霊獣参上
BBQとは言うものの、肉はちょい飽き気味。
そこで考え出したるは海鮮BBQ。
海の家とかでやるアレね。
メニューは、エビ(ブラックタイガーと伊勢海老)、蛤、鮑、帆立貝、イカ、タコ、牡蠣、栄螺、蟹。
魚としてサーモン、鯵、鮪。
これらに下味として塩胡椒を振り、バターを一欠片乗せます。
そのまま網に乗せて団扇でパタパタと仰ぎます。パタパタ。
貝類は網の端っこで口が開くのを待ちます。
娘達が箸を片手にワクワク。
パタパタパタパタ。あの、箸じゃなくて団扇を持って欲しいな。お父さん大変。
いつのまにか姫さんもツリーさんも普通に箸が使える様になってるね。とりあえず。
「伊勢海老よし!」
「わー!」
「旦那様!蟹は蟹?」
「蟹はまだ。ブラックタイガーが爆ぜて来たから、塩かレモンでイケる!」
「(蛤蛤蛤)」
「ツリーさん、蛤はまだしばらくかかるけど、下拵えしてある栄螺はもうそろそろいけますよ。」
「トールさん。お茶お茶おかわり。」
「ハイハイ。チビちゃんにはカリカリに揚げたエビの頭を上げますよ。」
ワン!
食べるだけ食べて、飲むだけ飲んで。
お腹が「たっぷりぽんぽん」になったのでチモシーの地面にひっくり返った。
地面が柔らかい。
私の頭にツリーさんが腰掛け、右腹にミズーリ、左腹に姫さんが頭を乗せて、チビが足の上で腹ばいになってる。少し重い。
家族の団欒、なのかなこれ。
それにしても、空が高い。
両側に土塁と森がそそり立っている訳だから
空が広いのではないんだ。
広さなら、ミズーリと二人でキクスイの草原をのんびりと歩いていた時の方が広かった。
何しろあの国は、街場と国を挟む山場以外全部草原か田畑だったからね。
でも空の高さは変わらない。
この世界では空気を汚す存在が無いからな。
雲の上、遥か彼方まで見えるよ。山から山へと渡る鳥の群れや、遥か上空を飛行する金色の十字架。…十字架?
なんで十字架が空飛んでんだ?
「旦那様?」
思わず上体を起こした私に、折角の幸せな甘えん坊な時間でしたのにい!と姫さんが訝しげに声のトーンだけで抗議してくる。
「何か空飛んでんな。」
「(!!)」
ツリーさんがいち早く気がついた。
「(あれ、霊獣)」
「霊獣?」
神様なら、そのまんま昼寝し始めた馬鹿女神ならそこにいるけど。霊獣?
「嘘、嘘、嘘。私にも見える。アレは霊獣メサイヤですわ。城の図書室に記録だけは伝わる、森の精霊以上の幻の存在…。」
「呼べば来るかな?」
「へ?あの、あの、旦那様?いくら旦那様でもそれは。」
ピー!!指笛を鳴らしてみました。。
霊獣メサイヤとやらは、遥か下にいる私達に気がついた様ですね。
十字架の形が崩れて、少しずつ下降してくる。こんなんどっかで見たなあ。
あ、分かった。金色の鳥型怪獣だ。
福岡を破壊し尽くして、阿蘇山の噴火に巻き込まれた、後に怪獣王と金ピカな三本首の宇宙怪獣相手に共闘したあれだ。
姫さんとツリーさんは駆けずり回って慌て出した。ミズーリは寝たまま。
やがて、ほとんど重さを感じさせる事なくゆっくりとゆっくり霊獣メサイヤは私の前に降り立ちました。
「何か、何か用かね人間。」
「海鮮BBQ食べる?作り過ぎて余ったんだ。」
「ちょっ、ちょっと旦那様。」
「儂に贄を与える為に呼んだと言うのか!
たかが人間如きが!」
周囲の空気を目に見える形で振動させながら吠えると、霊獣メサイヤはまるでドラゴンの様な長い首と長い尻尾を折り畳むと器用に土下座した。
「いただきます。」
「へ?」
姫さんが面白い顔して涎を垂らしているけど、見なかった事にしてあげよう。
ツリーさんは私のポッケに入ったまま震えてる。馬鹿女神はいびきをかき出した。
そのまんまじゃ食べ難かろうと人化しなさいと言ってみたけど
「儂、まだ年若いから出来ないの。」
って言い出した。儂が一人称の割には語尾が子供なんですが。
「儂、だってまだ500歳ちょっとだもん。メサイヤ族では若輩者もいいとこだもん。」
「あ、あれ?」
イメージが違ったらしく姫さんの逃げ惑いが止まった。恐る恐る私の背後に隠れて霊獣さんを眺めてる。ツリーさんはポッケから顔だけだし始めた。
「人化は可能なんだね。」
「大人になれば自然に出来るって頭の中の誰かが教えてくれてる。でも一度体験すれば出来る様になるとも。」
ふむ。万能さん?
やりますか やっちゃいますか
やっちゃいましょう
では、メサイヤさん
「はい。」
「イメージして下さい。私達と同じ人間になる事を。」
「うーむうわあむうひゃあ。」
随分と間抜けな掛け声を発しながら、少しずつ少しずつメサイヤの身体が光ってくる。やがて光の明るさが最高潮に達し、光の向こう、シルエットが少しずつ小さくなるのが視認出来て来た。
やがて、光が収束していくと。
そこには金髪全裸の若い女性が立っていた。
「出来た!出来た!」
全裸でぴょんぴょん跳ねている。
跳ねたまま近寄ってくると私に抱きついた。
全裸で。
「ハイハイ、旦那様に抱きつかない抱きつかない。愛人たる私でさえ裸ではまだ抱きついてないのに。見せるだけなのに。」
あ、姫さんが復活して、私とメサイヤの間に割り込んできた。
「旦那様も旦那様ですわ。この国の皇女たる私に手を出してくれないのに、今会ったばかりの霊獣には手をつけるんですか?」
なんかコッチにも、とばっちりキター。
とはいえ、姫さんの弱点も私は熟知しているんだよね。耳たぶを指で軽くこそぐと、ほら姫さん全身の力が抜けて座り込んでしまう。
その隙に、万能さんからメサイヤ用の着物を取り出した。手軽に素早く着れる服と言う事で、頭から被る貫頭衣に帯で腰を締めてもらう。
いつのまにかツリーさんは、ポッケから出て私の頭の上に頬杖突きながら寝転んでメサイヤの着替えを見物していました。
姫さんはと言うと、
「ずるいですわ。私の知らないうちに私の性感帯を開発されてましたわ。私の意志は?私の意志は何処にあるのでしょうか。言って下さればいくらでも協力致しますのに。とっても気持ちいいし。」
何かぶつぶつ言ってました。
ミズーリは臍出してボリボリ掻いてるし。駄目だこの女神。
霊獣は普段何を食べているのか。
答え、何も食べていない。
別に食べられない訳ではない。森の精霊と同じく自然の息吹を吸収して成長しているけど、味覚は普通にある。ただし、霊獣とご飯を食べる様な非常識な存在が今までいなかっただけだ。
それについてはツリーさんも頷いている。
で、それ幻の存在は私という非常識な存在に海鮮BBQをご馳走になってまして。
「うめー。貝うめー。魚うめー。タコうめー。イカうめー。エビうめー、ビールうめー。お茶うめー。」
メサイヤ(一応知能と人間と比較する年齢は成人相当)は割と馬鹿だった。




