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神々の無責任な後始末  作者: compo
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竹細工とお寿司

少し広い空間を見つけて家を展開しておく。


今日の午後は自由時間、と宣言して各自好きな時間を過ごしてもらう事にした。

いや、普段も別に何かやる事ある訳でなし、誰かがトラブルを持って来るからそれに対処しているだけなんだけど。

何しろ私達が対処しちゃうと、トラブルが際限なく拡がり続けるか、トラブルを人も事項もまとめて物理的に叩き潰しちゃうかのどちらかなので。

何もしない時間というのは、私達にとってもこの世界にとっても大切なんだな。


という訳で、私は竹細工に精を出します。


我が家の三姉妹は、家の中でチビと戯れながらのんびりDVD鑑賞する様です。


竹林から採取して来た竹を縦にバリバリと裂き、長さを人より少し短いくらいに切り揃えます。

そこら辺の木から、枝を伐採して(ツリーさん認可済み、少しは枝切りも必要ですしね)同じ長さに切り揃えます。

竹はふた通りの太さに切り揃えて、細く裂いた竹を木から落とした木で挟み芯を作り、更にその芯を太い竹で挟む。

こうする事によって弓自体の強度が上がる、弓胎弓の完成です。


いや、知った様な事言ってますが、ただの元会社員が弓の作成法など知るわけなく、全部万能さんの受け売りですが。

弦はそこら辺に生えてる蔦で代用します。

矢尻は黒曜石の切り落とし、とか凝りたいのですが、今は矢とした竹の先を鋭角にしたもの。羽根は竹の葉っぱで代用しましょう。

改良は後で、です。さあ、試射してみよう。

的はゴミとなった竹のカスを適当に並べて。

とは言っても弓道部に居た事があるわけでなし、時代劇で見ただけですから見様見真似です。長い和弓を作った事もあってバランスを崩し、更に代用した蔓があっさり切れたので狙いが外れて木にあたりました。

…貫通しました。何故?

「(イタズラ)」

いつのまにかツリーさんが来てました。

森の精霊が、森を傷つけてどうするんですか。

「(幹じゃない、いずれ剪定が必要な枝)」

そうですか。

…最近、ツリーさんと普通に意思疎通が出来てるんですが?

「(トールさんの美味しいご飯を沢山食べたから)」

…まぁ、今更驚きも呆れもしませんけどね。

しかし、イタズラとは言え威力が凄いな。

「(私は先っぽの硬さを上げただけ、トールさんの弓矢自体がおかしい)」

…まぁ、今更驚きも呆れもしませんけどね。


その他に、背負い籠、わっぱ、ざる、あみ籠などをツリーさんと一緒にワイワイと作っていると

「あーーーー!。」

という叫び声が森の中に響きました。

ミズーリ、うるさい。

「知らないうちにツリーがトールと遊んでる。2人っきりで共同作業してるわ。」

「何ですって!いくら我が帝国が敬愛する森の精霊と言っても、許せる事と許せない事があるわ。」

いや、君達と違ってツリーさんはいつも私を気にかけてくれているだけですよ。

「しまった。」

「やられてしまったわ。」

なんでもいいですけどね。何か用ですか?

「あ、そうでした旦那様。カピタン将軍から連絡が入りました。昨日放ったキクスイ遠征隊の一部が帰隊したそうです。それを含めて相談したいと。」

私の有意義な午後はこうやって終わっていきます。


いつもの所に家を置いて待っていると、時期に扉がノックされます。

姫さんが出迎え、カピタンさんが1人入って来ました。


「余計な挨拶は抜きで、報告をお願いします。」

「はい、本日帰隊したのは2名。辺境の街にて商人と面談して来たそうです。見本に持たせた布と水に非常に興味を持ったそうで、継続的な取引を希望したとの話でした。」

シルクとウール、つまり蚕と羊がこの世界にいるのかどうか、これ重要。

万能さんに出してもらっても、養蚕牧畜の永続性が無いなら産業に出来ないからね。

「それと、水は完全に止まりました。閣下が掘って下さった井戸のおかげで動揺はありませんが。むしろ、閣下の水を飲んだら用水路の水など飲めないと言う意見しかありません。勿論、この水もキクスイの商人には好評で、もっと飲みたい、もっと買いたいとの事でした。」 

「食糧はどうでしたか。」

「はい、コレットの街からは今日も補給は来ません。キクスイ商人からは余剰食糧を中心に貿易品にしたいと。」

「焦る必要はありません。いずれ自給自足が出来るまで考えていますが、キクスイ国民に影響が出るような無理な取引は絶対にしない様に。」

「伝えます。」

「こちらもこれから正式に手を打ちます。軍側も物を消費するだけではなく、物を増やす事を考えて下さい。例えばこれ。」


さっき作った弓矢や竹細工を渡します。


「これはこの森の中にある物で作りました。こう言った道具を作れば日常生活が便利になりますし、売れば食糧が買えます。」

ここで竹の子ご飯のおにぎりをカピタンさんに差し出します。

おかかと竹の子のおにぎりを瞬く間に完食したカピタンさんが物足りなさそうにしてますが、無視。

「これは同じ場所で採取した食材を調理した物です。今渡した弓は、現行のそれよりは威力・飛距離・耐久性が格段に上がっている筈です。昨日食べて貰ったキノコ。あれの養殖栽培も既にスタートしています。分かりますか?今、私達が始めた事は革命なんです。人を殺さず人を育てる革命なんです。」

カピタンさんの顔には「もう分かりません」と書いてありますが、


「カピタン。旦那様の言う事を聞いていれば、皆毎日美味しいご飯が食べられるのですよ。」

姫さんの一言で目に力が戻りました。

「まずは、幹部でキクスイとの取引の条件を書状にまとめて下さい。王都との折衝を最優先としますが、小さな取引ならば先行しても結構です。書状は姫さんに提出して下さい。軍司令もしくは皇女のサインで認可とします。」

「畏まりました。」

「それと。」

わっぱを3個カピタンさんに渡します。

「キクスイ遠征隊の兵に渡して下さい。私の祖国の郷土料理の一つです。彼らは今後この森の"国"の生命線です。いいですか?勝手に食べたりしないで必ず渡して下さい。不正が発覚したら、食べた者は絶食させますから。」

ビクンとしたカピタンさんは、背筋を伸ばして退室して行きました。危ない危ない。


カピタンさんが帰った後、私は3人を集めました。

「いよいよ始める事にします。」

「何を?」

「何をですか?」

「(何を?)」

「この森全体の防御力を上げます。」

「どうやって?森ったって広いわよ。」

「姫さんはわからないかな。ミズーリは堀と言う物を知っているね。」

「トールの国にある城や砦の防御施設よね。」

「ならば土塁は?」

「土手でしょ。」

「それを作るんだよ。」


万能さんとイメージを共用する。通常、土塁は掘った土を盛り上げて土手を作り、掘った部分を空堀として残す。

そこで土塁の両方向を掘り、外側を空堀・内側を水堀とする。水堀にするには色々水漏れ防止策が必要になるけれども、それは万能の力を持つ私。水漏れどころか循環させて、せせらぎを作ります。堀で魚の養殖もしちゃうのもいいね。しかも、土塁の外からは、川のせせらぎが何故起きているのかわからないオマケ付き。

いずれ堀の水を農業用水に使っても良い訳だし。


土塁の高さは大人3人分。空堀の深さは大人2人分で。土塁の上には逆茂木をつけたいな。ツリーさん、なんか手頃な植物ありませんか?

「(トゲトゲなら)」

いばらの野生種みたいですね。んじゃ、それを敷き詰めますか。水気は根っこを堀まで伸ばして貰います。ついでに空堀の方までトゲトゲを伸ばしてもらいましょ。


そっちは一つ考えがあります


万能さんの悪巧みを聞いて即採用。

では、日照を考えて森の外側5メートルのところに土塁工事開始、1秒後完了。


土木関係者の方には聞かせられない酷い話です。

あ、ついでに昔からの用水路も、土塁で外から独立してるし森側は通水させておこう。下水に落水させる様にすれば、生活用水にも使えるし。


「極力事なかれ主義のトールにしては随分と派手にいったわね。」

「???。」

「なんとなくね。これは万能さんの勧めでもあるんだ。」

「???。」

「この国に来てから、万能さん妙に積極的よね。」

「て言うか、万能さんよく怒ってる。」

「あの旦那様?何をされたんですか?」

「見たいかい?」

「はい。」

「ならば見せよう。万能さん家を高度上昇させて下さい。姫さんは窓から外を眺めて下さい。」

「はい、ええと、、…うわぁ。」

「何が見えますか?」

「あの、森の周りに池と土手が見えます。果てしなく向こうまで続いてます。」

この森の外周っておよそ500キロあるからね。

「こんなものを作って、旦那様の狙いはなんですか?」

「一つ、外から攻めてこようにも物理的に乗り越えるだけで一苦労。二つ、コレットの街に東部方面軍が敵対した心理的圧迫感を与えられる。三つ、豊富な水資源を利用して食糧調達や新しい産業が生まれる。そして。」

「そして?」

「私が楽しい。」(ゲームみたいで)

「同感。私も楽しいわ。」

「旦那様とミズーリ様に着いていくのは大変ですわ。私も頑張らないと。」

因みにツリーさんはなんだかご機嫌でした。


「土塁で防御壁を作った次はお城ね。江戸城の天守閣を再現しようよ。」

「いや、そんなもん作っている暇があるなら官舎だろう。半地下と言う事もありここの住宅環境はあまりに劣悪だ。」

怒りのあまりに姫さんを泣かすまで説教したのは記憶に新しい。


「次にカピタンさんが来たら、この駐屯地の住人編成を確認しよう。独身者・既婚者・性別。それによって戸建てか集合住宅かに分けられる。それに今私が勝手にこの森と帝国を分断したけど、別に監禁したいわけじゃない。里に帰りたい人、森を出ていきたい人の意思確認も必要になる。」

これでコマクサ侯や、或いは帝国軍本隊からもこの森を守る事が容易になる。

別に急ぐ必要はどこにもないしね。


一応、各調味料をマリンさんの為に大量補給しとこう。

砂糖・塩・醤油・味噌のさしせそを詰めたドラム缶を置いておく。そういえば、酢を使った料理はこの世界の人にご馳走した事無かったね。

今朝、話題になった事だし今晩は手巻き寿司にしよう。

先に言っとくが、お前ら脱ぐなよ。

「えー。」

「えー。」

「(えー。)」

えー、じゃない!


用意しますものは、ます酢飯と海苔。わさびはご自由に。

漬けマグロ・甘エビ・サーモン・いくら・イカ明太・納豆・きゅうり

変わり種で、ツナマヨネーズ・ローストビーフ・牛肉の時雨煮なんかも。

後は、自分で包んで醤油をつけて食べるだけ。


「生魚な駄目な様なら、野菜や肉の具材も用意しますよ。」

「大丈夫ですわ旦那様。ミズーリ様がぱんつを脱ぐと言った気持ちが分かります。初めて食べるお魚ばかりなのに、止まりません。どうしよう。この丸くて赤い粒々が口の中で弾ける感触が癖になります。」

「(この赤いお魚美味しい)」

「私なんかトールがお寿司をご馳走してくれると言われた時、おかしくなった覚えがあるわ。」


君は鰻とかステーキとかでも、おかしくなってましたね。


「ミズーリ様がおかしくなっちゃう様な料理で私達が正気を保つ事が出来るだろうか、いや出来ない(反語)。」

反語ギャグまでお姉ちゃんに習いましたか。

「このお魚を駐屯地のみんなにも食べさせてあげたいです。何処からか大量入手は出来ないでしょうか。或いは土手の池で育てるとか。」

「姫さんは海を知っているか?」

「塩っぱくて大きな湖ですね。3つくらい国を跨いだ先にあると聞いてます。」


なるほど、淡水・汽水・海水の区別はある様だ。

 

「今日用意した魚は基本的に海のものばかりだ。つまり塩水でしか生きられない魚ばかりだ。私だから用意出来るが、そんなに遠方ならば腐敗してしまいこの国にいる以上、死ぬまで食べる事は無理だな。」

「…そうですか。」

「因みに淡水、つまり陸地の水にいる魚は大体臭みや寄生虫がいて生食には向かない。生だと毒のある魚もいるくらいだ。」

「…残念です。」

「そのかわり、陸の魚は陸の魚でしか味わえない料理方が沢山ある。美味しい魚をお堀に放して育てれば、いつか誰でも食べられる様になる。」

「美味しいですか?」

「美味しいです。」

あのね姫さん。私とミズーリがこの地を去った後、この国がどう変わるかわからないけど

姫さんやこの国の人が美味しいご飯を絶対に食べられる様にしていきますよ。絶対にね。


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