同盟
牛肉の切り落としとテール。玉葱、じゃがいも、人参、ニンニク、トマトは大きめにカット。
忘れちゃいけないビーツは、前世の市販品缶詰を使います。
深い鍋にオリーブオイルとバターで牛肉を炒めます。肉に火がよく通ったら、野菜を加えてスープの素で弱火でじっくりと煮込みます。
塩胡椒で味を整えて、香草とサワークリームを乗せてボルシチの完成。
石窯で卵を封じ込めたピロシキを焼いて、マヨネーズたっぷりのポテトサラダを、じゃがいものマッシュから娘達が大騒ぎしながらも、なんとか出来上がり。
サリーさん歓迎の宴、ロシア料理セットで今晩は行っちゃいます。
何故ロシア⁇ メサイヤの故郷が遙か北方って聞いたから。
おちゃけはウォッカ!のオレンジジュース割。呑んだことないからなるべく薄めて恐る恐るです。
ツリーさんはいつもの大吟醸。
因みにミズーリは禁酒な。姫さんと一緒に麦茶を飲みなさい。
「えー!」
えーじゃない!では皆様。
「いただきまーす。」
「なぁ、我が主よ。」
何かな?ピロシキのカスを口元に付けてもしゃもしゃ食べてる伝説の霊獣さん?
「本来なら、儂も精霊も食べ物を摂る習慣は無い筈なんじゃが。」
どんどん口調がお婆さんになっていきますね。
「そりゃ儂はメサイヤの中では小娘じゃが、500年も無駄に生きとるからのう。」
そうですか。
「それにこの口調がなんだか面白くなってきおった。キャラが立って良いじゃろう。」
うちの家族はキャラが立ちすぎなんですけどね。
「そこじゃよ。森の精霊が自分達より何倍も大きな人間相手に鍋のつつき合いしとるが、アレはなんじゃ?普通ならあり得んぞ。」
だからウチは普通じゃ無いんですよ。
貴女も早く食べないと無くなりますよ。
「そうですわよ。旦那様の料理は皇女たる私が頂いた事の無い美味しい料理。森の精霊ツリーさんも夢中になっちゃうんです。」
「(食べないなら私が全部もらう)」
「誰が食べないと言った。まったく、この家では主従の会話も楽しめんのか?では!行くぞい!」
確かに。家族団欒はしてますが、毎食慌ただしいですね。
後でサリーさんとは時間を取りましょうか。
で、その後の時間です。
少しサリーさんと話したいと希望を出したので、娘達は大人しくお風呂です。
女神と皇女と、チビに跨った精霊が並んでお風呂に向かう様に、またもや衝撃をサリーさんは受けてます。
「我が主よ。貴方の正妻。ありゃなんじゃ?
儂らメサイヤより高貴な存在じゃろうアレ。」
この世界には「神」という概念がありませんでしたね。
彼女は言うならば至高の存在です。私や姫さんの様な人間やツリーさんの様な森の精霊を束ねる、そんな存在です。
「なんでそんな方を奥方にしたんじゃ?」
別に夫婦の契りを交わした訳ではありませんよ。神様達のトラブルに巻き込まれたんです。
その解決の為に、私はとある力を授かっているだけですよ。
「なんでそんなお二方が、この世をうろちょろしとるんじゃ?」
さぁ。気がついたらこの世界に居たんです。
恐らく、この世界でなす事があるんでしょうね。
「ふーむ?」
私達は隣の国で2人の女性を助けました。
ついでに、沢山の人を殺して沢山の人を助けました。
この国でも、このままならば2人の女性を助けて、沢山の人を殺して沢山の人を助けるのでしょう。
「なるほど、だからあの2人がいるのか。でも、あの2人に関して言えば、充分に助かっとるぞ。主のお子を授ければ解決じゃろう。」
姫さんに関しては、それもアリだと思っていますよ。でも、それは姫さん一代の話です。
ツリーさんは助からないんです。
「欲張りじゃのう。我が主は。」
その力が私にはありますからね。力任せに助けるのも殺すのも簡単。
だったら、私の好みにやりたい様にやろうと思ったんです。
「なるほどなるほど。我が主は面白いお人じゃ。話せば話すほど興味が湧いてくる。」
そういうと、霊獣メサイヤが私を前にひざまづいた。
「我が主様。我らメサイヤ族。改めて我が主様に臣従致します。これは、我が主様を主とする正式な同盟となります。今後とも是非メサイヤをお見知り置きを。」
こうして、死と転生を司る女神ミズーリに次いで霊獣メサイヤ族が私に臣従の誓いをすることになった。何故だろう。
…そういえば、ミズーリって私に臣従してたんだよな。私の事を主とか言ってたっけ。
あのお淑やかな女神ミズーリはどこ行った?まさかビールで泥酔して、臍や股ぐらをボリボリ掻いて半日寝てたアレじゃ無いよな。
サリーさんをお風呂に案内するのは、女神や姫さんではなくツリーさんの役目にした。
あの2人ならばコミュニケーションが取れるからね。
あと、チビに跨って移動するツリーさんにやられみたい。500歳とか言っときながら、中身は普通の女の子みたいで、
「んじゃ、ツリーさんお願いしますね。」
って言ったら、幻の霊獣が幻の精霊の後をふらふら着いて行った。
その後、ふにゃーだの、へちょーだの奇声が聞こえたけれど聞かなかった事にしてあげよう。
ベッドは以前、姫さんを座敷牢に一晩監禁した時に使ったものがそのまま残っているので流用、私達の隣に並べます。
ついでにベッド付随の鎮静効果をマックスにしておいたので、ルパンダイブしてきたサリーさんはそのまま朝まで熟睡です。
ここまで強烈だと、うちの娘達も瞬時に爆睡。
みんなが寝たのを見てから、私は1人起き上がり、テーブルでコーヒーを淹れながら地図とイラストをまとめます。
「いつの間にやら、家族が増えたわねえ。」
ミズーリですか。起きてましたか
「一応神様だからね。いくらあのベッドでも、必要ならば起きれるわよ。今夜はトールさんと話をしたかったの。」
トコトコとパジャマ姿で歩いてくると、自分のコーヒーを淹れて私の正面に腰掛けます。
「精霊に霊獣か。どうするの?なんだか、私を抜きにして話が進み出しているから寂しいのよねー。」
ここまで、はっきりとは言って無いけど、隠してもいないから、頭を働かせれば想像はつくと思いますよ。
「知ってる?神ってね、馬鹿なの。何か起こっても、後から何でも出来ちゃうから、深く考える事出来ないの。」
まぁ、君や創造神の普段の言動を見ていれば分かってましたけどね。
「霊獣と同盟を結んで、何をどうするの?」
そっちは何にも考えてません。そうですね。
帝国と全面戦争になったら、土塁にメサイヤを並べときゃ便利そうだ。
「こらこら。」
そのくらいまだ何にも考えて無いんですよ。
「また嫁を増やして、この国を出て行く時のしがらみを増やしてばっかりねー。」
そんな呑気な事でも無いんですけどね。
知ってましたか?この卵。
「それって、キクスイの湖の底で拾った卵よね。チビちゃんが時々転がして遊んでいるけど。」
重くなってきてるんですよ。
「…前は鬼の女の子を吸収してたんだっけ。また、何かを吸収してたの?」
いや、少なくとも私は見てない。そして私が知る限り、この卵は「悪意」は吸収していない。誰かの「救い」を吸収しているんです。
「どゆこと?この国でなんかしたっけ?」
私にも大して自覚はありませんねえ。
この国でも、何千人と殺しちゃったけど。基本的には、姫さんやツリーさんやサリーさんを拾って、毎日美味しくご飯を食べてきただけですから。
その晩は、本来ならば明日作る予定の新官舎の計画を立てる予定でしたが、久しぶりにミズーリと自然に眠くなるまで、馬鹿話に興じたのでした。




