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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖剣と悪の血統者シリーズ

勇者になれなかった者たち

作者: 名録史郎


 物語とは、都合のいいように書き換えられている。


 そう気づいたのは、いつだっただろうか。

 

 勇者が主人公の物語は数多くある。

 そのどれもが、邪悪な魔王を倒したというもの。


 数ある伝説の中では、勇者は正々堂々魔王に挑み、魔王を打ち倒した。


 そう書かれている。


 だが、勇者と魔王との戦いを観戦していたものはおらず、全ての伝説どれをとっても勇者の口から語られたものだ。


 自分で魔王を倒そうとしてみて理解した。

 きっと正々堂々なんて戦っていない。


「普通にやってかなうわけない」


 軍に参加したときに見た。

 魔王の放つ恐ろしき魔法。


 魔王の放つ、天高くから降り注いだ圧倒的な魔法の威力は、大地を揺るがすほどだった。

 生き残った者たちは、何が起きたのかだれも理解できていなかった。

 一瞬で、視界は光で覆いつくされた。

 ほんの少しだけ前を歩いていたものたちが、搔き消えるように消失した。


 戦いは、魔王の一撃で終息した。

 

 そして自分の国は、魔王の国の属国となった。


 魔王は、ほとんどなにも要求してこなかった。

 それが何より恐ろしい。

 自分の国などいつでも滅ぼせるということなのだから。


 王族は、魔王に従うふりをしながら秘密裏に指示をだした。

 魔王を倒したものに褒賞として王の地位を約束すると。

 勇者が倒されても、個人の判断だったと言い逃れできる王族の姑息さだった。

 そうであったとしても、高貴な血筋でないものを王族が招き入れることなど、この機会を逃せばないだろう。


「きっと俺が勇者になってみせる」


 どんな手段を使っても、手段が姑息であっても、魔王を倒したという事実さえ手に入れれば英雄だ。

 欲望のみに突き動かされていたとしても、伝説の中で語られることはない。

 なぜなら、魔王は絶対的な悪だからだ。


 決意を胸に、魔王の国の路地裏を進む。


「入国を許していない他国のものが、勝手に王都を歩くことは感心しませんね」


 この国に入って初めて声をかけられた。


 そこにいたのは、黄金の髪をなびかせた黄昏色の瞳を持つ女だった。

 夜の街に場違いなほど、煌びやかな美女。

 ただし、腰に装飾を施した剣をつけていた。


「誰だ?」

 

 女は静かに語る。


「あなたが倒したい魔王ですよ」


 女の回答に思わず目を瞠る。


「魔王? お前がか?」


「ええ、その通りです。魔王以外に魔王だと名乗る理由がありますか? あなたのような、勇者を目指す愚か者に無限に命を狙われるというのに」


 確かにないだろう。

 自ら勇者に倒してくれと言っているようなものだ。


 だけど、間違って、魔王でない美女を殺したとなれば、非難を浴びるのは自分の方だ。

 周りにだれもいないことを確認しながら女に聞く。


「証拠はあるのか?」


「ああ、倒した時の証拠が欲しいのですね」


 女の瞳が、心の奥深くまで見透かすかのように一瞬赤く光る。

 自分の心に世界を守りたいなどという殊勝な気持ちが、どこにもないことを知っているかのようだった。


「ほら、ここを見てみなさい」


 女は自身のドレスのように飾り付けた鎧の紋様を指し示して見せる。

 太陽と月が重なったような紋様だった。


「この紋は、サンヴァ―ラ王家にしかつけることが許されていません。魔王ニルナ・サンヴァ―ラの所持品だと証明することができますよ」


 その言葉を聞き、俺は剣を構えた。


「城に行く手間が省けたな」


 寝込みを襲うという、当初の予定は崩れ去ったもののここは街中。

 魔王であろうと、軍隊を滅ぼすほどの高火力の魔法を放つことはできない。


 俺は笑みを浮かべて、剣を構えた。

 理不尽な魔法さえなければ、俺は村一番の剣士。

 今まで誰にも負けたことはない。


 それを見て、女魔王も剣を構える。


「俺の名は……」


 名乗ろうとしたところ、魔王にさえぎられた。


「ああ、そういうのは、正直どうでもいいです。覚えきれません」


 魔王はあきれ果てたように言った。


「それに、相対しただけで、力量の差がわかりませんか? 今、逃げ出せば、私はわざわざ追いかけてまで殺したりはしません。どうせ毎晩、同じような人間が私を倒しに来るだけなので」

 

「怖気ついたか」


 魔王が女だということは、驚いた。

 だが、魔法が強いだけだろう。

 きっとはったりだ。


 構える剣は様になっているようだが、あんな細腕でまともに剣を振るえるとは思えない。


 魔王は呆れたように言った。


「一撃だけは受けてあげます」


「なめやがって!」


 俺は、剣をしっかり握りしめると、魔王に向かって振り下ろした。


 ガキン!


 魔王が剣で受け止めた。

 どこから力がでているのか、ビクともしない。


 魔王が静かに言う。


「どうしますか? 逃げますか?」


「戦いは、これからだ!」


「そうですか。残念ですね」


 魔王がそう言った瞬間、世界との感覚がずれた。


(なにがおきて?)


 理解できないまま、魔王の体がゆっくりと自分の剣を弾き飛ばし、返した刃が自分の首筋に向かってきた。


 ゆっくりと、魔王の剣が自分に向かっている。

 体は動かない。一切反応しない。


(動け、動け、動け!)


 念じても、指先一つ動かせず、魔王の剣はゆっくり首に近づいていく。

 だというのに、風に舞う木の葉は少しも微動だにしていなかった。

 魔王以外、世界が一切の活動をやめたようだった。


(ああ、そうか)


 魔王が放つ威圧感で、脳が死の恐怖を覚えて思考を加速させ逃れようとしているのだと気づいた。

 走馬灯が駆け抜けようとしたとき、魔王と目が合った。

 反省を促すような黄昏色をした魔王の瞳が、綺麗な記憶に逃げ出すことを許してはくれなかった。

 

(死ぬ)


 心までが死の恐怖を覚えたときに、自分の首が宙を舞った。

 自分の体を見下ろしていた。

 

 俺は勇者にはなれなかった。


 それだけ理解し、自分の世界は途切れた。


◇ ◇ ◇


 月が照らす、血だまりの中、静かに歩きます。


「私が誰かに倒された時、きっとその人の物語の中では、私は極悪人として書かれるのでしょうね」


 私のしてきた行いが、すべての人にとっていいことだとは思っていません。

 邪悪だと言われれば、否定できません。


「だからといって、負けるつもりはありませんよ」


 誰かの伝説の糧に。

 おとぎ話の悪役に。

 なるつもりはない。

 絶対に。


 私は、魔王。

 たとえ世界中から後ろ指をさされようとも、王として、国を守るという使命があります。


 死体になった者を見下ろします。


「どうやら伝説の中の主人公に、貴方はなれなかったようですね」


 伝説の影で散っていったあなたのような存在がこの世にどれだけいたかなんて、きっと魔王であるものしか知りません。


 そして、魔王である私は物覚えが悪く。

 明日には、今日という日の出来事も、日常の一部として忘れていくことでしょう。


 だから、せめて今だけは、別れの言葉を告げます。


「何者にもなれなかった者よ。さようなら」


この作品は

『英霊様は勇者の体を乗っ取りました』

https://ncode.syosetu.com/n5709ie/

のスピンオフになります。


ニルナについて気になる方は、

本編もよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  魔王の全てを分かったわけではないですが、悲しい宿命ですね。なすべきことをやり続けるだけで恨まれるのですから。愚かしいのは警告を無視した人間でしょうか。魔王に何か願うことはあるのでしょうか…
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