愛の描く恋路は、手紙と共に失われる
僕たちは遠距離恋愛をしていた。
彼女が住んでいる町は、僕が住む場所から離れていて、会えないことが辛かった。
それでも、僕たちは愛し合っていた。
日々のメッセージや電話で、お互いの近況を伝え合い、会えない時間を埋めていた。
次に会う時はプロポーズをすることを心に決めていた。
まず初めに彼女と出会った経緯を書かなければならないな。
彼女と出会ったのは旅行先の水族館だ。
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僕は魚が泳ぐ姿を見るのが好きだった。
優雅に水槽を駆け巡る姿は、勇敢な騎士のようにかっこよく、人魚姫のように美しく感じていた。
その中で、映画にもなったオレンジの魚であるカクレクマノミが特に好きだった。
僕がカクレクマノミの水槽に見惚れていると何かにぶつかった感覚がした。
「あ、すみません」と肩に軽く触れる感触と共に、僕は振り向いた。
そこには、綺麗な瞳を持つ女性が立っていた。
水族館の光景が、彼女の背景を照らしている。
彼女が見た魚たちは、僕たちが見たものとは違うのかもしれないとなぜか思った。
「大丈夫です」と僕は微笑んで言った。彼女の手には、カクレクマノミのキーホルダーが握られていた。
僕は思わず言葉に出してしまった。
「カクレクマノミ好きなんですか?」
「はい、私、こういうの好きで」と彼女はそのキーホルダーを私に見せながら言った。
「本当ですか、僕も好きなんです」と僕は答えた。僕は彼女に惹かれ、何か話しかけたいと思った。今思うと単純だったかなって感じる。
「あなたはどこから来たの?」彼女は僕に尋ねた。
「京都から来たんだ。君は?」僕は聞き返した。
「私は東京から来たの。友達と一緒に旅行でね。でも、魚に見惚れていると友達とはぐれちゃって…。」彼女は笑顔で言った。
「僕も一緒だよ…。友達と旅行にきてはぐれてしまった。」僕も笑顔で言った。
「友達が見つかるまで一緒に回らない?」と彼女は言った。
本当は僕が言うつもりだったが、先に言われてしまった。本当のことを言うと言われると思ってなかった。
それから、僕たちは水族館の中を一緒に歩き、たくさんの魚たちを見た。
僕たちは、魚たちの美しさに酔いしれ、二人の距離が縮まっていった。
後に、僕たちは出会いが運命的だったのかもしれないと感じた。
別れる際に、連絡先を交換した。
あまり女性の人と話したことがなかったから、死にそうなぐらい心臓が鳴っていた。
勇気を振り絞って「連絡先交換しない?」と言えた。
彼女はすぐに「はい。いいですよ!」と答えてくれたので凄く助かった。
何回も連絡を重ねるうちに趣味などが合うことから僕と彼女は付き合うことになった。
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そして、待ち合わせの日がやってきた。
僕は初めて出会った思い出の場所で彼女を待っていた。
だが、待ち続けても彼女は現れなかった。
その後、数日にわたって連絡を試みるも返信がなく、不安は募るばかりだった。
「なぜ連絡がないんだろう…まさか忘れてしまったのか…」
そんなはずはない。なぜなら、会うことを一番楽しみにしていたのは彼女なのだ。
そして、彼女の家族から一本の電話が僕にかかってきた。
彼女は余命宣告を受けていること、もう長くはないということを告げられた。
僕は呆然としながらも彼女に会いに行くことを決めた。
気づかなかった。気づけなかった。
「なぜ言ってくれなかったんだ…。そのような座ぶりはなかったはずなのに…。」
悔しい気持ちを押し殺し、彼女の家族に案内されて、彼女の病室に入った。
彼女の病室に入った瞬間、僕は目にしたものに言葉を失った。
彼女は、笑顔で僕を迎えてくれた。
だが、彼女の体は以前とは違っていたのだ。
病気によって変わり果てていた。
彼女の体はひどくやせ衰え、顔には深いしわが刻まれていた。
彼女の髪は以前のような美しい黒髪ではなく、所々抜け落ちていた。彼女の目は深刻で、失われた何かを探すかのように見えた。
彼女は僕の手を握りしめ、自分が余命宣告を受けていることをあらためて告げた。
僕はその時、初めて彼女から病気であることを知ることができた。
彼女は笑いながら、自分が病気であることを隠していた理由を話してくれた。
彼女は僕に心配をかけたくなかったのだ。
僕は涙が止まらなかった。
彼女の手を握りしめ、彼女の話を聞きながら、自分が何もしてあげられなかったことを後悔した。
そして、彼女は最後に、自分が幸せだったということ、そして、私に対する感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう、私は幸せだったわ」と彼女は微笑んで言った。
僕はその言葉を聞いて、胸の奥から暖かなものが湧き上がるのを感じた。
「でも、ごめんね。こんな形で別れなくちゃいけなくて。」
彼女の表情が少し曇った。僕は彼女の手を握りしめ、力を込めて言った。
「いいえ、謝る必要はないよ。僕たちは一緒に過ごした時間が本当に素晴らしかったから…。そして、君と出会えたことが僕の人生で一番の幸運だったと思う。」
彼女は僕の言葉を聞いて、再び微笑んだ。
「ありがとう…、あなたと一緒に過ごした時間も私にとってもとても大切なものだったわ。そして、あなたが私のそばにいてくれたおかげで、本当に幸せな人生を送ることができたと思っているの。」
彼女の言葉に僕は感動し、涙がこぼれ落ちた。彼女は僕に寄り添って、僕の肩を優しく抱いてこう言った。
「本当にありがとう、あなたと出会えて本当に良かったわ。」
彼女の言葉に、僕は改めて彼女が自分の人生を全うしたいという強い決意を感じた。
そこで僕は彼女にプロポーズする事を決めた。
(もうすぐ亡くなる彼女に可哀想と思わないのか、違うのだ。)
今ここでするべきだと感じたから。
溢れた涙を拭き僕はこの言葉を送った。
「僕と結婚してくれませんか」
彼女は子供みたいに涙を流し、喜びながら、「はい」といい、しばらくしてこの世を去っていった。
僕はそのまま、彼女の手を握りしめたまま、ずっと…、ずっと泣き続けた。涙が止まらなかった。
今までの思い出が走馬灯のように膨れ上がっていった。
その後、彼女の家族から手紙を渡された。
手紙には僕と初めて出会った時の思い出や彼女の最後の言葉が書かれていた。
「水族館で初めて会ったあの日。私は一生忘れないでしょう。同じ好きなものを見て、買い、連絡先も交換しましたね。まさか出会いがクマノミの水槽の前だなんて、少し笑っちゃいます。偶然ぶつかった時、男の人ですごく怖かったけど、あなたは優しくしてくれました。一緒に回らない?と言った時心の中では心臓が爆発するかと思うぐらいでしたよ。あなたも連絡先を聞く時、声が震えていて面白かったです。でも、改めて運命の人は本当にいるんだと感じましたね。ありがとう、そして、ごめんなさい。先に旅立つ私を許してください。私はいつまでもあなたを愛していますから。」
まだまだ書かれている手紙。読めば読むほど文字が見えなくなる。拭いても拭いても涙が止まらなかった。
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