開始!
三姉妹とチビが入浴している間に、私は再び地図を広げた。
マーカーを手にすると、水辺・貯水池予定地を青で、畑予定地を茶色で、馬車鉄道を黒で塗り分ける。因みにこれ、計画では無い。
これだけで土地は耕され、水路は引かれ、鉄道は敷かれている。一度経験してしまえばイメージが強固になるので机上のシミュレーションがイコール施工完了になる。
万能の力の万能たる、滅茶苦茶でいい加減なところだ。
枇杷畑はオレンジで塗りますか。
ふむ、開墾をした場所は計7ヶ所。いずれも平原に近く日当たりの良さは保証できる。
農業用水を引き終えているので水の心配はなし。広大な地底湖を水源としている為、水飢饉の心配がないのが助かるな。
あとは何を育てるか、だけど。
定番として、葉物野菜と根菜だろうな。
キャベツ、ほうれん草、ニラ、人参、大根、蕪。一部の開墾地は田にするのも良し。
あ、米を作るなら麦も作れるな。大麦小麦。大麦からはなんといってもビール。私の場合は万能さんからいつでも取り寄せる事ができるけどね。あと、麹を使って発酵食品が作れる。小麦は万能食材小麦粉になる。パンにもうどんにもなる。
うん、葉物、根菜、米、麦。
農業計画はこれで行こう。
貯水池はいずれ魚を入れるとして、あとは何が出来るかな。レジャー?うーん。あっても悪くないけど、ここ軍隊だしなぁ。
揚水発電?電気作って何に使う?
まぁ後回しでいいか。単に森だけじゃ殺風景だから何となく考えて何となく作っただけだし。
あ、そうそう。馬車鉄道用の馬車も作っておかないと。各方面にとりあえず一台ずつ。線路に乗せておこう。車輪が違うからね。
しかも、ここまで開発した物は最初に開通した線以外一度全部破棄、というか保留。
後は明日のこの駐屯地の意思決定以降、再構築します。まるでゲームのシミュレーションですが、そんな力を私に押し付けた神々の責任です。
みんな上がってきたので代わりに入浴ですが、おやチビちゃんはもう一度私と入りたいのですか。甘えん坊ですね。
「あーいいなぁ。旦那様、チビちゃんと2人きりでお風呂です。私達と入ったばかりなのに。」
冷蔵庫にミルクが冷えてますからどうぞ。
ミルメークもありますよ。
「な、何という卑怯な手を。そんな物があるならお風呂覗きに行けないじゃないの。」
馬鹿女神がとんでもない事を言い出した。
姫さんに悪影響があるから、冗談でも言うのやめなさい。ほら、姫さんの目がおかしな輝きを放ち始めた。
…鍵付けないと駄目かな?普通、逆だよなぁ。
ほうれん草とベーコンのバターソテー、豆腐と油揚げのお味噌汁、鮭の味醂焼き、目玉焼きを竹の子の炊き込みご飯で食べる朝ごはん。和洋折衷もいいとこですが、この節操の無さが日本人。勿論うちの三姉妹は私が作るご飯に不満を漏らすはずもなく。
「ほうれん草とバターって合うのねぇ。」
「このお魚も美味しければ、この味付けも最高ですわ。」
「(竹の子とお豆腐うまうま)」
姫さんもだいぶ大人しく食べるようになって、今朝も美味しくいただきました。
今日は外にテーブルセットを出して、皆でチビと楽しく遊んでいます。その内に駐屯地から兵隊さん達がやって来ました。率いるのはイリスさんです。
イリスさんは厄介な事になりそうなので、コーヒー牛乳を差し上げてお引き取り願いました。喜んで帰って行きました。
ここは姫さんに仕切らせます。
「朝からご苦労。イリス将軍は我が旦那様の前ではあの通りまるで役立たずになるので引いてもらった。」
姫さん?あまり将官を虐めちゃ駄目ですよ。
「さて、本日諸君に集まってもらった目的を発表する。兵の職務として侮辱と取るならばこの場で去って構わない。私達がこれから始めようとしている事は農業だ。」
反応は?薄いな。
「今この東部方面軍は旦那様指導の元、コマクサ公爵と冷戦状態に入っている。食糧補給や用水路に水が流れてこなくなった事は皆知っておろう。」
「でも姫閣下。」
兵の1人が挙手し発言を求める。
「直ぐに今まで飲んだ事の無い美味しくて透明な水がいつでも飲めるようになりました。食事にしても、今まで食べた事の無い美味しい食事を毎日食べられるようになっています。」
「それもこれも、全部旦那様のおかげです。コレットから補給が来ないなら、新しい取引先を作ろう。その為に新しい道を作って、現在キクスイとの新しい交流を既に始めています。でも自分で出来る事は、自分でなんとかしよう。そうして水を引き、新しい畑を作り始めました。その準備は旦那様が着々と進めています。後は、私達が手を土で汚す覚悟が必要です。現在、カピタン将軍が手分けして皆の意思を確認して回っています。」
「姫閣下、私達は。」
うん。と頷くと姫さんは
「ここに居る者は皆、既に覚悟を決めた者と聞いています。貴方達が中心になって新しい事業を起こして欲しいのです。」
姫さんのカリスマ性はやはり大したもの。全員即座に敬礼すると、話し合いの末農家出身の兵が中心となる事を決めた。
彼の名前はトレイ、尉官待遇の下士官だそうだ。トレイ以下6人をとりあえず農業班の責任者とし、更に兵からも農業従事者の経験値を見極めながら適宜人材を調整する、と言う事になった。
では、始めましょうか。
家の裏に回ってもらうと、そこにはキクスイトンネルに続くアスファルト舗装路と並んで、昨日開通したばかりの馬車鉄道が既に用意してあります。
トレイさんが連れて来た馬を馬車に繋ぎ、私と姫さんと6人の兵隊が乗り込みます。
ミズーリはチビとお留守番。ツリーさんは姿を消して私の肩の上に座ってます。
「こんなに人が乗って大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫です。旦那様を信じなさい。」
なんか宗教の教祖みたいで嫌です。
「(自業自得)」
はい。すいません。
馬車鉄道は45分で開墾地に着きました。
土地を見た兵隊さんが固まってます。
「こんな所が森の中にあったなんて。」
「街の人が焼畑に失敗して放置していた土地を旦那様が耕し直しました。」
「それもこんなに柔らかくて、滋味の良い土ですか。森の外にもこんな土は見た事ありません。」
「森の精霊の祝福が掛かっている土です。」
「それにこの水。馬匹や作物だけじゃない。私達もそのまま飲めるじゃないですが。」
「旦那様が引いた水です。」
「ここならどんな野菜も丈夫に育ちます。でも何を育てるんですか?」
「あの小屋に農具も種子も既に全て用意してあります。」
「「「旦那様!」」」
そろそろ鬱陶しくなったので帰りますよ。
必要以上に人の上に立つという事は、私の性に合わないようです。
「ここの開墾計画と実績については、カピタン将軍まで報告の事。私は旦那様といつ何処にいるか予想がつきませんから。後は帝国の兵の誇りに任せます。それに、開墾が成功すれば。」
「「「すれば?」」」
「旦那様が美味しいご褒美をくださいます。」
「「「お任せください旦那様。」」」
姫さん?勝手に約束しないように。
まぁ、その位なら構わないけどね。
さあ帰ろう。
口笛を吹いて、馬くんに森の方から登場してもらいます。(この場に出せるけど一応ね。)あ、ついでに竹の子を掘りに行きましょうか。
竹の子のお刺身を柚子味噌で味わうのは、多分ツリーさんが気に入りそうです。
「私だって気に入ってみせますわ旦那様。」
姫さんはまだ味覚がお子様だからなぁ。




