竹刀を作ろう
「姫さんさ、この基地の少年兵ってどのくらい居るのかな。」
「カピタンさんに確認をしないといけませんけど、200人くらいだと思いましたわ。」
「帝国軍が少年兵を雇い入れる理由は何かな?」
「大体は貧民の志願兵と聞いています。帝国人民は身分差が激しい分、格差もありますから。」
「彼らの教育、識字率はどのくらいになるのかな?」
「大人の徴兵と違ってまだ幼年学校にいる年齢ですし、簡単な文字が読めるくらいかなぁ。」
宜しい。鍛えがいありそうだ。
「旦那様?何を始めるんですか?」
「森の底上げ!」
「はあ?」
私はまた1人、馬くんに跨り陽が傾き出した森の中を走っています。行き先は竹林。
別に万能さんから「そのもの」を取り寄せれは済む事だけど、ちょっと1人で考え事もあったし。
まもなく到着しますぜご主人
ありがとう。早かったね
姫奥様と遊ぶのは楽しいですが それでもあっしの主人はご主人だけですからね
気合いの入り方が違うでさぁ
ですか。
おや、もう夕方が近いのに筍が顔出してる。
定期的に厨房班が採取に来ているそうだけど、さすが常春の国。
いくら採取しても減らないな。
今度メンマの作り方を教えてあげようかな。
それでですね。私が1人この竹林を訪れた理由ですが。ズバリ竹の採取です。
筍も採取して帰りますけど。
竹刀を作ろうかなと。
勿論、万能さんから出せば済む事ですけど、この世界で作った竹刀との品質の差を見極めようかなと。
今後、この世界に竹刀を文化として残す事になった時の安全性を図りに来た訳です。
「この辺かなぁ。」
人の足首を落とせる私なので、竹くらいなら糸鋸も使わずにチョップでスパッとカットします。
適当な長さと幅に切り揃えて出来た、4本の竹片を何となく太陽に捧げてみると。
はい、万能さんの力でみるみる乾燥して茶色くなりました。
これを鹿の皮で先端と柄を包み、そこら辺に落ちてる太めの枝を薄くカットして鍔にします。
色々テキトーですが、特製森の竹刀の完成です。
ではそこら辺の竹で試し打ちしてみましょう。
てぃ!
…試し「斬り」になってしまいました。なんで?
たしかに私の万能力チョップはなんでも切っちゃいますが、何?間になんか挟んでも有効なわけ?
そっか。宮本なんとかが聖剣なんとかカリバーを振り回しているもんなのか。
参ったな。比較にならないや。
「(あなたは破天荒過ぎてお手本にならない)」
おや、誰かと思いきや初めまして。
森の精霊のお姉さんバージョンですね。今は、思わず切り倒しちゃった竹を片付けるのに忙しいんですが。
あゝ、このくらいの竹なら樹木と違って1ヶ月も有れば伸びますよ。
「(剪定や伐採は森には必要なものだからへーき。むしろ助かる。)」
成る程。
ツリーさんの丸っこい顔を引き伸ばすとこうなるんだ。美人さんだな。
「(ツリーもその気になればいつでもこうなれる。あの娘はあの姿が好きなだけ)」
まあ、精霊ですしね。
「(なのでマスターが求めればいつでもどこでもこうなれる。その時は宜しくね)」
…あなた達、感応共有してましたよね。
「(楽しみ)」
そうですか。
折角なので姫さん印のお稲荷さんと、その場で拵えた筍の土佐煮をご馳走様しました。
馬くんも欲しがったのですが、味がちょいと濃そうなので水煮に塩を少しだけ振った筍を美味い美味いとがっついてます、
で、肝心の比較ですが。
私と万能さんと精霊さんが私の脳内で会議をしてて、時々馬くんが口を挟んでくるという
脳みそが焼き切れそうな状況でしたが。
元日本の竹刀と比べて現世界の竹刀は、弾力性に富みささくれが少ない。
そのかわり、防具無しだとかなり痛い。
総合的判断で問題ない、と。まぁいいでしょ。
倒しちゃった竹(竹刀制作材料)と筍を回収して帰宅です。
馬くんと、のんびり無駄話しながら騎馬というのも楽しいですね。
「馬くんと乗馬デート!したかったですわ。」
「(土佐煮!)」
帰宅したら姫さんとツリーさんにめちゃめちゃ絡まれました。あとメサイヤちゃん達に襲われて顔中唾液まみれになりました。
一時間も離れてないのに。
夕方時、カピタンさんが定例報告に来ます。
今日は思うところがあって姫さんと同席します。…なんか姫さんの足元でメサイヤちゃんが欠伸して寛いでんですけど。
「この娘と一番仲良しになりました。」
半日で幻の霊獣と仲良しになるとはね、うちの姫さんも段々人間離れしてきました。
「…………。」
ほら、カピタンさんも大口開けっぱなしだよ。
「あの…。」
「いや、私も少し呆れてます。」
「ですか…。」
「はい。」
「はい?」
「姫さまは何処に向かい出したんですか?」
「最近、私の制御も効きません。」
「私は旦那様を見本として生きているだけですよ?」
「ですよね〜。」
だから何で私が責められるんですか?
カピタンさんは引越しの完了と、名簿(戸籍)を姫さんに渡しました。
牛は牧場に無事到着し、健康状態良好で草をはみ水を飲んでいるとの報告も。
ここら辺は軍内部の手続きなので、私は一歩引きます。
ここで私が昼にあった少年兵の話をしました。ここにいる限りは衣食住には困らないが決して裕福ではない事。
それは仕方がない。勤務年数の積み重ねで昇給して行く事は正しい。
ただし働く事で学べる時間が取れない事は、この国にとって不幸である。
国を、軍を支えて行くのは若い才能だという事。
「私の国では教育は義務でした。学びたい人は果てしなく学んでいけましたし、自身の能力に合わせた就寝時期・勤務先を選ぶ事が出来ました。」
姫さんとカピタンさんは、お茶を飲みながら静かに聞いています。
「この森が帝国に開かれた時、その時の一番戦力となるのは若い彼らにならないといけません。」
単純な戦争・戦闘ならば私1人で全帝国軍を「全滅」させられますけどね。
私の小声に姫さんとカピタンさんが身震いしてますが気にしない。
「つまり、です。若い彼らを学ばせたい。彼らの能力を伸ばしたい。だから、学校を作りましょう。」
現状の駐屯地は平和で軍事より産業に舵を取ろうとしている。つまり軍組織に余裕がある、暇がある。
姫さんもカピタンさんも基本的に賛成してくれました。
基本的にとは、私には強制する気は更々無いからです。彼らのやる気が有るのならば、私達は全面的に協力しますよ。
そして私が出したモノこそ、先程作った竹刀です。




