椎茸栽培
という訳で、キクスイ遠征組を送り出して帝国内に戻って来た私達です。
姫さんと馬くんが戯れているのを横目に、私は万能さんとツリーと会議です。
森の木々は殆どが針葉樹。食用になる物は見当りません。松皮などで大福餅をカサ増しするなんて事は前世の戦国時代にはあった様ですが。
楓の様に、樹液が糖分になる様な広葉樹も見当たらないし。
取り敢えず手っ取り早いのは菌栽培、すなわちキノコです。
この世界にも松に似た木はありますし、最初にこの世界に来た時はタマゴタケの様なキノコを栽培していた様子がありましたね。
露地のキノコ栽培は一からの土づくりが必要な上、出芽するかしないかは菌次第と、いまいち確実性に欠けるので食糧栽培作戦の第一弾は椎茸栽培です。
と言っても椎茸で軍を養う訳ではありません。勿論、食用にもしますが。
「この国ではキノコって食べますか?」
「(ブルブル)」
だそうなので、新しい産業として成立するのではないかと言う目論見です。
その為にキクスイ遠征組にあげたお弁当に、椎茸の煮付けを混ぜときました。
食べる習慣の無い物を、食べた事の無い味で食べる。しかも椎茸の裏はビラがびろびろしてます。食べるには非常に勇気のいる事ですが、20人のうち1人でも食べてくれればコッチの勝ちです。バター炒めはうちの女神もどハマりしてましたから。
さて、椎茸栽培には木花(原木)が必要になります。
通常は広葉落葉樹、出来ればコナラが欲しいところですが、針葉樹林のこの森にあるかどうか。
と言う訳で、森の人ツリーさんの登場です。
パチパチパチパチ。
木を切る事になるのですから、それは森の精霊の許可が要りますよね。
私のコナラのイメージを万能さんに伝え
万能さんがビジュアルをツリーさんに伝える
些か面倒な手順を踏みましたが、無事に私の意思は伝わりました。
目当ての木は山の上ですか。まぁそうでしょうね。
光合成を考えるなら、平地の針葉樹林より傾斜地に生えるでしょう。
「姫さんはここで馬くんと遊んで居て下さい。ミズーリは姫さんの護衛をお願いします。冷蔵庫の中に朝作ったお弁当が入ってますから、いつものテーブルセットを出して、ランチでもしてて下さい。ここでは家を展開するスペースも無さそうですし。ついでに、たまにはチビを外で遊ばせて下さい。」
「チビちゃんと馬さんで遊んで良いんですか?それは嬉しいです旦那様。」
「え、でもトール。冷蔵庫の中のおにぎりって固くなってない?」
あれ?この女神はアレの存在を知らないのか。
「万能さん、レンジをシンクの隣にでも出しといて下さい。」
承知
「と言う訳で、台所にあるレンジに入れてボタン押せば温かいおにぎりが食べられます。」
動力は謎の万能力ですけど。
発電装置もその内に作りましょうか。
「レンジ?レンジってなんですか?」
「そうか、その手があったわね。さすがはトールさん。愛してるわ。」
「旦那様。私だって愛してます。」
ハイハイ。私も愛してますよ。
なんですかツリーさん?ハイハイ。貴方も愛してますよ。
では、我が家をそこら辺に浮かべとくので後は馬鹿姉妹で適当にやって下さい。
道の無い山を攀じ登る事20分、ツリーさんが指示してくれた場所に到着しました。
成る程、葉などは見た事ない別物の形をしていますが、この幹に入った縦の線。
樹液が出れば、カブトムシの一匹でも出そうな木肌には見覚えがあります。
足元にはどんぐりが沢山落ちています。
これならイケるかな。
問題は無いと思います
このどんぐりに、発芽能力はありますか?
乾燥しきったどんぐりにはありませんが
いくつか発芽可能などんぐりはあります
では、全部回収します。
私と万能さんの力で発芽させましょう。
いくつかの木の枝を貰いますが、植樹もきちんと行います。
日当たりの良い場所に、私が植えたどんぐりからは、すぐさま若葉が芽吹きました。
その若い芽全てにツリーが祝福を与えます。
自然の恵みを受けるのならば、それに見合うだけの物を自然に返す。
森の資源を自由に利用する条件として、そのくらいは当然だと思っています。
とは言っても、何せ素人のやる事なので色々足りない部分も出てくるでしょう。
チェーンソーで、万能さんの指示に従い適切な枝落としをしていきます。切り口には竹灰を塗って減菌処理を忘れずに。
太さは男の腕より少し太いくらい、長さは人間の足くらい。
剪定にふさわしい枝を一本一本ツリーさんと確認しながら、約1時間。結構な量が取れました。では、万能さん。いきますよ。
剪定した枝を一気にまとめて山から落とします。
ギャーーー!
…なんか聞き慣れた悲鳴が聞こえたけど気にしない。
ミズーリならなんとかするでしょう。
「びっくりするじゃないの。木の枝がいきなり飛んできて、勝手に組み上がっていくのよ。ジェンガなの?キャンプファイアーなの?」
山を降りるとミズーリが噛み付いてきました。おやおや、木花で綺麗な井桁が出来上がってました。
ジェンガは良いな。今晩のレクに取り寄せとこう。
チビが姫さんの抱っこから飛び出して私の足元で期待に満ち溢れる顔をしています。
尻尾をぶんぶん。
仕方がないですね。
さつまいもを出してあげると
芋を前足で押さえながら、私の裾を甘噛みしてきます。
ハイハイ。改めて芋と一緒に抱っこすると、器用に芋を齧りながら私に甘えてきます。
あ、姫さんがとても羨ましそう。
ここはとっても深い主従の繋がりがあるんです。いつのまにか餌やり係になってた天界の女神ですら入れない絆なんですよ。
駐屯地から少し離れた場所に木花を並べて、椎茸のタネを植え付けます。
この作業は晩御飯の献立を聞きに来たマリンさんをはじめとした厨房班が参加しています。
と言っても、キリで穴を開けたら菌糸タネを植え込むだけ。
本当は、木花自体に長期間に渡る処理が必要らしいんですが、それは私が反則な力の持ち主。なんか要らないみたいです。
さて、今晩の献立ですが。厨房班がしゃしゃり出てきたなら丁度いい。
キクスイ遠征組の評価を待たずに本隊を堕としちゃおう。
という訳で、まずはここにいる厨房班の賄いに、椎茸・しめじ・エノキ、こんにゃく、鶏肉の炊き込みご飯。
エリンギのバター焼き、なめこのお味噌汁を投下。きーのこきのこの大行進です。
あ、ミズーリと姫さんはハウス。家の中でアイスでも食べてて下さい。
「えー。」
「えー。」
うちのご飯が特別製な事を忘れましたか?
それに、ツリーさんが隠れているのに、君達だけ先に食べさせる訳ないでしょ。
万人の胃袋を満たすキノコの入ったドラム缶を何本も厨房班が、荷車に乗せて引っ張っていきます。
私はマリンさんに、炊き込みご飯の変わり種レシピを授けたところ、
「いつまで陛下におんぶに抱っこでは、私達の沽券に関わります。倉庫にある食材で陛下に美味しいと言って頂ける料理を作りますわ。」
という訳で明日の朝食は自分で工夫して新料理を作るそうです。
ところで、今私の事を閣下とか言ってませんでしたか?




