水車理論
お昼に素麺。
午前中は水辺で過ごしていたので、ずっと流水と共にいました。
それも透明度満点の綺麗な水が常に足元に。
丁度良い竹も(万能さんの中に仕舞って)あるし、流し素麺がしたいなぁ。でも人数が少ないな。あれはもっと人が居た方が楽しいし。
でも、素麺は良いなぁ。
と言う訳で、奈良県名物の2年物乾麺を万能さんから取り寄せました。
個人的には煮麺が好きなんですか、ここは初めて食す3人の為にオーソドックスに冷水でキュッと締めて、麺つゆで頂きましょう。
味覚がお子様な長姉と中妹が居るので、蕎麦つゆにネギと揉み海苔の小鉢と、私とツリーさんの為に生姜と茗荷を薬味にした小鉢を2種類用意します。
副菜は折角の外での調理ですから、網で野菜を焼きましょう。竹の子・椎茸・とうもろこし・トマト・茄子・ズッキーニを塩胡椒だけで網焼きにします。
冷や冷やの素麺に熱熱の焼き野菜。
目の前には幻想的な池(貯水池では味気ないので、その内名前も付けましょうかね)、木々が日差しを優しく遮る森の中でテーブルセットを出して頂きます。
「旦那様、この色付きの麺って味が違うのですが?」
食紅などで着色してるだけで、味は同じですよ。別の種類の麺(冷麦)と区別する為だけに色を付けたそうですけど。
「でも、気分が変わって楽しいですわ。」
前世の姪っ子みたいな事言ってますね。
あの姪は元気かなぁ。中学に進学してバドミントン部に入ったってメール来れましたね。
「トールさんトールさん。この胡瓜の化物みたいなお野菜美味しいの。塩胡椒でも良いけど、お醤油も下さいな。」
「(茗荷が美味しいです)」
狙い通りの感想を頂きました。
デザートは水尽くしと言う事で、水羊羹をたっぷりの冷やした煮出し麦茶で頂きました。
羊羹はこの世界に来て初めて作ったかな?
麦茶は麦から煮出すと一味違うんだよね。
甘〜い羊羹と、麦の味をやたらと主張してくれる美味しい麦茶を頂いて、午後の気持ち良い風が流れる森の中。
4人でしばらくまったりと食休みを取っていると、空から桶が落ちて来ました。
私の頭にでも当たればコントなんですが、これはカピタンさんかイリスさんの呼び出しです。姫さんが桶を覗いて返事をしまう。
うーん、この光景はなんだか間抜けだから早急に連絡装置を考えないといかんね。
元々間抜けな私達では有るけど、見た目の頭の悪さがちょっと格好悪い。
電話、或いは無線機的な物を用意して。
「旦那様、カピタン将軍から至急お目に掛かりたいとの事ですが、どう致しますか?」
報告・連絡・相談は組織維持の大切な基本です。5分後にいつもの所に集合しましょう。
「だ、そうです。今から行きますね。」
…一応ここ軍隊の筈ですが、なんか呑気な空気が取れないなぁ。
「幾つかの要望が上がっております。殆どは軍首脳の段階でペンディングにされていますが、農業班からの相談は早めにお耳に入れるべきかと判断しました。」
それはなんですか?
「先程畝作りが終わったので種蒔きを始めたいと報告があったのですが、一つ農具の追加注文が御座いまして、あの、ジョウロが欲しいと。」
はい?
「元々農作業はしていない軍施設ですから、ジョウロと言っても、個人が園芸用に持ち込んだ小型の物が数本あるだけですので。」
これはまた以外な盲点。いや、すぐ側に水路があるから充分だと勘違いしてた。
「旦那様。最初に開墾している土地はかなり広いですわ。あの少人数で1日で耕し終わるって言うのも常識外れですが、水遣りは確かに道具がないと。」
ならどうしようかね。ジョウロを出すのは簡単だけど根本的な解決にならないし。
スプリンクラー?あれの動力は圧力ポンプか。水道設備に導入済みだけどアレ動力は万能さんだしなぁ。燃料の確保が出来ないから発電機能はまだ考えて無いし。
ん?待てよ。別に動力は内燃機関である必要は無いんだな。水力が有るじゃん。揚水発電もその内とは考えていたけど、そのまま水力を利用すれば良い。すなわち水車。
「ふむ。解決策を思い付きました。今日のところは全員一度引き上げさせて下さい。明日迄に整えておきます。」
「お願いします。夕方、またご報告にあがります。」
そっかー、この世界・この駐屯地は文明や道具がチグハグなんだな。
「トールさん?蛇口とホースとか出す訳では無いわよね。ホースだと劣化が早いでしょ。」
私とミズーリは思考が共有出来ます。
私が迷っている時はわざと共有スペースを公開してミズーリの考えも仰ぐのです。
この共有スペースはツリーさんも入って来る事が出来ます。力を持つ人外だけが秘密を共有出来るんです。
これは鬼の女性との接触で気が付きました。
だからミズーリはスプリンクラー案を私が自らが却下した事を知った上で、無闇矢鱈と文明を進化させない様に私に釘を刺しているんです。
聞く気は有りませんけど。
『いや、聞けよ』
知らんもんね。
「姫さんは水車と言う物を知っていますか?」
「?」
はい、やはり知りませんでした。
「風車で遊んだ事は?」
「???」
こっちも駄目か。これは姫さんがお嬢様故の世間知らずか、この世界に気付きが足りないのか。
そこら辺に生えている植物の葉と茎を使って簡単に小さな風車を作ります。
「姫さん。これに息を吹き掛けて下さい。」
頭から盛大に?を撒き散らしながら、姫さんがそっと息を吹き掛けると、簡易風車はクルクルと回ります。
「!」
可愛いは正義の姫さんは、すっかり楽しくなってふーふーしますが、何しろそこに生えてた草で作った強度ゼロの風車。
たちまち壊してしまいべそをかき出しました。
「(しょうがないなぁ)」
ツリーさんが姫さんの肩に止まって慰めてます。
はい、三姉妹の2番目と3番目が入れ替わった瞬間でした。
「これは私の国では風車と言って、赤ちゃんのおもちゃです。」
「赤ちゃん?私赤ちゃん?」
変なところでショックを受けているし。
「風が吹けば車が回る。つまり風が強く吹いている場所に大きな風車を作れば、人が動かす必要の無い大きな力が手に入るんです。
でも風は吹かない時もある。常に何かが動いている場所に羽根のついた車を設置すれば、常に動力が供給される。さて姫さん。そんな常に何かが流れている場所は何処でしょう?」
「うーんと、うーんと。石を坂の上から転がすと、また上まで誰かが運ばないといけないわね。自然じゃないといけないのか。常に動いている自然。」
思考状況がダダ漏れですが、姫さんはトライアンドエラーの思考方法ですか。
「分かった。川ですわ。今日川を降って来ましたけど、川は枯れない限り流れ続けます。」
「正解です。風で回る風車に対して水で回る水車と言います。では、これから水車を作りに行きますよ。




