第20話 イベントクリア
「今の内に行くぞ」
砂煙が舞っている内に逃げるとしよう。
花はミストを起こすと、その場から立ち去るのであった。
◇
校舎へ入ると、ゲイルと出会う。
ゲイルは今も他パーティーの宝石を破壊した後だったみたいで、機嫌が良かった。
そんなゲイルが訊いてくる。
「どうした? 宝石は手に入れたか?」
「ああ! バッチリだ!」
ミストは困惑中である。
「あの……さっき何したんだ?」
寄生をしている間、寄生されている方はその記憶はない。
スキルが進化なりすれば、その辺りも改善されるのかもしれないが、今はまだ無理だ。
「ミストの力を使わせて貰った! 君は強い! 自信を持て!」
「ボクの力……?」
「そうだ!」
今はまだその力は表には出せないだろうが、やはりミストは主人公。潜在能力は半端ではないのだろう。
「それにしてもよぉ、ローナの奴らはどうしたんだ?」
「ゲイルは会ってないのか?」
「あたりめーだろ!」
何が当たり前なのかは分からないが、あえて突っ込まないでおいた。
「あら? 宝石は無事に見つかったのかしら?」
そんなことを考えていると、ローナ達がこちらに向かって歩いて来た。
「いよぉ! 俺達はもう宝石を手に入れたぜ! お前らはどうせまだなんだろ?」
ゲイルがニヤリと笑いながら言うが、ローナは余裕そうに答える。
「当然見つけたわよ。ほら」
ローナは緑色の宝石を見せ付けた。
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
予想外だったのか、ゲイルは驚き後頭部を壁にぶつけた。
ゲイルは壁の方に顔を向けると、舌打ちをした後に壁を睨みつけた。
『まぁいいじゃないか。早速教室に行こう』
『そうだな。俺の為に働いてご苦労なこった!』
脳内会話でゲイルを落ち着かせると、ゲイル達と共に花は1年A組の教室へと向かった。
「俺達が1位っすよねぇ!?」
ゲイルはローナとミストから受け取った宝石と、自分で手に入れた宝石を片手で机に叩きつけた。
「はい。A組では貴方達が一番早かったです」
ということは、他のクラス含めると一番ではないということだ。
この辺りは原作通りである。
「ちっ! ったくよぉ! お前ら! しっかりしろーっ!」
出た。ゲイルのブチギレタイムである。
偉そうに右手人差し指で、ローナ達に向けてビシッと指を指す。
「ゲイル君、よく大きい声出すよね」
「全くだわ」
メグとローナが反応するが、メグはどことなく冗談交じりといった表情で、ローナに関しては本来であれば言い返すハズなのだが、言い返さない。
「貴方、他のクラスの子に慕われているのね? リアさんだったかしら」
「ああ!?」
「おそらく貴方は多くの人間に嫌われるでしょうから、慕ってくる子は大切にしなさいよね」
「ああ!?」
なるほど、リアと会ったのか。
そのおかげでゲイルの印象も、少しだけ良くなったのかもしれない。
「確かに、ボクはもっとしっかりするべきだ……花が来なければ宝石を奪われていた……」
顔を下に向けるミストであったが、そんなミストにローナは励ましの言葉をおくる。
「あんな奴の言うこと気にしなくていいわよ? それに、結果的に宝石は奪われなかったんでしょ? 別にいいじゃない」
「ローナ……」
「これは貴方の為とかじゃなくて、事実を言ったまでだから」
ローナお得意のツンデレムーヴだ。
「ローナ……ありがとう!」
「貴方の為じゃないって言ってるでしょ!」
それに加えてメグもミストを励ます。
「ミスト君は凄いよ! 私こそ何もできなかったし……。それに比べてミスト君はかっこいい!」
「メグも……ありがとう!」
ミストとその近くにいるヒロイン2人を、ゲイルが睨みつける。
「あいつら……ふざけるなよ」
ゲイルはボソッと呟いた。
『ゲイル落ち着け!』
『落ち着いてるぞ』
どう考えてもキレているが、あくまでも落ち着いていると本人は言う。
(けど、今このタイミングでミストに怒鳴らないだけ、我慢してるんだろうな。そこだけは進歩? かもしれない。刺激するのも良くないし、落ち着いているってことにしておこう)
元はと言えば、こうなったのはゲイルのせいなのだが。
(ゲイルも悪い奴ではないんだよな。それにしても、我慢か……よしっ!)
確かにゲイルは暴言をはいたりワガママなことを言ったりするが、花が人間時代暮らしていた世界であれば、特に珍しい思考ではない。
皆に嫌われたくない、良い人間でいたい……人により理由は様々だが基本的にそういった考えは表に出さない人間が大多数である。だが、表に出さないだけで、そういった黒い感情を持たない人間はおそらくいないだろう。
(ちょっとゲイルに説教……いや、相談してみるか)




