今日もどこかでデビルな所業
部屋で宿の簡単な夕食を取り(晩御飯はトールが作ってよ、作って下さい、お願いしますとポンコツ幼女が土下座しながら駄々を捏ねた)、昨日作ったランタンさんに部屋の灯りを調整を頼み、来客を寝たふりしながら待っている。と
「お客さん寝てますか?……寝てますね。!」
見当違いだったのは宿の食事に毒が盛られていた事。
うちのポンコツ女神は一目見て毒の存在に気がついて、私のご飯をねだって来た訳だ。
もっとも女神とそのなんたら(私)には効く訳もなく。一番最初に無断侵入して来た宿の親父をひとまずぶん殴ったら、窓から落ちて行った。私の腕力も底上げされたと見える。
それを合図に黒づくめの男達が乱入、無言で一斉に刃物片手に飛びかかって来た。
瞬時に隣を見るとミズーリを袋詰めにしようとして居る男も数人。
「ミズーリ!」
「やっぱりトールのご飯じゃないと駄目。美味しくないもん。」
いつまでブー垂れてんですか。
「問題無さそうですか。」
ならばとりあえず右手で宙を斬る。
「!」
いつものように男達の左足首が左足と生き別れになり、全員足を押さえながら床でのたうち回る。
無言で。気持ち悪い。
大量出血で賊の目の光が無くなって行くのを確認してミズーリのそばに行こうとしたが
ミズーリを袋詰めしようとして居た男達の様子がおかしい。
「天界裁判の拘束魔法を流用してみたの。やっぱり現世の人にはきつかったみたい。精神が壊れちゃった。」
ああうん。本来こう言う仕事する女神でしたね。
部屋に広がった血の海をミズーリに片付けて貰う。
これで3回目だし、血の出ない方法少しは考えてよね。と叱られた。
あと、この死体と狂者の山だけど。万能さんに念じたら引き取ってくれた。
子供誘拐組織がこの街にはあるらしく、そのアジトに全部お返ししてくるそうだ。
お返しですか。そういう事ですか。
万能さんにはもう頭が上がらないな。とつぶやくとすぐさまミズーリが反応した。
「私にしか出来ない事は必ずあるから。万能さんにばかり頼らないで下さい。」
私に土下座しながら万能さんに嫉妬し始めるうちのポンコツ女神様。
安くなったな女神様の土下座。
ミズーリ、だいたい貴方まで万能「さん」呼ばわりし始めている段階で何か変だと思いませんか?
何はともあれ、窓を直し部屋を綺麗にして戸締りを確認したら、そのまま大人しく寝る事にする。
今晩もミズーリが同じベッドに潜り込んで来たけどほっとく事にしよう。
転生させられて、二晩続けて大量殺戮してる私はなんなんだろうと悩む心に安寧をもたらしてくれると気がついたから。これは女神様のご加護ですね。
宿屋の親父は会計まで見かけなかった。
因みに会計は私が支払った。ミズーリが言うには最初の最初、あの光に触れる事で少なくともこの世界で一生食べるに困らない金額を得る事が出来たそうだ。
私はさらに万能さん持ちなので、ステータスで言うなら所持金♾なんだそうだ。
で、この世界でそんな金有って何買うのと疑問に思い女神に問うてみる。
「女神の私に聞かないでよ。私の物欲はトールが作るご飯だけなんだから。」
焼肉定食とバケットサンド2食で女神1匹餌付けしてしまった。というか君、天界に戻らなくていいのか?
あと幼女が性欲とか言い出さなくてホッとした。
まだ二日目であるが、長年続けているが如く今日も息のあった馬鹿をやっている。
勿論このままで済むとは思っていない。いやいなかった。
もう少し穏便に済ませる筈だったのだ、ポンコツ女神が本領発揮してくれるまでは。
まぁ、大人しく街から出られるとは思ってなかったけどね。
街の出口で衛兵に捕まったのだ。
3人並ぶ衛兵の後ろには宿屋の親父がいる。
「少々お待ち下さい。」
無言で通過しようとする私達を衛兵達がブロックする。
「何か?」
「この方から貴方に対して被害届が出ています。少しお話しをお伺いさせていただきます。」
「お話しね。それは客の食事に毒を盛った事か、客の部屋に不法侵入した事か、連れを誘拐し私を殺そうとした賊を引き込んだ事か?」
嫌がらせにスラスラ並べると衛兵達の目付きが鋭く変わった。実にわかりやすい。
「いえ、この方を2階から突き落とし大怪我をさせた傷害容疑です。」
親父を見ると杖をついて私を睨み付けている。あれさっき杖ついてたっけ?
「ミズーリ?」
「確かに脚の骨も折れてるわね。」
衛兵と親父が具体的な骨折箇所を並べていくミズーリの説明にざわめく。
右鎖骨、左大腿骨、右奥歯、左肋骨2番3番
「なら治しちゃえば問題無いわね。」
それだけ言うとミズーリは親父を指差す。
「?」
親父の様子が明らかに変わったが、ミズーリの様子は一切変わらないのを見て軽く溜息をついた。ああやばい方の女神様モードだ。
「おっさん。あんたもう治ってる。自分でもわかるだろ。あんたの持病だったリウマチも一緒に治しといた。」
幼女な女神様の口調がヤンキーなんですが。
「あと昨日の賊は全員処分しておいた。言ってる意味は分かるな?」
親父と衛兵達の顔色が変わる。
「お、お前ら、お前ら」
最初に声をかけて来た衛兵が得体の知れない存在の私達を前にお前らしか言わなくなる。
「ミズーリ。全員じゃ無いな。」
背後の建物3軒目、なんの変哲もない民家を振り返りもせずに親指で示すと
一言、「はい」とだけ返事を返してくる。
と同時にわかりやすく精神崩壊した男が飛び出して来て、そのまま向かいの商店の壁に体当たりを繰り返す。動かなくなるまで。
「トール。」
「何だ?」
「昨日のアジトってどこ?座標を教えて。」
「君らの言う座標は、私達が使っていた緯度経度とは多分違うのだろう。わかりやすく夕べの処分品が今ある所でいいか?」
処分品は万能さんが返品したからね。
ちょっと驚いたのはこの街ではなかった事くらい。
「充分です。」
「おい、お前ら何言ってんだ
立ち直った衛兵が文句を言い切る前に遠くに見えた丘の裏から大爆発が起こる。しばらくして爆音が私達の元まで届いた。
「あーあ。」
核とか使ってないだろうな、ポンコツ女神。
全員が腰を抜かした様で尻餅をついている。
「とりあえず誘拐組織は壊滅させました。生体反応は58人分有りましたが、アジトにしていた石造りの古城ごと全てカケラにしました。誘拐された人は居ませんでした。場所さえわかれば感情と罪状を読み取る事が出来ますから。」
淡々と業務報告をしてくれるうちの女神様。
「また元同僚の仕事を増やして。」
途端にふふんと腰に手を当ててドヤ顔し始める幼女女神に反省の色無し。いや、私が言えた義理ではないけど、何ですかこの大量殺戮コンビ。
「で、全滅ではなく壊滅とは?」
あれだけやって手加減する意味は無かろう。
「組織に直接所属していないけれど、協力者はいるから。そっちはそっちで別の処理するという意味よ。」
ようやく目の前の二人が何か異質なものと理解できた衛兵達が尻餅のまま、私達を見て化け物とつぶやく。
いえ、化け物ではなくですね。これでも女神様御一行なんですが。
全員慌てて這い逃げるがもう遅い。ミズーリが指を鳴らすと、処理該当者全員の精神が崩壊した。
ちょっと想定外だったのは、ここの街の住人の9割が対象者だった事だ。
ぷりぷりしながら街を出る女神の後を、やれやれとついていく。勿論全部放置して。
…親父を治す意味はあったのだろうか。
「嫌がらせに決まってるじゃない。」
そうでしょうね。