小学生になった
そんなこんなの幼稚園の時間が終わり、ようやく帰宅した。
「ただいまー!」
あゆみが元気よく叫びながらバスを降りる。
「ただいま」
続いて俺も降りる。
「おかえりなさい、あゆちゃん、たっくん」
母さんが笑顔で迎えてくれた。
この母さんの笑顔が見られるのもあと何年だっけかな・・・ん?
俺は重大なことに気がついた。
(待てよ?2度目のこの人生ならば。あらかじめ事故の日が分かっている今回なら母さんと父さんを助けることができるんじゃないか!?)
事故が起きたのは平成七年の八月十日。
お盆の帰省中の出来事だった。
「よし!決めた!絶対に歴史を変えてやる!!」
「わっ、びっくりした。お兄ちゃんどうしたの?」
うっかり声に出ていたようだ。
それから俺は子供を演じながら生活を送っていた。
ただ、以前とちがうのはできる限り母さんの手伝いをして、あゆみの面倒を見ていることくらいか。
そして、将来のために英語を習うことにした。
母さんに「英会話教室に通いたい」と言ったところ、反対されるかと思いきや「まあ、えらいわ」と褒められてしまった。
5歳児の頭は素晴らしいことにどんどん習ったことを吸収していく。
そして小学校に上がる頃には完璧にマスターしていたのだった。
またたく間に月日は流れ、転生して三年が経ち、あゆみも小学校に上がった。
この頃から前回と同じく母さんはパートに働きに出ることになった。
とは言っても夕方までなので別に困ることはない。
今まで通り洗濯ものを畳んだり手伝いは行なっている。
それにしてもこの時代、娯楽が少ない。
スマホはおろかパソコンすらないのだから。
いや、パソコンは存在しているが令和の時代のように各家庭にあるわけではないのだ。
「なあなあ、たくやはどこまで進んだ?俺はねー、火力船のとこ」
「あー、ちょうど第二世界にいったとこかな」
「うわ、早いなぁ」
教室で友人のさとるとスーパーファミコンの話をしていた。
(まあ、今まで何回もリメイク版をクリアしているのだが)
「今日一緒に遊べる?」
さとるが訊ねる。
「ごめん、今日はあゆみと遊んでやる約束してて」
「相変わらずたくやは妹が好きだよなー」
「そんなんじゃないってば」
まあ、可愛いのはたしかだが。
しかも最近はめちゃめちゃ俺に懐いてきてこの間も「お兄ちゃんと結婚する」なんて言ってきた。
家に帰り、まずはベランダから洗濯物を取り込む。
小さい俺のために手の届く範囲に干してある。
「お兄ちゃん、あそぼ〜」
洗濯物をたたんでいるとあゆみがそう言いながら居間にやってきた。
「まずは宿題をやってからな」
「は〜い」
俺とあゆみは居間で一緒に宿題を始める。
「お兄ちゃん、これ分かんない」
あゆみが見せてきた問題は『15−8』だった。
「これはね、まずは15を10と5に分けてみたら簡単なんだ。10ひく8ならわかる?」
「うん、2」
「そしたら分けておいた5を2と足すといくつになる?」
「7!」
「そう、それが正確」
「すごい、さすがお兄ちゃん!」
そんな感じで毎日を過ごしていた。