に冷静になった。


(急に冷静になるな!)


「ボクのかわいい妹と喋っていたのはお前だろ! 誰だお前は! 妹を傷付ける奴はこのボクが許さない!」


 一人称もSHFでは「オレ」だったのだが、「ボク」になっていた。

 いや、回想シーンでは「ボク」だったので、妹の死で一人称が変わったのだろう。


「お、落ち着いて!」


 話せると言うことがバレているのなら、仕方がない。

 とにかく、人畜無害ということを証明しよう。


「確かに僕はモンスターだけど、悪いモンスターじゃないよ!」


 花は優しく言った。

 すると、彼の顔は青ざめていく。


「モ、モンスターなのおおおおおお!? い、いやだ! 死にたくない……いやだぁ!!!! で、でも妹は守る……妹に手を出す奴は……ぶはっ!」

「ちょっ、大丈夫!?」


 頭部を壁にぶつけ、彼は倒れた。


「お兄ちゃん! しっかりして! ……ごめんね。お兄ちゃんモンスターが苦手で……」

「あ、ああ」


 数秒後、彼は目覚めた。


「知らない天井だ」


 この台詞は物語中盤で、とあるアニメのパロディーとして彼が発するのだが、まさかこんな序盤で聴けるとは。


「もう! 何言ってるの! ここ家だよ!」

「そ、そうか。悪かったな。で、なんでボクは気絶してたんだっけ……って」


 アミルに膝枕をされた彼は、ガクガクと顔を震わせる。


「モ、モンスターだ……モンスターが家にいる……」


 再び彼は、意識を手放したようだ。

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