お祭り
お牛様ご一行の到着は予想よりも早かった。
カピタンさん達が路上で新官舎への割り振りをしている最中、まだ午前中に街道に侵入してきた。
窓から状況を見ていた姫さんが先頭に立って迎えたそうだ。(ここら辺は一応軍の最高司令官)
イリスさん以下は感動して姫さんに抱きつこうとして、カピタンさんにぶん殴られ、チビに噛まれ、馬くんに蹴飛ばされたらしい。
いつの間に出て行ったんだ馬くん。
そして何気に凄いな、うちの姫さんボディガード隊
因みに姫さんの口からは
「ミルク・生クリーム・カルビ・タン♪」
という呪文が絶えず流れていたそうだ。
何かもう、色々哀れなり。
折角なので私もお祭りに参加しよう。
窓から口笛を吹くと、鳩の大きさの白い鳥が集まってきた。
屋根に止らせて待機。
そう、我が家の下を通過する時、◯ート製薬するんです。
花火も良い(今の彼らなら心臓麻痺で死ぬ事はないでしょうし)けど、何しろまだ午前中。
あれ?メサイヤのちっこいのが何匹か飛んできた。
「(まだ雛ね。森のお祭り騒ぎを見に来たみたい)」
成る程、サリーさんはメサイヤ形態だと体長5メートルくらいだったけど、この子達は30センチってとこかな。
こいこい。ミルクをあげるうわっぷ。
「あーあー。トールさんメサイヤにたかられてるし。」
「(メサイヤに顔を舐め回されてる人間なんて初めて見た)」
「ちょっと!屋根の上やそこらの枝には、なんかありとあらゆる鳥が集まってきたわよ。明らかに猛禽類が混じってるけど、一緒に並んでこっち見てるし。」
頭と両肩にメサイヤが停まって少し重いです。
というか、まだ何匹か空を旋回中なんだけど。
「メサイヤと同盟を結んだんでしょ。彼女達は森の精霊と同じで意識を共有しているから
トールさんとこにどんどん来るんじゃない?」
わかったわかった。ほら、ミルク。
幾らでも出すから幾らでも飲みなさい。
鳥達も、肉だの木の実だの雑穀だのあげるよ。幾らでも食いやがれ。
「ちょっと下に行っている間に旦那様はどうしてこうなるのかしら。」
頼りになるボディガード(ポメラニアン)を抱えて帰ってきた姫さんに呆れられました。
◯ートせーやーくーは成功したんですよ。
羽根を広げると1メートルを超える猛禽類を先頭に、最後は体長10センチ程度の小鳥まで大きい順に街道を低空飛行して牛の隊列を追い越して行き、その姿をホバリングするメサイヤ達が見送るというちょっとした儀式が行われてイリスさん達は呆然としてましたが。
あと幻の霊獣が何匹もいましたから。
すっかり慣れたか、駐屯地の兵隊さん達はあっけらかんとしてましたけどね。
で、メサイヤさんは帰ろうとせずに私を囲んでいる訳で。
「旦那様の元にいる様になってから、幻ってちっとも幻じゃなくなっちゃうし。」
ほら、哺乳瓶でミルクをあげるメサイヤちゃんが可愛いですよ。
「うぅ!」
可愛いもの大好きな姫さんが敵う訳なく。
ふらふらと私の元に近づくと私から哺乳瓶を奪い取り
「きゃーきゃーきゃーきゃー。」
一匹のメサイヤちゃんがトコトコ姫さんに近づくだけで失神寸前。
メサイヤちゃんを抱っこすると、すっかり赤ちゃんに授乳するように哺乳瓶を咥えさせます。
「この子達どうしようかなぁ。」
「可愛いですわ可愛いですわ可愛いですわ。」
あゝ、姫さんがあっち行っちゃった。
「意思疎通は難しそうだなぁ。」
「えー!こんなに可愛いのに?サリーさんの時と同じく旦那様なら出来るでしょ?」
「言い方を間違えた。会話が難しいんだ。サリーさんはあそこまで育っても、人化は万能さんの手助けが必要だった。この子達はまだまだ幼過ぎる。メサイヤ同士がどの様にコミュニケーションを取っているのかわからないしね。」
「大体、何しに来たのかしら。」
「そこは問題だね。お祭り騒ぎを見に来たくらいにしか思ってなかったけど。」
「…飼うの?」
「ミズーリ。その言い方は不適切だ。私達からは彼女達の言葉はわからなくとも、彼女達からは私達の言葉を理解している可能性は非常に高い。というか、理解しているだろう。」
「クー」
「ほら。」
私の膝枕で丸まっているメサイヤちゃんが私の顔を見て答えた。
「あの、彼女達って仰いました?」
「あれ?姫さんはサリーさんから聞いてなかった?メサイヤは単性生殖で雌しかいないよ。生命力の強さは男女のうち女性が圧倒的に強いから。」
「つまりまた旦那様のお嫁さんが増えたと。」
違います。
とりあえずメサイヤちゃん(計7人?7羽?7頭?)が帰る気を見せないので、彼女達の部屋を増築します。
と言ってもどこまでどうしたら良いのやら。
「(普段は岩場で適当に暮らしてるから、どう作っても問題ない)」
何ですかそのハゲワシとかコンドルみたいなイメージは。サリーさんの感じからするともっと社会性があると思ってました。
「(あるんじゃない?生活空間がバラバラなだけで)」
森の精霊さん達みたいなものですか。
「(そうそう)」
んでわ。
8畳くらいの部屋を増築すると、猫用入り口みたいな簡易な扉を付けます。
…そういえば馬くんの厩舎は寝藁と飲食セットをつけて簡単な閂をつけただけの馬房だけど、どうやって外行ったんだ?
ご主人の愛馬だから何でもアリだぜい
そうですか。私の思考を読み取らないで下さい。
メサイヤちゃん達は寝藁と布団どっちが良いかな?
並べて試してみたら、全員が全員布団を選んだので部屋の半分に布団とクッションを敷き詰めます。
みんな大喜びで布団に突進していきました。
あと、姫さんとチビも。
クーきゃークーきゃーうるさいです。
「これ、どうなんの?」
さぁ?
後日談。
街道開通後、我が家は基本的に空に浮かべたまんまなんですが。
この離れにはメサイヤのみならず、森の精霊が出入りするようになりました。
「何だこりゃ?」
帰って来たサリーさんに呆れられました。




