私の前世
私の名前は瑞樹亨
ニックネームは親からも、兄からも、友達からも、誰からもずっとトール
私はそれなりに誇れる人生を送って来たと思う
多分葬式でも(親より先に死んだ事は別にして)、悪く言われる事もなかったと思う
それほど頭が良い訳ではないが、それなりの高校を出て、地元国立大学を出て、地元地銀に就職した
厳しい業界と聞いていたが、国の指針や法改正・社会常識の変化、働き方改革などにより極端な残業は直ぐに無くなった
社内的には、厳しくも優しく信用の置ける上司と、多少頼りなさを感じるとはいえ何事にも一生懸命で明るい後輩達に恵まれた
女性にそれ程縁があった訳ではないが、最近よく2人だけで食事に行き、いずれは結婚もと考える事も増えた年下の可愛らしい彼女も出来た
彼女も、言葉の節々に将来を語ってくれたけれど、それは私が隣に居る事を前提に話してくれていた
祖父が貸してくれた土地に注文住宅を建てて貰い、ガレージや趣味部屋・ペットスペースを作り、言うなれば自分の城を作った
独身ゆえ大した出費がある訳で無し、貯金も順調に増えていった
32歳という年齢を考えれば、まずまずの人生を構築しており、親も不安がらず充分に幸せだった訳だ
って、なんで泣いてんの?
いい大人が幼女を泣かせたみたいで、外聞があまりよろしく無いのだけど。
誰も見てないけど。
「…ひっく…、だってそんなトールさんの人生を私は壊しちゃった。私女神なのに…」
「さん付けは要らないよ。私も君をミズーリと呼ぶことにするから。」
「でもでも。」
「確かにこんなになってから、まだ数時間だ。納得している訳ではない。けどね、これだけ出鱈目な事が続いたらもう開き直るしかない。鬼を空中チョップで倒すとか何だありゃ。」
「私は貴方に何が出来るのだろう。私は貴方に頼る事しか出来ないのに。女神って言っても、何の役にも立たないの…」
俯きながらぼそりと呟いたポンコツ女神の頭をポンポンと叩いた。
ミズーリは、私と知り合ってから大して時間も経って居ないのに、嫌がる素振りもなく受け入れて顔を上げた。
「ところでトールさん。貴方32歳だったの?」
「そろそろ中年男の入口だったな。結婚というものをしてみたかった。」
「でも貴方20歳くらいにしか見えません?よ」
「鏡見てないからわからんよ。」
確かに顔だけは確認してないし、出来ない。
若返っているとしたら、神様からの贈り物かな。
「こちらからの質問していいか?」
「うん。」
「この世界の文化・文明はどうなっている?」
「トールさんの世界で言うなら、産業革命前ってレベルね。基本的に国家は帝国・王国の領土争いしてる。電力・蒸気力はまだ理念もないわ。」
「宗教は?」
「大規模な勢力は無し。基本的に精霊信仰だけ。原始宗教から進歩してないわ。だから私が映像的にハッタリかますだけで通用するの。」
言葉使いの悪い神様ですね。
「ならばこれからどうしたい?」
「東へ。キクスイ王国へ。」
お酒みたいな王国へ
「そこに何が?」
「単に一番近いってだけよ。」
「ミズーリをどうやったら天界に戻せるんだろう。よくあるパターンだと魔王を倒すとか。」
「魔王なんか居ないわよ。さっきみたいなモンスターはいるけど、アレこの世界では単にデカい動物だから。」
「宗教がないなら教会もないと。」
「カルマを減らす。みたいな事しか思いつかないわね。私のそそっかしさが犯罪になる事に気が付いて落ち込んでるとこだし。」
「の割にはよく喋るな。」
「喋ってないとまた、まだ泣くわよ。」
「別に泣いても構わないよ。背中くらい貸すから。」
「トールさんは神様口説いてどうすんのよ。」
そんな気はさらさら無いが。幼女だし。
「でも、ありがとう。」
どういたしまして。