大豆とお餅
「大豆。」
「大豆。」
「ですわね。」
「(ね)」
この大豆は開墾畑の収穫第一号として、記念に開墾を担当した兵隊さんが朝早く届けてくれました。
いや、収穫早くね?だって此間軍に引き渡したばかりですよ。
「トールさんが絡むとこうなるのよね。」
いや、そう断言されましてもね。
「そう言えば椎茸だって大豊作で、既に兵の食卓に普通に登っていますわ。マリンさんが椎茸のレシピを聞きに来たので、昨日レシピ本を何ページか模写させてあげました。」
豊作とは聞いていたけど。そうなると最早産業だね。
「この森の中はトールさんの支配が行き届いているので、こうもなります。それに森の精霊やメサイヤ達も一緒になって力を貸していますから、非常識な農業になってても何一つおかしくないわよ。」
おかしいですわよ。私は別にこうしろとか、こうなったらいいなとかも考えてません。
森に暮らす人々の生活を考えていただけです。
考えるのやめた。
まだ朝ごはん食べてないし、この大豆を使って何かしよう。
「大豆って煎って頂く以外に何が出来ますの?」
あゝ、この世界には発酵という考え方がないんだっけ。
色々出来ますよ。お醤油・お味噌・納豆・お豆腐。
「ななななななななななななななななななななななななななななな…」
また姫さんが壊れたかな?
「なんですとー!」
なんですか、また変な言葉を覚えちゃいましたね。
「アタシじゃないわよ。」
ミズーリさん分かってます。
うちの姫さんが漫画に影響受けまくりな残念姫な事はよく知ってます。
「残念姫とはなんですか!残念姫とは!」
自覚ありませんか?
「…ありますです。はい。どうしましょうミズーリ様。私いつの間に残念な人になっていたのでしょう。」
「ミクが読む本は今日から検閲するからね。」
「うーん。それはそれで簡単にお返事しかねますわ。」
「…残念姫…」
「うわあああああああああ!」
なんでも良いけど、姫さんは何に驚いたのかが気になるんですけど?
「それです、それ。大豆ってなんなんですか?しかも旦那様が大好きな食べ物ばかりに化けるって、聞いた事ありません!」
ないんだ。
この世界では大豆自体あまり食用にしてません
なるほど。では大豆から様々な食品が作れる事を厨房班に教えてあげましょう。
あと、私の好物というよりは、私が日本人だったから食生活の一部だっただけですが。
さて、朝だし。たまには気分を変えますか。
姫さん。今日はこのお米を炊いて下さい。
「このお米はいつものと違うんですか?」
違います。餅米と言います。吸水性が高いので素早く研いで下さいね。
「お餅?朝からお餅?いいけど。」
ミズーリさんは大豆を煎って下さい。終わったらミルで挽いて粉末にして下さい。
「ミルは確かにアタシが管理してるけど、炒り大豆を粉にするのね。」
「(私は?)」
片栗粉と砂糖を水で解いて掻き回して下さい。固まってきますから、そうしたら氷水につけて下さい。
「(分かった)」
「トールさんが何作ってんのか分かったわ。」
「私は分かりません。」
この国には多分無いしね。
私は黒砂糖を鍋にかけて弱火で掻き回しながらじっくりと煮詰めます。
「旦那様炊けましたよ。」
そしたら別のボタンを押して、炊飯器を餅つき器に切り替えます。
ぐわんぐわん。
音が変わったら姫さんはチビを抱えて逃げました。
「なんなんですの?なんですかの?」
我が家で杵付きすると絶対にめちゃくちゃになりますからね。姫さん1人が驚くだけで済む餅つき器で正解でした。
取り出したお餅は一口大に切っておきます。
ミズーリがミルから取り出したものは勿論きな粉。
そのままのものと、砂糖塗しの二種類を準備します。
ツリーさんが作っていたのはわらび餅。
これにはきな粉を塗して、私が作っていた黒蜜で味付け。
お餅の方はお好きなきな粉でどうぞ。
お茶をわざと薄く入れたら、わらび餅・きな粉餅のセットの出来上がり。
「わらび餅って不思議な食感ね。これお餅?」
本来ならわらび粉で作るんですけどね。私の知識不足なので片栗粉から作りました。
和菓子なので餅扱いみたいですよ。
「きな粉餅美味しーい♪きな粉っ餅きな粉餅♪」
なんか姫さんはご機嫌です。
あ、こらチビにあげちゃいけません。
「どうしてですか?」
喉に詰まったらどうするの。
チビにはこちらをあげます。
余ったお餅を油で揚げて、ほんの少し醤油で味付け。簡単おかきの完成。
ちょっと熱いから冷まして食べなさい。
ワン(あの、ミクに取られそうなんだけど)
「なんなんですかなんなんですかそれ。美味しそうです。」
かき餅ですよ。私の国では昔からあるお菓子です。
「あの。旦那様。」
正座されてもですね。ってミズーリとツリーさんまで正座ですか。
「あれ、食べたいの…」
これまた綺麗な土下座三人娘が朝から私の前に広がるのでした。
そして、こんな時に限って。
「姫さま?閣下?ご在宅ですか?」
はい、カピタンさんの抜き打ち査察です。
「あの。王子達が挨拶に参りました。」
どうしようかな。
「あの閣下?何故みんな土下座してるんですか?」
ありゃ。増えてる増えてる。
カピタンさんと王子とアリス嬢を面談室ではなく母屋の方に案内したのですが。
何故かうちの三人娘のみならず、メサイヤちゃん達も鳥の様な姿で器用に土下座してます。
なんで?
「みんなおかきが食べたいそうです。」
そうですってミズーリさん?なんでメサイヤがおかきを食べたいんですか?
「(メサイヤは雑食性)」
たしかにサリーさんはなんでも食べてましたが。
「あの、ししょー?」
何ですか?王子様?弟子にした覚えはありませんけど?
「いや、こんな事でまた気を失っていてはこの国では暮らしていけない!」
うむ。それはたしかに。頑張れ少年。
「実はですね。」
アリス嬢が代わりに話を始めました。
なお、まだみんな土下座したままです。
ふかふか絨毯なので痛くないみたい。
「新しく学校ができると聞きまして、ならば親善大使だけでなく正式に留学生として赴任しよう、と話が纏まりまして。一度国に戻ろうと。」
「なりません!」
「えっあの、姫さま?」
「アリスさん!貴女は旦那様の側女として選ばれた方。帝国皇女たる私が勝手に女としてのライバルと決めた方です。」
「勝手に決めないでください!」
「勝手に決めますわよ。だって私皇女ですから。」
「いや、私の意志は…」
「貴女、国にお付き合いされている殿方でもいらっしゃるのですか?」
「生憎独り身ですが。」
「だったらその清潔感から溢れ出る仄かな色気はなんなんですか!騎士としての凛々しさに隠れる女性らしい柔らかさはなんなんですか?ズルいです。私に持って無いものを全部持っています!」
「あの殿下、閣下助けて」
こうなるとうちの姫さん止まんないもん。
「そんなあ。」
私がカピタンさんに合図を送り、カピタンさんが王子に耳打ちします。
ヒントを受けて王子が取りなしに入りました。
「あゝまぁアリス。僕も引き続きアリスには付いていて貰いたいが、それ以上にミク姫がお前を気に入った様だ。勿論帰国の護衛は頼むが、その後のは事は自分で決めると良い。師匠を憎からず想っているならそれも良し。」
こらクソ坊主、余計なアドリブ飛ばすな。
ウインクしてドヤ顔すんな。
アリス嬢は正座したまま足元に擦り寄ってきた姫さんを情け無い顔で見たあと、
「分かりました。どういう事になるのか自分でも分かりかねますが、また絶対に王子と共に帰ってまいります。」
「きゃー!」
顔中パアッと明るくした姫さんがアリス嬢に抱きつきました。
そのまんま押し倒します。
「ピャーッ」
ついでにメサイヤちゃん達が姫さんとアリス嬢に飛びつきました。
この娘達、絶対悪ノリしてるな。
「あ、あの。殿下、閣下。たすけ、て。」
うん無理。姫さまさんとメサイヤちゃんにもみくちゃにされてるとこには関わりたく無いもん。
「いつもながら賑やかな家ですな。」
「あの、カピタン将軍。それで済ませて良いんですか?」
「閣下達のする事に呆れていては何も始まりませんからな。」
そりゃねぇ。だって私の足元には同じくにじり寄って来ていた女神と精霊が構ってくれと
私の足首を甘噛みしてるんですから。
「トールさん。少しは構って。おかきの食べたいの。」
久しぶりのは欠食女神参上。でツリーさんは?
「(なんとなく悪ノリで?)」
我が家の家族は、神様だろうと幻の存在だろうと悪ノリが好き過ぎます。




