はいはい、人殺し人殺し んな事よりご飯です
食事を終わらせて食器類を湧水で洗う。
ご飯も美味しいし、立派な主夫になれるわねぇと女子スキルなどカケラもなさそうな女神が関心しているが、なら朝食は君が作りなさいと言うと素晴らしい速度でそれはそれは美しいジャンピング土下座をし始めた。
神様はダメ人間である自覚は皆あるらしい。
あと土下座がだんだん上手くなっていくのは神様としてどうなんですかね。
差し当たり娯楽も思いつかなかったのでそのままバンガローに入る。
ポンコツ幼女な女神がイヤんだのカモーンだの言ってたがほったらかしてベッドに入る。
二度死んで二度転生して、慌ただしい一日(?)もやっと終わろとしている。
ランタンは勝手に灯りを絞ってくれた。
名前でもつけて可愛がろうか?
折角寝付いたのにバンガローを覆う殺気に起こされた。
「人数は8人。」
既に起きていたミズーリが大した緊張感も見せず近寄ってくる。
「こんな夜更けにこんな場所にねぇ。」
「警戒じゃなくて殺気なのよね。」
「盗賊とか山賊とかの類いか。」
「悪は死滅で良いわよ。」
「物騒な女神様ですね。」
「神に手を上げるなら相応の罰を与えても誰も文句を言わないわ。」
さっき、神様の頭を引っ叩いた覚えがありますが。
「では。」
そう言うと、私は空中チョップをしながらぐるりと一回転してみる。
外からは悲鳴が響いているが、何かもう確認するのも面倒くさくなったので、バンガローの扉をロックして、急遽窓にシャッターを下ろして寝直す事にした。
おやすみ。
ミズーリが同じベッドに潜り込んで来たが、大人しく寝るみたいなので放置した。
彼女の気持ちを慮れば、天界を追放され鬼と対峙し盗賊に襲われた一日だったわけで。
不安しか無いのだろう。だから一日はしゃいでいたのだろう(多分)。
翌朝、ミズーリは顔色一つ変えずあたりにこびりつく血を清浄の魔法で綺麗にすると
八個の夕べまで盗賊だったものを森の奥に捨てに行った。
そこら辺に落ちていた木の棒で盗賊だったもの一個を引っ掛けると、まるで重さが無いように持ち上げ森の中に入っていく。
それを横目に万能の力で出した柔らかめのバケットに生ハムとゆで卵のスライスを挟んだだけの朝食を作る。
コールスローサラダにコーンスープを添えて、オレンジジュースをたっぷりと。
「終わったわよ。」
「ご飯出来てるから手を洗いなさい。」
ミズーリは大人しく湧水で手を洗うと椅子に座る。顔中からワクワクが溢れている。
一口食べると案の定、ンーンー言いながら目を瞑る。神様って食生活が貧しいのだろうか。
「アレ、どうするんだ?」
「肉食獣の多い森だから、勝手に処分してくれるわよ。」
「ふむ。」
「何?人殺して気分でも悪い?」
「君は大丈夫なのか。」
「忘れたの?私は死を司る女神よ。人を殺すのが仕事の一部でもあるの。」
「そう考えるととんでもない女神と旅しているんだな。」
「大丈夫。罪の重さは一級品の下衆どもだったわ。今頃どこかの女神が罪を裁いている最中ね。そして今のトールは私達以上の能力と使命を持たされているのよ。」
「とは言うもののねぇ。」
右手をちょっと振り回しただけなのになぁ。
そんな簡単に死んじゃうかなぁ。
「さて、早速出発しましょう。今日中には森を抜けて街へ行きます。」
朝から人におかわりを作らせてモリモリ完食。元気一杯のミズーリが宣言する。
「出発はいいが、このバンガローどうします?昨日の村の建物と比較するとオーバースペックだと思いますが。」
あの村の建物は大して加工していない板を組み合わせただけ、前世で見た事のある、本家の曽祖父の家に残っていた牛小屋と大差ないレベルだった。
確か明治時代に、自分達で近所の空き家の廃材で組み立てたと祖父が説明してくれたな。
「そうね。製材して防水防腐処理して、扉にはアルミ蝶番にシリンダー錠。この世界からするとオーバースペックどころかオーパーツだわね。」
ふむ、なら持ち帰るか。でもそんな事…
…出来ますね。万能さんに念じたら消えました。もう一度出す事も出来ました。
「便利ね。」
「出鱈目とも言うな。」
「それが神の力なんだから納得しなさい諦めなさい。ただ、私達は普段天界に居るからこんな事しようとも思わなかっただけで。」
「堕天女神は天界史上初の失態だったそうだが。」
「朝から泣くわよ。大声出して。」
ハイハイ。誰もいない森の中ですけど。
女神に脅迫されながら出発だ出発。
さっさとキャンプ地を片付けて元の道に戻る。
相変わらず人影は無い。たまに小動物がよぎるが、女神とその女神以上の何かに近寄る野生動物などいない。
やがて木々の密度が薄くなり、陽が天中に昇る頃には森を抜けた。
この森の道は隠し道なのか、利用が少ないのか。木々の切れ目以外目印が無く、足元の草原も20センチ以上草が生え揃い人が通った形跡を消している。
右も左も東西南北もさっぱりわからないがミズーリには問題無いらしく、けもの道すら無い草原をしばらく歩くと石畳の街道に出る。
時折同じ木が街道脇に立っている。ミズーリに聞くとどうやら一里塚の様な役割をして居るそうだ。
その道を小一時間(この世界の時間単位はわからないけれども)歩くと、地元民とすれ違う様になって来た。
街の外に作った農地の世話に行く人達だ。
そんな人が増えて来た頃、通称・小日向の街に着いた。
「入村パスみたいなものは必要ないのか?」
「城壁も関所も無いただの田舎町よ。旅人には宿と食堂が一軒ずつあるだけの。」
「じゃさっさとチェックインしときますか。」
「ですね。」
「何か目付きの悪い人がさっきから入れ替わり立ち替わりこちら見てるし。」
「夕べのお客さんのお知り合いかしら。」
「うーん。言っちゃあなんだが、ゆんべの連中よりは出来そうだな。」
「そんな事までわかるの?」
「万能さんが教えてくれる。」
「便利ね。」
今日2回目の便利ね頂きました。
早くも恒例となりつつある女神との軽口を叩きながら、街のメインストリートにある宿屋に入る事にする。
因みにこの街には宿屋が一軒しかないから、宿屋がそのまま正式名称だそうだ。
二階の一部屋に陣取り(ミズーリと間違いを起こす気はさらさら無い)お客さんを待つ事にする。