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神々の無責任な後始末  作者: compo
99/147

金山を作ろう

「きーなーこー。」

きな粉餅とわらび餅を食べた王子はきな粉を連呼しながらアリスさんに引き摺られて去っていきました。

今回はあくまでも挨拶ということで、今後の詰めはあちらのお役人がくるそうです。

「きーなーこー。」

そりゃそうだわな。

親善大使だけでなく、王族が他国に留学するなんて事、

まだお子様な王子様と、その護衛騎士が勝手に決めていいもんじゃない。

「きーなーこー。」

まだ外から王子様の声が聞こえてますが、我が家にカピタンさんが残っているのですよ。


「王子はアリス嬢が送迎馬車に放り込んでいく予定ですから、放置していいかと。」

私がいうのもなんですが、随分とおざなりな対応ですね。

「BBQに全面降伏した我らが言えた義理ではないのですが、この家に来ると正気を失う事項が多すぎます。ましてや大した人生経験の無い少年には刺激が強すぎます。」


我が家は18禁か何かですか?


とりあえずきな粉の作り方をマリンさんと厨房班に流しておくので、あとは勝手に森の産業にするなり、煮て食うなり焼いて食うなり好きにして下さい。

「そこです閣下。」

談話室のソファに腰掛けていたカピタンさんが、ぬぼうっと身体を起こしてきました。

どこですか?


「産業化して貿易の種とするにも時間がかかります。しかも私達の商売相手はキクスイのみ。不幸中の幸い鬼と地震に襲われて青息吐息の状態でしたから、ここまではお互いを補完することで上手く回して来れてます。が、

「私達には金がありません。元々は金は帝都から、物品はコレットからほぼ際限なく供給されてきましたが、単純に金銭の残高が残り少なくなってきました。また、兵の主食となる米や麦の備蓄も心許無くなってきました。

「閣下が新しく始めた開墾や農業は、目を疑うレベルで順調に結果を出していますが、1万人を越える人員を食わせるには足りません。また、まもなく森の外に家族を迎えに行った者の第一陣が帰隊予定です。つまり人が更に増えます。閣下はそこら辺はどの様な計画を立てていらっしゃるのでしょうか?」


うん。さすがはカピタンさんだ。

出来れば文官のイリスさんに資料と共に申し出て欲しかったけど、あの人何故か姫さんを怖がっているんだよな。


「そろそろだとは思っていました。ので、正確な食糧備蓄と人員に対してどのくらい保つか。キクスイとの貿易量をまとめて提出しといてください。単純に食いっぱぐれないだけならば簡単なので計画はあります。だって、今まで食べて来れたのですから、食糧はあるんですよ。このまわりには。」

「はあ。」

「ぶっちゃけちまえばきんです。金が有れば商人は売るでしょう。今まで軍に卸していた商人は大規模な取引先を失って顔色変えてるでしょ。金が有れば商人は売ります。その取引きのやり方なんかいくらでもあります。何しろ私達は空を飛べるんですから。」

「しかし、その金がですね。」

「掘りましょ。」

「へ?」

「森の中に金鉱脈を既に見つけてあります。そこから掘り出す間くらいは金が足りるでしょ。なんなら、商人達に渡りをつけて投資してもらうも良し。投資して貰った金で食糧を買うも良し。ま、そこまでの展開はせずとも帝国及びキクスイ両国の商人は、この森を粗末には扱えなくなりますよ。ただでさえ幾つかの両国にはない特産品をキクスイには流してあります。二度に渡るコレットの攻勢を一方的に撃退もしてます。

「私達はこの森の中で何が始まっているか、理屈はともかく実践と実績で知っています。キクスイの商人と王族も山の向こうで何かが始まっている事を知っています。帝国側がどこまで認識しているかは不明ですが、敵対しないものには恩恵があると分かれば、敵対する者も減ってくるでしょう。その為には森が力をつける事。金であり産業であり、そして人です。森の中の者は高度に教育されており、森の外には無い新しい事が始まっている。そう思わせる事です。」

「しかし、閣下がこの森に滞在されて姫閣下を家族とされている今は結構ですが、次世代の事まで考える余裕は全くありませんね。」

その為に、(単なる偶然ですが)森の精霊やメサイヤが力を貸してくれ続ける準備がいるんです。


イマイチ要領を得なかったカピタンさんは首を傾げながら帰って行きました。

鉱山経験のある兵を集めて欲しいという要望を持ち帰ってもらいました。


「我が国のこの辺りには鉱山がなかったから、ご希望に添える人員が集まるか保証は出来ませんよ。」

「ならば、キクスイから集ってはいかがですか?」

「たしかにキクスイは銅鉱山が現役で稼働しておりますから、経験者は雇えるでしょうけど、何しろ先立つものが…。」

「必要ならば私が出しますよ。」


何しろ使い道の無い無限の財力を創造神に押し付けられてますから。


「いや、さすがにそれは…。」

「私の家族の、姫さんの生きていく環境を整える為ですけど。」

「…閣下はズルいですぞ。姫閣下を出されては我らは断れないではないですか。」

「必要だったら幾らでもズルくも卑怯にもなりますよ。卑劣にはなりたくありませんけどね。」

「なんだかわかりませんが、わかりました。改めて閣下に喧嘩を売る事だけは控えようと。」

とりあえず、住民簿を調べて兵の経歴を調べましょう。こんな風に役に立つとはねぇ。

と、ぶつぶつ言いながら、カピタンさんは帰って行った訳です。


で、なんで姫さんはそこで真っ赤になって立ち竦んでいるんですか?

「あんな風に私を大切にしてくれると告白されて、お慕いしている殿方、ましてや旦那様に言われておかしくならない女はいません。」

落語の変わり目かよ。


またまた家族全員で馬くんの引くチャリオットに乗って出発です。

チャリオットだったな、これ。

ごちゃごちゃ生活しててすっかり忘れてた。

目的は金鉱脈の露頭の整備。

具体的には私達がキクスイから山越えをしてきた旧街道のそば。

要はキクスイ側が廃坑にした金山付近の帝国側。この世界の能力では掘りきれない、そして探知し切れなかった金鉱脈をごっそり掘っちまおうという悪巧みです。


今日の馭者席のお供はツリーさん。

上気した姫さんがぶーたれましたが、森の大規模開発なので環境アセスメントを測ってもらう為です。

何しろ馬車鉄道の既設線路から分離して、新しい線路を敷くからね。

後、森のメイン動力たる水力と風力を鉱山掘削に出来る限り利用したいので。

山が崩れたり、流れ出した土砂が森に影響を与えない様に色々、いろいろ実際に担当する人達に理解してもらう事が多いから。

私が万能さんで片付けるのは簡単。それこそ金山からインゴットとして抽出すれば5秒で終わるもん。

金山開発を事業とする事。

その為には、私だけじゃなくて森の精霊やメサイヤの協力が必要。

それだけの事です。

…拗ねた姫さんが竹刀で私の脇腹をずっと突いてくるんだけど。


はい、到着しました。

キクスイへの旧道から逸れる事せいぜい徒歩10分。とりあえず旧道に線路を敷いておいたので、馬車鉄道で1時間もあれば来れます。

丁度いい通勤時間かな。


「ここですか?」

あ、そうか。姫さんにはわからないのか。

「この辺は木が生えていない岩壁になっていますね。この崖のうち、ほら。」

私が指差した所に露出した地層が見えます。

何本か斜めに走る地層のうち、一つが少し黒ずんで見えます。

「あれが金鉱脈の露頭です。あれを掘って精製すれば金が産出出来るわけです。」

「ちょっと高い所にありますわね。」

「ここは見ての通り岩場ですから、掘っていけば足場になりますよ。」


「それにしても、あの金鉱脈ってキクスイの廃坑と繋がっている訳でしょ。トールさんだから気がついたとは言え、結構埋蔵量多くない?」

万能さんにも確認をとりましたけどね、この山脈はかなり古くに活動停止した火山帯ですね。ここからかなり南のキクスイ側には銅鉱山があると、アリスさんが言ってました。金銀銅鉱山の塊ですよ、ここ。

「それはそれは勿体無くない?」

勿体無いから全部頂いちまおうって言うのが、今回の悪巧みです。

「おやおや、お主も悪よのうトール屋。」

「山吹色のお菓子はこれから掘るんだけどね。」

「「ウヒヒヒヒヒ」」

「ぶー。」

はい、ミズーリと遊んでたら姫さんが拗ねました。


「この間見たあの地底湖、あれはマグマ溜まりの跡ですね。あれだけ浅い所にマグマ溜まりが出来る程、当時この辺の火山活動が活発だったのでしょう。」

「(私達はその頃まだ存在してない)」

「そりゃあね。生物自体が存在していたかどうかもあやしい大昔です。」

「逆に言えば、希少鉱が出来る活動があった訳ね。ちょっとした理科だわ。」

地学に当たるかな?


「ぶーぶー。私だけわからないの。仲間はずれは嫌ですわ。」

これはね。私の国出来る誰でも学ぶ知識なんです。(ミズーリやツリーさんの知識はどこから来てるか知らないけど)

このくらいの教養は今後、少年少女達にはしっかりと学んでもらいます。

勿論、上に立つ者の義務として姫さんにもね。

「それは難しい事ですか?」

姫さんの年齢ならば、私の国では粗方の人が身につけている知識ですね。

「旦那様の国には敵わないにしても、私も勉強しなければならない。よーくわかりました。手取り足取り旦那様が教えて下さいまし。実践で。」

最後の三文字は余計です。


で、これからの作業ですが。

別に大層な事はしません。山の上にもう一機風車を作って地下水を汲み上げます。

汲み上げた水で露頭の脇に滝を作って、川をもう一本作ります。この川は土塁沿いに通してある本河(珍妙な造語は久しぶり)に流しますが、金精製する時に汚染する可能性がありますのでひと細工。今後出るであろう土砂でボタ山が出来ますが、そのボタ山を浄化装置に改造します。

あと、人が作業するんですから、作業場及び休憩施設を作ります。


「旦那様作りますって言ってもですね…。」

なにか?

「はい、なにか言うだけ無駄でしたね。」

「こんなん見てたらあのちっこい王子、また気絶よねえ。」

あれ?でも、アリスさんは割と耐性が出来てましたね。

「あの子はキクスイでアタシ達の洗礼を受けてるから。精神防御魔法かけた時も、王子を100とすると60くらいで済んでるもの。」

「アリスちゃんって凄いんですねえ、」

「うーん。キクスイで会った時は鬼に追われて泣きながら逃げてたから、アタシが倒して、さらにトールさんのカレーを食べてる。」

「なんか色々聞いちゃいけない単語が出て来ましたが、まあ。旦那様とミズーリ様だし。」

「なんかアタシをトールと一緒くたにされた!」

君達神様の後始末を私がしている事を忘れずに。


「で、また川を作って気候変動に影響ないの?」

元の日本じゃ利根川や荒川を人工掘削してますけど、特に気候変動は起きてないしなあ。

「(誤差)」

「ツリーさん曰く、問題無いそうだ。」

「(むしろ生物に住みやすい環境になってる)」

そうなの?

「(そうなのホラ)」

ツリーさんが指差した方には、えーと、メサイヤちゃん達が空飛んで何か加えてますね。

さっきから姿が見えないと思ったら、全員で何しに行ったのやら。


「キュララララ。」

リーダー(姫さんに一番懐いているメサイヤちゃんが姫さんにリーダーと指名されたそうだ。)が私の胸元に飛び込んできた。

私の顔を舐めながら、キュッキュッっと説明してくれました。

「なぁに?」

姫さんが手を広げると、私から姫さんに抱きつきました。

その間にツリーさんがピーピー笛を吹いてメサイヤちゃんを導きます。

笛なんかどこから出したんだろう。

メサイヤちゃんが運んで来たのは2本の木。

一本は、その茶色いイガイガの実でわかる。

栗ですね。

もう一本は、やはりその薄い緑とグレーの合いの子みたいな実でわかる。

梨の木。

枇杷や林檎や桃のほかに果実が取れるんだ。


梨は若干水分が少なめの 長十郎の亜種ってとこですね。

栗は、実際に割って見ればわかります。


ですか。

万能さんの指示に従って手持ちのナイフでイガをはいでみると、デカい実が一つだけ出て来ました。日本では何個かの実が丸く並んでいましたが、この世界の栗はイガの中に一個。直球勝負な栗でした。


「(この木ならあちこちにあるよ)」

だ、そうなので、地図を出して印を付けてもらいます。

とりあえずこの栗と梨は収穫して、旧街道に植え直します。

メサイヤちゃん達はツリーさんの指示に従って飛んで行きました。

旧街道の北側は栗、南側は梨の木を植え替えしていく計画に変えました。

なので、人二人が並んで歩くのが精一杯だった道を少し広げます。

ついでにLED街灯を並べときましょう。

金山掘削が始まれば、ここまでの道のりも人通りが増えるでしょうし。


さてさて、ツリーさんには地図を渡し全体的な計画の平面図を作ってもらいます。

ミズーリと姫さんは応急で作ったかまどでお昼ごはん。飯盒炊爨、というか鉄鍋炊爨と、とりあえず鉄板で調理してて貰います。

食材はミズーリが適当に万能さんから取り出します。…私専用の力だった気もしますが、アイツらのリクエストに気軽に応える万能さんってなんだろう。

梨と栗に関してはミズーリが

「任せなさーい」

だそうなので。任せます。

あれでも一応、嘘は言わない女神様なので。

「ミズーリ様大変です。このお釜、水入れる線が書いてませんわ。」

「この時が来たのよミク。妻は如何なる場合でも美味しくご飯を炊けなければ旦那様に捨てられてしまう。妻力が試される時よ。」

「嫌です嫌です。美味しくご飯を炊きますから旦那様に捨てられたくありません。」

「うむ。大丈夫。基本は全部一緒だから。」

「ミズーリ師匠!ご教授をお願いします!」

……大丈夫だよな?なんだ妻力って。


私は山に登ります。ピョーンて。一回ジャンプしたら頂上でした。ピョーン。

ツリーさんも丸めた地図を背負って一緒にピョーン。

あのツリーさん?なんで鉢巻に鉛筆まで挿してるの?

「(久しぶりの活躍場面だから 気合い入れてみた)」

んー。ちっちゃなバカボンパパに見えてくるんですけど?

「(これでいいのだ)」

藤子先生、手塚先生に続き赤塚先生まで我が書棚が攻めてきたのか。

「(だから早く本棚広げて)」

ポメラニアンに寄りかかって赤塚漫画を読む森の精霊ってなんなんだろう。


地図を睨んだツリーさんの指示で新規の風車を作ります。では万能さん?


西向きでいいですか


お願いします。これでこの風車の周りには西向きの風が常に吹くので風車がまわります。

回転能力を使って地下水を汲み上げると、そのまんま岩壁に滝として流します。

ツリーさんが地図にマーキングすると、その線に沿って川が出来ちゃうわけです。


利根川を人力で掘削した江戸時代の人、ごめんなさい。


ツリーさんは森の環境管理をしているので、こういった大規模(?)な工事は任した方が安心なんです。

実際は、ツリーさんの指示を万能さんに伝えるだけですけどね。

ボタ山予定地の木々はそれぞれ森の各所に移動。どうせ栗や梨の木をメサイヤちゃん達がほじくり返しているから、そこに移植しちゃえるみたい。

川の位置が決まれば、作業棟に位置も決まります。作業棟の真ん中に川を通す様に。

これは金の精錬と共に、生活用水に使いやすい様に。

あとは精錬法だけど、アマルガム法だと環境破壊しやすいから溶鉱炉、といきたいけど恒久的なエネルギー供給と電解の為の電気がない。って事で灰吹法を採用します。

「(大丈夫なの?)」


なんとかします

秘密の方法って事で

文書として残して この世界の住人が理解出来るようになったら

秘密も解脱って事にしときます


酷えインチキもいいとこですけどしゃあない。キクスイはアマルガム法使ってたみたいで、魚が絶滅してたし。


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